2014年 9月 1日公開

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「社会保険料の基本知識」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

毎年9月には事業主から提出される算定基礎届などに基づき「社会保険料」が算出されます。また、9月(10月支払い給与)からは、厚生年金保険料率の変更もあります。というわけで、この機会に、社会保険料の基本知識を、控除の方法も含めて一度整理しておきましょう。

「社会保険料の基本知識」の巻

保険料の基本

健康保険制度や厚生年金保険制度は、保険料と国庫負担で運営されています。保険料は、被保険者の標準報酬月額や標準賞与額に保険料率を掛けた額で、これを事業主と被保険者で負担します。

保険料額の計算方法

毎月の保険料額= 標準報酬月額 × 保険料率
賞与の保険料額= 標準賞与額  × 保険料率

以下、健康保険、介護保険、厚生年金保険、児童手当拠出金、後期高齢者医療制度の保険料・拠出金について解説します。

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健康保険の保険料

健康保険料の仕組み

健康保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率を掛けて計算されます。

健康保険料は一般保険料と介護保険料で構成されています。40歳以上65歳未満の被保険者は健康保険料+介護保険料の合計額を、それ以外の被保険者は一般保険料を負担することになります。

一般保険料には加入者への各種保険給付をはじめ、保健・福祉事業に使われる「基本保険料」、高齢者医療制度等への支援金に使われる「特定保険料」があります。

また、健康保険組合に加入している事業所においては、「調整保険料」が加えられます。これは全国の健康保険組合が共同で行っている「共同負担事業」等の財源を確保するため、各組合が拠出している保険料です。

<保険料の仕組み図>

保険料の仕組み図

一般保険料率(全国健康保険協会管掌健康保険=協会けんぽの保険料率)

一般保険料率は都道府県支部単位で設定されています。年度によって改定がありますが、平成26年度の健康保険料率は据え置かれています。

【都道府県単位一般保険料率】

北海道10.12%石川県10.03%岡山県10.06%
青森県10.00%福井県10.02%広島県10.03%
岩手県9.93%山梨県9.94%山口県10.03%
宮城県10.01%長野県9.85%徳島県10.08%
秋田県10.02%岐阜県9.99%香川県10.09%
山形県9.96%静岡県9.92%愛媛県10.03%
福島県9.96%愛知県9.97%高知県10.04%
茨城県9.93%三重県9.94%福岡県10.12%
栃木県9.95%滋賀県9.97%佐賀県10.16%
群馬県9.95%京都府9.98%長崎県10.06%
埼玉県9.94%大阪府10.06%熊本県10.07%
千葉県9.93%兵庫県10.00%大分県10.08%
東京都9.97%奈良県10.02%宮崎県10.01%
神奈川県9.98%和歌山県10.02%鹿児島県10.03%
新潟県9.90%鳥取県9.98%沖縄県10.03%
富山県9.93%島根県10.00% 

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介護保険の保険料

健康保険に加入している40歳以上の人は、すべてが介護保険の被保険者になります。40歳以上65歳未満の人は、介護保険の「第2号被保険者」(注)として40歳の誕生日の前日が属する月から、健康保険の保険料と一緒に介護保険料を納めます。

(注)介護保険の被保険者は年齢で次の二つに分けられ、サービスの利用内容や保険料の納め方などが異なります。

[第1号被保険者]……65歳以上の人
病気等の原因を問わず、寝たきり・認知症などにより介護が必要、日常生活に支援が必要と認められた場合、介護サービスを利用できます。

[第2号被保険者]……40歳以上65歳未満の人
末期がん、関節リウマチなどの加齢による16種類の「特定疾病」により介護が必要になった場合に限り、介護サービスを利用できます。

健康保険の加入者が65歳になると、自動的に介護保険の「第1号被保険者」となり、介護保険料は老齢年金から天引き、もしくは口座振替などで徴収されます。

保険料率の引き上げ

介護保険料率は保険者によって異なりますが、協会けんぽは全支部一律です。以下のとおり平成26年3月分(4月納付分)より1.55%から1.72%へ引き上げられました。

 改定前改定後
介護保険料率15.5/100017.2/1000
被保険者・事業主負担分7.75/1000ずつ8.60/1000ずつ

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厚生年金保険の保険料

厚生年金保険の保険料も健康保険と同様、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率を掛けて計算されます。また、保険料は事業主と被保険者とが半分ずつ負担します。

厚生年金保険の保険料は、平成16年の年金制度改正によって、平成16年10月から平成29 年度まで毎年9月に0.354%ずつ引き上げられ(注)、平成29年9月から18.3%で固定されることになっています。

(注)被保険者の区分に応じて引き上げ率は異なります。

<厚生年金保険料率グラフ>

厚生年金保険料率グラフ

厚生年金基金に加入している場合の保険料

【厚生年金基金とは】

厚生年金基金は、厚生年金の一部を国に代わって支給する(代行部分)とともに、企業の実情に合わせて上乗せ給付を行う(プラスアルファ部分)ことで、従業員により手厚い老後所得を保障する制度です。

【厚生年金基金の保険料率】

厚生年金基金に加入している事業所の被保険者は、基金が国の老齢基礎年金の一部を代行しているので、その部分の保険料の納付を免除されています。ただし、免除された部分は厚生年金基金に掛け金として納めます。

<厚生年金基金の保険料の仕組み>

厚生年金基金の保険料の仕組み

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児童手当拠出金

児童手当→子ども手当→児童手当

児童手当は、平成22年から3年の間に名称がたびたび変更されました。それに伴い、受給要件や給付額も改定が繰り返されています。児童手当拠出金は、この児童手当の財源の一部に充てられるものです。事業主は、事業所に手当を受給している人がいるかどうかに関係なく、被保険者全員分の児童手当拠出金を負担しなくてはなりません。

児童手当拠出金率

児童手当拠出金は、厚生年金被保険者全員の標準報酬月額を合算したものに料率を掛けた金額を厚生年金保険料と一緒に納めます。ただし、これを負担するのは事業主だけで、従業員負担はありません。平成26年4月からの児童手当拠出金率は平成25年度と同じ0.15%です。

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後期高齢者医療制度

健康保険の加入者(被保険者・被扶養者)が75歳になると、健康保険の資格を喪失し、新たに後期高齢者医療制度に加入します。

後期高齢者医療制度の保険料は、都道府県単位で設定され、加入者全員が保険料を納付します。それまで保険料負担ゼロの健康保険の被扶養者だった人も保険料を負担するようになります。ただし、急激な負担増とならないように軽減措置が講じられています。

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保険料の控除

給与からの控除

事業主は、被保険者負担分の前月分の社会保険料を給与から控除(天引き)します。
つまり、今月支払われる給与から控除される保険料は、前月の社会保険料が控除されていることになります。
従って、定時決定による新しい標準報酬月額や9月改定の厚生年金保険料率は、9月分の保険料から適用されますが、適用後の保険料を控除するのは10月に支払われる給与からになります。

資格取得月と資格喪失月の保険料

保険料は月単位で納付します。つまり保険料は日割り計算をすることはないのです。なお、同じ月に資格取得日と資格喪失日(退職日の翌日)がある場合には、その月の分の保険料が1カ月分発生します。

【資格を取得した月】

月の途中から被保険者となった場合でも、1カ月分発生します。

【資格を喪失した月】

その月の保険料は発生しません。

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保険料についての疑問

保険料の端数は?

保険料の事業主負担分・被保険者負担分には、1円未満の端数が生じることがあります。こんな場合は事業主と被保険者の間に端数処理についての特約がない限り「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第3条(債務の支払金の端数計算)により取り扱うことになっています。すなわち、「50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ」というかたちで端数処理をします。

月末退職の場合は?

資格喪失日は退職日の翌日になるので、月末に退職した場合は、退職月の保険料が発生します。この場合、事業主は「前月分と当月分の保険料」を控除できます。

資格取得届の遅延等により発生した前月以前の保険料は一括控除できる?

給与から控除できるのは「前月分の保険料」となっています。従って、何らかの理由で前月以前分の精算があったとしても、給与から控除することはできません。そのため、事業主は別途被保険者に求償する必要があります。

保険料の納付が遅れると?

納付が遅れると督促状が送られてきます 。督促状の指定期限までに納めれば、問題ありませんが、それを過ぎると、本来の納付期限の翌日から3カ月間年利4.3%、その後は年利 14.6%の延滞金が加算されます。

被保険者が65歳になったときは?

65歳になると、介護保険第1号被保険者となり、介護保険料は年金等から控除されます。従って、介護保険第2号被保険者の保険料は控除できません。

被保険者が75歳になったときは?

国内に居住する75歳以上の人(注)は全員、それまでに加入していた健康保険の資格を喪失し、後期高齢者医療制度に加入します。従って、健康保険の保険料は、75歳の誕生日の前月分までしか控除できません。

(注)該当者がいる場合、協会けんぽに加入している事業所 には、被保険者情報が印字された「資格喪失届」や被保険者・被扶養者情報が印字された「被扶養者(異動)届」が年金事務所から送られてきます。必要事項を記入して、被保険者証や高齢受給者証を添えて返送します。

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