2013年 9月 1日公開

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「老後だけではない!厚生年金保険給付」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

厚生年金保険と言えば、職業生活を引退してからもらうものというイメージが強いかもしれません。しかし、厚生年金では、病気やケガで障害が残った被保険者に「障害年金」、死亡したときは遺族に「遺族年金」が支給されます。ですから、現役中で厚生年金保険料を納付している期間でも厚生年金の受給権を取得する場合があることを知っておくことは大事です。そんな「老後だけではない!」厚生年金保険給付。まずは基本から勉強を始めましょう。

「老後だけではない!厚生年金保険給付」の巻

1) 厚生年金保険の基本

社会保険の適用事業所*に雇用される人は、原則として厚生年金保険は強制加入となります。また、健康保険は加入して、厚生年金保険は非加入といった選択もできません。

*社会保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所**についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて社会保険の適用事業所となります。

**ちなみに、従業員が常時5人未満の個人事業所については、従業員の同意により任意適用事業所となることができます。

年金制度は2階建て構造

厚生年金に加入している人は必ず、国民年金に加入します。従って、国民年金から基礎年金が支給され、それに上乗せするかたちで厚生年金から報酬比例の年金が支給されるという2階建ての仕組みになっています。
また、厚生年金保険では下の表のように、老後にもらう「老齢厚生年金」だけでなく、障害の状態となったとき、死亡したときにも支給されます。

 所定の年齢に達したとき病気やケガをして
障害の状態となったとき
死亡したとき
2階
厚生年金
老齢厚生年金障害厚生年金遺族厚生年金
1階
国民年金
老齢基礎年金障害基礎年金遺族基礎年金

厚生年金保険は70歳まで加入

厚生年金保険は70歳に達する日に被保険者資格を喪失することとなっています。従って、老齢厚生年金をすでに受給している人でも、適用事業所に雇用されている場合は、70歳に達するまで厚生年金保険に加入*します。

*保険料を払い続けることになるので、その後(退職して被保険者資格を喪失後)、年金額は再計算され、増額されることになります。

ちなみに、国民年金は20歳からですが、厚生年金では入社時点から加入となります。中卒入社の人は16歳から厚生年金加入となります。

厚生年金保険料の料率は?

厚生年金保険は、最終的な保険料率の水準を法律で定め、その負担の範囲内で年金給付を行うことを基本としています。

現在は厚生年金保険料を段階的に引き上げているところで、平成29年9月からは最終的な保険料率1,000分の183(=18.3%)で、固定される見込みです。

平成24年9月1,000分の 167.66
平成25年9月1,000分の 171.20
平成26年9月1,000分の 174.40
平成27年9月1,000分の 178.28
平成28年9月1,000分の 181.82
平成29年9月1,000分の 183.00

参考 保険料の今後の推移

標準報酬月額 が200,000円の場合、厚生年金保険料は今後、次のように推移していきます。

平成24年9月~25年8月分
200,000 × 1,000分の167.66 = 33,532円(会社負担および個人負担 16,766円)

平成25年9月~26年8月分
200,000 × 1,000分の171.20 = 34,240円(会社負担および個人負担 17,120円)

平成29年9月以降分
200,000 × 1,000分の183.00 = 36,600円(会社負担および個人負担18,300円)

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2)厚生年金の基本~外国人従業員の場合

外国人であっても社会保険の適用事業所に雇用される人は、原則として厚生年金保険に加入しなければなりません。
短期在留外国人、すなわち短期で帰国を予定している人であっても、被保険者期間中に障害厚生年金の受給要件を満たせば、障害厚生年金を受給することができます。

脱退一時金について

短期で帰国を予定している外国人は、厚生年金保険料が掛け捨てになってしまうという懸念があります。そこで、被保険者期間が6カ月以上あり、日本国籍を有していない人は「脱退一時金」を請求することができます。
なお、日本国と年金通算協定を締結している国の方は厚生年金の被保険者期間が自国でも通算されますので、脱退一時金の取り扱いが異なります。

脱会一時金の請求

請求は帰国後に本人が日本年金機構に対して行います。
日本年金機構のホームページには「中国語」や「韓国語」の用紙が用意されています。

ただし、次のケースに該当するときは支給されません。

  • 日本国内に住所を有するとき*
  • 障害厚生年金その他の政令で定める保険給付の受給権(年金をもらえる権利)を取得したことがあるとき**
  • 最後に国民年金の被保険者資格を喪失***した日から2年を経過しているとき

*まだ帰国せず、日本に滞在していることです。この場合、国民年金の被保険者に該当します。

**障害の状態にあり、障害厚生年金の裁定請求をして受給権を取得した場合です(裁定請求を参照)。この場合は保険料の掛け捨てにならないので、脱退一時金の請求はできないことになります。また、実際に年金をもらったか否かではなく、受給権が確定した時点で、脱退一時金は請求できなくなります。

***帰国することにより、厚生年金および国民年金の被保険者資格を喪失します。つまり、帰国してから2年以内に請求しなければなりません。

その他、脱退一時金の額や請求方法などの詳細は、日本年金機構のホームページへ。

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3)厚生年金保険の給付

厚生年金保険では、被保険者の「老齢」「障害」「死亡」を保険事故として給付を行います。
それぞれ、老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金として被保険者またはその遺族に対して年金等が支給されます。

裁定請求とは?

年金を受給するための請求のことです。最近では、老齢厚生年金の受給開始年齢が近づくと、個人宛てに裁定請求書が送られてきます。

老齢・障害・遺族、いずれの年金も裁定請求をしなければ年金を受けることができません。特に障害・遺族年金は、自ら受給資格があることを確認しなければなりません*。

*通常では、障害または遺族厚生年金の裁定請求書が送られてくることはありません。

a. 障害厚生年金の給付

次の3条件をすべて満たしていることが必要です。

給付の3条件

  1. 障害の原因となった病気やケガにつき初めて医療機関で受診した日(初診日)において被保険者であったこと
  2. 障害認定日において、障害の程度が一定の障害の状態にあること
  3. 一定の保険料納付要件を満たしていること

1.の要件は、障害の原因が厚生年金保険の被保険者期間中にあったか否かを判断します。ここで重要なのが、初めて医療機関で受診した日(初診日)が被保険者期間中であることです。

2.の要件は、障害の程度です。障害認定日とは、初診日から1年6カ月が経過した日、または病気やケガが治癒した日を言います。この日の時点で障害等級(1級~3級)に該当すれば障害厚生年金の受給要件を満たします。3級以下の障害は障害手当金の支給となります。

障害の認定基準については、日本年金機構のホームページへ。

日本年金機構ホームページ

3.の要件は、国民年金の保険料納付要件を指しますが、厚生年金被保険者は、国民年金の第2号被保険者となっていますので、通常はこの要件を満たすことになります。

診断書等の提出

障害年金の請求をする際、日本年金機構所定の診断書を提出します。この診断書は、初診日の医療機関(医師)が作成しなければなりません。また、本人が日常生活に関する事項を申し出る書類もあります(ほとんどの場合、両方の書類の提出が必須です)。

b. 遺族厚生年金の給付

遺族厚生年金は、次の場合に、その遺族に支給されます。

給付の条件

  1. 厚生年金の被保険者が死亡したとき
  2. 厚生年金の被保険者であった人が、被保険者期間中に初診日のある病気やケガが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
  3. 1級・2級の障害厚生年金の受給権者が死亡したとき
  4. 老齢厚生年金の受給権者か、受給資格期間を満たしている人が死亡したとき

被保険者でなくなってからの死亡でも

厚生年金保険の被保険者が死亡したときはもちろん、被保険者でなくなった場合でも死亡の原因である病気やケガの初診日が被保険者期間中であって、初診日から5年以内に死亡したときは遺族厚生年金の受給権が発生します。
また、1級・2級の障害厚生年金や老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合も同様です。

「受給資格期間を満たしている人」とは?

老齢厚生年金の受給開始年齢に達すれば、老齢厚生年金を受給することができる人のことです。受給資格期間は、原則として厚生年金保険の被保険者期間が1カ月以上あり、厚生年金保険と国民年金の被保険者期間を合算して25年以上となります。

遺族厚生年金の受給者とは?

死亡した人の遺族となりますが、その範囲は1.子のある妻*または子、2.子のない妻、3.55歳以上の夫・父母・祖父母、4.孫、となります。

【注意1「妻」とは?】
死亡した時点での遺族に限られます。極論を言えば、死亡日の1日前に離婚した妻は遺族に該当しません。

【注意2「子」「孫」とは?】
子と孫は18歳到達年度の末日までの人、または20歳未満で1級または2級の障害のある人を言い、現に結婚していない場合に限られます。

【注意3「夫・父母・祖父母」の場合】
第3順位の55歳以上の夫・父母・祖父母は、遺族厚生年金の支給開始が60歳からとなります。

【注意4「子のない30歳未満の妻」の場合】
子のない30歳未満の妻が受給する遺族厚生年金は、夫が死亡した日から5年が経過すると支給されなくなります。当然ながら再婚すると支給は終わります。

【注意5 年収による制限】
すべての遺族に共通ですが、年収850万円を超え、かつ今後5年以内に年収850万円を下回らないことが確実である場合は受給権者となることができません。

遺族厚生年金は、子や妻を強く保護しています。厚生年金保険の被保険者である妻が不幸にも死亡したときでも、夫が遺族厚生年金を受給するケースは少ないと言えます。妻が死亡したときに夫は55歳以上でなければ遺族年金がもらえないことになっています。逆に夫が死亡したとき、妻の年齢要件はありません。

遺族年金と自身の老齢年金を受給できる場合

遺族年金と自身の老齢年金を受給できる場合、どちらの年金をもらうかを選択します。老齢年金を受給しているときに、遺族年金の受給権を取得した場合も、選択替えをすることができます。また、受給者が65歳以上であるときは、自身の老齢年金の2分の1と遺族年金の3分の2を合算して受給することもできます。

c. 障害厚生年金・遺族厚生年金の年金額

いずれの年金も定額給付ではありません。

被保険者が保険料を納めた期間とその保険料額で計算されます。これを「報酬比例の年金額」と言います。この報酬比例の年金額を基準として以下のように年金額が決まります。

【1級の障害厚生年金】
報酬比例の年金額 × 1.25 + 障害基礎年金(国民年金)+(配偶者加給)

【2級の障害厚生年金】
報酬比例の年金額  + 障害基礎年金(国民年金)+(配偶者加給)

【3級の障害厚生年金】
報酬比例の年金額

【子または子のある妻の遺族厚生年金】
報酬比例の年金額 × 0.75 + 遺族基礎年金(国民年金)+(子の加算額)

【子のない中高齢の妻の遺族厚生年金】
報酬比例の年金額 × 0.75 + 中高齢の加算

【その他の遺族が受ける遺族厚生年金】
報酬比例の年金額 × 0.75

年金額は、個人ごとに変わります。その他にも最低保障や生年月日に応じた支給額の適正化措置、受給権者(遺族)の人数などによって異なります。詳しくは近くの年金事務所や社会保険労務士に聞いてみるのもよいでしょう。

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4)厚生年金保険の事務手続き

近年では、「年金定期便」が送られてくるので、自身の加入歴や今までの保険料納付額などが確認できます。

年金事務所等には相談窓口があり、担当者が詳しく丁寧に年金制度について教えてくれます。特に、障害厚生年金や遺族厚生年金を裁定請求する場合は、一度、相談窓口で詳しく説明を聞くとよいでしょう。

相談窓口の利用法

相談窓口を利用する場合は、年金手帳と身分証明書を持参すること。また、家族の相談(例えば、妻が夫の年金を調べたりする場合)については、対象者の委任状が必要です。
相談窓口の開設時間ですが、年金事務所によっては、午後7時まで開設している場合もあります。
また、年金支給日である偶数月の15日前後は比較的混雑しているようです。月曜日や午後の時間帯もやや混雑していることがあります。

事務手続きをするのは?

厚生年金保険の裁定請求は原則として本人またはその委任を受けた人(親族または社会保険労務士などの専門家)です。

人事労務担当者がすべき事務は?

会社の人事労務担当者が本人から委任を受けることはプライバシーの関係や煩雑な事務手続きなどから、ほぼ皆無と言ってよいでしょう。人事労務担当者が行う事務は、厚生年金保険の被保険者資格の取得および喪失手続きくらいです。

注意!

人事労務担当者として厚生年金保険の基本的な部分は理解しておくべきです。今後は少子高齢化の進展にともない、老齢厚生年金の受給権者が引き続き職業に就くことが予想されます。今回では触れていませんが「在職老齢年金*」の制度をよく理解しておく必要があるでしょう。

*在職老齢年金とは、老齢厚生年金の受給権者が社会保険の適用事業所に雇用され、厚生年金保険の被保険者となっている場合、標準報酬月額と年金受給額から一定以上の収入がある場合に年金の全部または一部を停止する制度です。

会社で行う手続き~従業員が死亡した場合や障害が残った場合~

従業員が死亡した場合や障害が残った場合、健康保険による給付手続きがあります。高額療養費または限度額認定申請は被保険者個人でできます(事業主の証明等は不要)が、会社が行うことも多いと言えます。
また、傷病手当金や埋葬料は事業主の証明が必要なので、会社が手続きをすることが一般的です。療養している社員への負担軽減という意味でも、会社が手続きをすることが望ましいと言えるでしょう。

「高額療養費」の請求

療養中は医療費が高額になることもあります。1カ月あたりの医療費自己負担額が一定額を超えると、超えた分が高額療養費として健康保険から給付されます。
あらかじめ医療機関で支払う医療費を自己負担の限度額までに止めることもできます。そのためには、「健康保険限度額適用認定申請書」を協会けんぽ等に対して会社が手続きをします。

「傷病手当金」の請求

療養のため就労することができないときは「傷病手当金」を請求することができます。これは休業のため給与を受けられない期間の所得保障であり、おおむね標準報酬月額の3分の2が給付されます。

「埋葬料(費)」の請求

不幸にして死亡してしまったときは、「埋葬料(費)」の請求をします。請求は遺族の名で行いますが、手続き自体は会社で行います。

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