2013年 8月 1日公開

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「これって労災?通勤災害編」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

前回に引き続き労災保険の基本について勉強しましょう。今回は【通勤災害編】です。

「これって労災?【通勤災害】」の巻

1)通勤災害とは

通勤災害とは、労働者が通勤のための移動に起因して起こった災害を言います。通勤途上の災害は、本来業務上の災害とは言えませんが、まったくの私的行為とも言えないことから、業務との関連性に着目して通勤災害保護制度が設けられています。保険給付の内容は業務災害とほぼ同様です。

通勤の範囲は?

平成18年より通勤の範囲が拡大され、「複数就業者」「単身赴任者」の通勤の形態までが含まれるようになりました。

[通勤の形態]

通勤の形態

「複数就業者」とは?

複数就業者とは、いわゆるWワークで働く人のことです。A社で勤務した後、B社でアルバイトするなど、近年ではよく見かけられます。A社からB社への移動中の災害も通勤の範囲とされ、通勤災害と認定されます。

同一企業内における営業所間の移動は?

A社のうち、B営業所とC営業所の2カ所で勤務するような場合、B営業所からC営業所への移動は業務中となり、業務災害となります。

業務災害との違いは?

通勤災害は、事業主の支配・管理下で起こったものではないので、労働基準法では、事業主に対して、災害補償責任が課せられていません。
また、労災保険の保険料は通勤災害の保護に要する分も含めて全額事業主負担ですが、通勤災害については上記の理由から、労働者も費用の一部を負担するのが公平であると考え、被災労働者から一部負担金*を徴収することとされています。

  • * 実務上、病院等で療養給付(治療という現物給付)を受給する際は、一部負担金は徴収されていないようです。

通勤災害、6つの要件

通勤災害と認められるには次の要件を満たしていることが必要です。

  1. 通勤によること(通勤に通常伴う危険が具体化されたこと)
  2. 就業関連性があること
  3. 住居と就業場所との往復であること
  4. 合理的な経路および方法であること
  5. 業務の性質を有するものでないこと
  6. 通勤の逸脱・中断に該当しないものであること

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2)通勤災害の認定

どんな場合が通勤災害と認定されるのか、以下ケーススタディーを交えながら、それぞれの要件について解説します。

(1) 「通勤に通常伴う危険」とは?

例えば通勤中、同じ駅の階段で転倒したとしても、「通勤に通常伴う危険」であったかどうかで判断されます。すなわち「当該通勤がなければ、当該災害を被らなかったであろう」と認定されることが条件です。

○ 駅の階段でつまずいた

駅の階段につまずいて転倒したときは、「通勤に通常伴う危険が具体化された」として通勤災害に該当します。

× 駅の階段で急性心不全に

駅の階段を上る途中、急性心不全で死亡した場合などは通勤災害としていません。このようなケースは「通勤に通常伴う危険」ではないため、(1)「通勤によること」の要件を満たしていないとしています。

(2) 「就業関連性」とは?

仕事との関連性があるかどうかです。例えば、仕事が終わってから社内でプロ野球の試合をテレビ観戦し、その後の帰宅途上で起こった災害は、同じ事実であっても、その行為に「就業関連性があるか否か」が判断されます。

× 私的行為だった

仕事が終わった後、長時間*にわたるテレビ観戦といった私的行為があった場合、就業との関連性が失われます。

○ 私的行為であっても

社会通念上、ごく短時間*(一服しながらの雑談に要した時間程度)のテレビ観戦であれば、就業関連性は失われないものと考えられます。

  • * 就業関連性は、単純に短時間か長時間かで線引きされるわけではなく、個別の事案ごとに判断されます。

(3) 「住居と就業の場所との往復」とは?

通勤災害は「住居と就業の場所との往復であること」が要件です。この場合の「住居」は自宅とは限りません。例えばホテルなどに泊まっていて、そこから就業の場所に移動する途上で起こった災害も通勤災害として認定される場合があります。

○ やむを得ない事情がある場合

台風の影響で帰宅することができず、会社近くのホテルに泊まった翌日、ホテルから会社へ向かう途中で災害に遭った場合のように、自然現象等の不可抗力的な事情によりやむを得ないときは、ホテル等の宿泊を「一時的に居住の場所を移したもの」として通勤災害を認めています。

× 特に事情がない場合

特別な理由なく友人宅に泊まり、その友人宅から通勤したような場合は当然認められません。

× 出勤前に自宅で転倒した場合

また住居と就業の場所との往復とは、「不特定多数の者の通行を予定している場所」としています。従って、自宅の玄関先で転倒した場合でも、自宅敷地内であれば通勤災害には該当しないとしています。

× 始業前に会社の敷地内で転倒した場合

会社敷地内から更衣室に向かう途中で転倒した場合も通勤災害としていません(不特定多数の者が通行を予定した場所での災害ではなく、事業主の管理下における災害、つまり業務災害としています)。このケースは始業前なので通勤災害と思われがちですが、会社敷地内での災害なので、会社敷地内に入った時点で通勤は終了となります。厳密な通勤の定義は、「自宅敷地の外から会社敷地の手前まで」ということです。

(4) 「合理的な経路および方法」とは?

通勤は「合理的な経路および方法」であることが要件となっています。このときの合理的な経路および方法は必ずしも一つとは限りません。例えば会社に電車で通勤することを申し出ている社員が、健康のためにと自転車で通勤していて転倒して負傷した場合は、次のような解釈になります。

○ 通常は自転車通勤でも

会社には「電車通勤」と申し出ていて、会社側が実費相当額の通勤手当を支給していたとしても、自転車による通勤が「合理的な経路および方法」であれば通勤災害に該当します。

× 非常識な場所・走り方の場合

合理的な経路と方法が要件ですから、公道でないような場所(通行できないような山林の中、通行が禁止されている区域など)を自転車で走行する、また二人乗りで道路を蛇行するなど、著しく危険な運転での災害は認められません。

△ 住居と就業の場所との経路を逸脱した場合、または中断した場合

住居と就業の場所との経路を逸脱した場合、または中断した場合はその後を通勤として認めていません。しかし、例外として日常生活上必要な行為であって最小限度の逸脱・中断であるときは、その後も通勤として認めています。例えば帰宅途中に、自宅近所のコンビニで日用品を購入するために立ち寄り、その後自宅へ向かう途中で発生した災害は通勤災害に該当します。

(5) 通勤の逸脱・中断について

原則

通勤の途中で経路を逸脱または中断した場合には、その逸脱または中断の間およびその後の経路は通勤とされません。
【逸脱】
合理的な経路をそれること
【中断】
通勤とは関係のない行為を行うこと

例外

(1)ささいな行為を行うに過ぎなければ、逸脱または中断とはみなされません。
(2)日常生活上必要な行為を、やむを得ない事由により行うための最小限度の逸脱や中断については、逸脱や中断の後について通勤とされます。

通勤の範囲

(逸脱のケース)
A駅からB駅まで行き乙鉄道に乗り換えてC駅へ向かうところ、丙鉄道に乗り換えてD駅で下車して友人と食事をした。その後、B駅まで戻り乙鉄道に乗り換えてC駅に向かった。
この場合、
就業場所からB駅まで…○通勤とされる
B駅からD駅まで… ×通勤とされない
食事中…×通勤とされない
D駅からB駅まで…×通勤とされない
B駅から自宅まで…×通勤とされない

(逸脱の例外)
最寄駅がD駅である医療機関で診察又は治療をうける場合(やむを得ない事由に限る)

就業場所からB駅まで…○通勤とされる
B駅からD駅まで…×通勤とされない
診察または治療中…×通勤とされない
D駅からB駅まで…×通勤とされない
B駅から自宅まで…○通勤とされる

(中断のケース)
B駅の駅ビル内で友人と食事をした。

就業場所からB駅まで…○通勤とされる
食事中(駅ビル内)…×通勤とされない
B駅から自宅まで…×通勤とされない

(中断の例外)
B駅の駅ビル内で夕食に用いる惣菜等を購入した。

就業場所からB駅まで…○通勤とされる
購入中(駅ビル内)…×通勤とされない
B駅から自宅まで…○通勤とされる

なお、ささいな行為にすぎない場合は逸脱・中断とはみなされない

例) 公衆便所を使用するため、一時的に合理的な経路から外れた
駅構内でジュースを立ち飲みした
など

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3)出張先への移動中の災害は

自宅から出張先へ直行する場合、その移動中の災害は通勤災害に該当しません。出張先への移動は、事業主の管理下にはないものの、事業主の支配下にあり、業務の性質があるので業務災害に該当します。ただし、積極的な私的行為による事故は業務災害として認められません(出張地に向かう途中での観光など)。

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4)給付申請の手続きは

手続き自体は業務災害とほぼ同様です(「これって労災?業務災害編」の巻参照)。
ただし、保険給付の名称は、業務災害の場合「補償」という文字が入りますが、通勤災害の場合は入りません。例:休業補償給付支給請求書(業務災害)、休業給付支給請求書(通勤災害)。当然ながら保険給付請求用紙は異なるのでご注意ください。

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