シリーズ記事
1 Revit鉄骨モデルを作る
連載3回まで二つのBIMアプリケーションRevitとARCHICADを比較しながら使ってきた。今回はBIMアプリケーションではないが、一貫構造計算ソフトウェアのSuper Build/SS3(ユニオンシステム)を取り上げる。
BIMアプリケーションではないSS3をBIMアプリケーションのRevitと連携させて使う。SS3はその最新バージョンであるSS7というのが登場しているがSS7とRevitの連携はまだできていないようだ。
一般的なSS3とRevitとの連携は本連載の2015年8月の回「建築-構造-設備モデルを重ねる? 構造をRevitで」でも紹介したので、ここではちょっと変わった使い方をしてみたい。SS3で入力された構造計算データを使って鉄骨の工作図(鉄骨工場で鉄骨を作成するときに使われる製作用の図面)を作成してみる。BIMで構造モデルを作成して、それをSS3にエクスポートして構造計算して問題があればSS3で修正して、Revitにインポートしてさらにモデルを整える。そんな使い方が構造設計者のBIM王道だろうが、今回は違う。構造設計者からSS3での計算データを受け取ったファブ(鉄骨製作工場)が工作図を作るときに使えるのではないかという発想だ。
「Revitで製作図を作れますか?」とよく聞かれる。そんな質問への回答でもある。
参照:2015年8月「建築-構造-設備モデルを重ねる? 構造をRevitで」
今回使用するSS3で作成された鉄骨造モデル
2 SS3で入力された鉄骨をRevitに
Revit 2017で、一貫構造計算ソフトウェアのSuper Build/SS3で作られたCSVファイルを読み込む。使用するのはサブスクリプション メンバーや教育版ユーザーならAPP STOREから無償でダウンロードできるオートデスク製の「SS3 Link 2017」だ。
APP STOREの「SS3 Link 2017」
手順の詳細は付属のヘルプドキュメントに譲るが、ポイントはテンプレートにサンプルとしてついてくる「SS3-List_Structure-Template2017.rte」を使うことだ。このテンプレートを使わないと、変換用の柱や梁のファミリが存在しないことになりうまくいかない。
Revitから「SS3 Link 2017」を使ってSS3で作成されたCSVファイルをインポートすると図のようなモデルが作成される。筆者の環境で、1分余りで作成された。
ここでは図の左手前、1本の柱の工作図を作成してみよう。
SS3からインポート、Revit 2017に表示された構造モデル
3 フレーム全体を正しい形状に
SS3で構造計算用のモデルでの斜めの片持ち床も長方形で入力し、荷重だけあって剛性のない壁なども入力している。基礎梁なども鉄骨には関係ないのでそれらを取り除いたモデルにする。
さらに分かりやすいように、工作図の対象とする左手前の柱とそれに取りつく梁のみを表示したのが次の図だ。
対象とする柱と梁
4 柱のダイアフラムの高さ
なぜか柱のダイアフラムの位置が正しくない。梁の下フランジと一致すべきところがずいぶん下にずれてしまっている。筆者がSS3で入力を間違ったのかもしれない。まずはここを修正する。
ダイアフラムの位置(レベル)が正しくない
柱を選択して柱のプロパティ「Bottom_Girder_Height」の値が「500」になっていたのを「250」に変更する。これで下側のダイアフラムが梁せい250の大梁の下フランジ位置に合わされた。
柱のプロパティ「Bottom_Girder_Height」を変更して正しいダイアフラム位置に
5 柱のベースプレート
ベースプレートにはRevit標準のファミリを使える「構造接合部」から「鉄鋼」のフォルダーにある「柱ベースプレート4穴」をロードし図のような位置に配置する。ベースプレートの板厚はタイププロパティで、大きさと穴の径・位置はインスタンスプロパティで設定する。
配置されたベースプレートのプロパティ
6 柱-梁接合部
柱と梁の接合部を整える。SS3からインポートした状態で、ちゃんとダイアフラムの柱面からの出寸法25mm分だけ梁フランジよりウェブが突出している。ところが位置が正しくない。平面図表示に切り替え梁を選択すると図の赤枠のような三角形のドラッグコントロールが表示されるので、これをつかんでダイアフラムの縁まで移動する。これだけの操作で正しい梁位置になる。
梁端部の位置を正しい位置に
7 梁の継手
大梁の継手はH形鋼の剛接合だ。あまり海外では使われないらしく、Revitでは標準で用意されていない。ということは自分で作成するしかなく、筆者はこのH形鋼継手を作り、自社のWebサイトで無償公開している。図のような「Revit H形鋼標準継手ファミリ(フルバージョン)」だ。
ダウンロードしたH形鋼継手
この継手を今回の大梁の継手位置に配置してみる。
残念ながら大梁・小梁接合部もモデルとしてRevitには用意されていない。今回はこの部分の作成は省略する。
配置された梁の継手
8 図面にする
工作図という2Dの図面の作成にかかろう。柱の工作図には正面図、側面図、各梁のつく位置の平面図、さらに大梁と小梁の位置の断面図が必要だ。まずそれらの8個の断面を全てRevitの断面図ビューとして作成する。図は2階の梁レベルに配置された断面図記号だ。
断面図ビューでの線の色や縮尺の修正を簡単に済ますために「断面図」ビューテンプレートもあらかじめ調整しておいた方がいいだろう。
全8断面のうち2階梁レベルに配置された五つの断面
全部で八つの断面図ビューができたら、新しいシートを用意してそれらの断面図ビューをプロジェクトブラウザーからのドラッグ&ドロップで配置していく。1分もかからない操作だ。
この後、寸法の記入や引き出し線の記入など手間のかかる操作を残しているが、SS3からのインポートから1時間もかからずにこの工作図シートが作成された。ここからAutoCADに書き出して図面を仕上げるか、あくまでRevitで仕上げるかはそれぞれの判断になるだろう。
工場製作用の工作図としてはいくつかの問題点が挙げられる。これらの解決はRevitの進化が解決してくれるのか、別アプリケーションにつなぐことになるのか、筆者の研究課題としたい。
- 梁を継手部で切断しているわけでないので柱1本の重量が分からない
- 梁の継手部の添接板やボルトは非表示にして穴のみの表現にならない
- 大梁・小梁の接合部ディティールのモデルがない
- 溶接、開先、スカラップの詳細などは別の部分詳細図が必要になる
- 製作用のNCデータにつなぐアプリケーションがない
8個のビューが配置されたシート
※ 筆者追記問題点の3点目「大梁・小梁の接合部ディティールのモデルがない」について、いくつか新しい情報がある。
一つはオートデスクのSteel Connections for Autodesk Revit(Revit用鋼構造接合)というエクステンションだ。8月に更新されたので筆者も試してみたが、残念ながら日本標準の接合ではないので使えない。もう一つはカルテックが2017年にリリースするという「Revit鉄骨ディテール連携システム」だ。いずれもこれからのアプリケーションだろう。今後に期待したい。
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