この連載について
今回は仕上表を取り上げる。また仕上げ情報の表現例として図面に引出線を使った注記として書き込まれる情報について、そのBIMならではの作成方法を解説する。
1.仕上表と引出線を考える
BIM=Building Information Modelingの「I」、つまり情報(インフォメーション)は2次元や3次元の図形、さらに文字としても表現される。その文字で表現される情報が図面では「表」として読みやすい形で図面に置かれることになる。
このような「表」の例として、面積表、建具表をこれまでの連載で取り上げてきた。今回は仕上表を取り上げる。また仕上げ情報の表現例として図面に引出線を使った注記として書き込まれる情報について、そのBIMならではの作成方法を解説する。
下図が内部仕上表の例だ。ある部屋の壁や床、天井をどんな材料を使ってどのように仕上げるかが表にまとめられている。
内部仕上表の例
また次の図の「壁:AEP塗装」という書き込みが引出線による仕上げの表現だ。矢印の指している要素について、その名称や属性などを文字で表現している。
階段詳細図での引出線
2.ARCHICADで内部仕上表
最初にARCHICADを取り上げる。BIMアプリケーションARCHICADでは、この仕上表は「ゾーン」から自動で作成される。「ゾーン」は前回「面積表」の記事でも部屋名や面積を持つ要素として紹介したが、ある空間領域を示す高さを持った要素だ。
例えば「レストラン」ゾーンには次のような仕上げ情報を入力してある。
ゾーンに入力された仕上表用のデータ
各部屋のゾーンにこのような仕上げ情報を入力しておいて、次の一覧表設定でどの項目をフィールドとして表示するかを選択し、並び順なども整えると「内部仕上表」が自動的に出来上がる。
BIMなのでゾーンの属性データを変更すれば内部仕上表のデータも変更になる。逆に内部仕上表で複数の部屋の仕上げを一度に変更することもできる。データの整合性を維持するというBIMの目標の一つは達成されている。
一覧表設定で内部仕上表のデータをフィールドとして選択し、並べ替え
一覧表設定により作成された内部仕上表
3.ARCHICADでプロパティの追加
ARCHICADの「ゾーン」から「一覧表」への流れはほぼ自動化されているが、仕上げの情報を詳細図のような図面に書き込むときは一工夫が必要だ。詳細図に見えているモノ、つまりモデル要素にひも付けされた情報の設定が必要だ。ここでは壁に仕上げ情報を設定しておかないといけない。
ゾーンに入力された情報は、モノである壁の情報と直接は結びつかない。ゾーンに壁仕上げ「塗装」としてあるが、壁は「コンクリート打ち放し」という矛盾はありうる。今のところこれを解決する方法はARCHICADやRevitにはない。
ということで壁に新たに仕上げ情報を入力する必要がある。ところが、壁が持つ既定値では足らないことがある。例えば、物理的な壁の構成を示す複合構造の情報はあるが、仕上げ情報を示すプロパティの種類を増やしたいというような場合だ。
ARCHICADの「プロパティマネージャー」を使って、仕上げ情報をプロパティとして追加してみる。図のように「内部仕上げ」というグループを作成し、「No.」「仕上げ」「メーカー」の三つのプロパティを新たなプロパティとして追加した。またここではこれらのプロパティは「壁」のみで使えるようにしてある。次にこの新たな三つのプロパティの値を壁に追加する。
プロパティマネージャーでプロパティを追加
ほかにも外観を整える設定などを行って、出来上がった面積表をシートに貼り付けたのが次の図だ。図面上で壁の位置や「部屋」名を変更すればこの面積表も直ちに変更される。図面と面積表の食い違いなどはあり得ないことになる。書式などにはまだ改善点があるがBIMらしい生きた面積表だ。
壁に追加された「内部仕上げ」プロパティ
4.ARCHICADで引出線を使う
図面上の引出線を使ってこの「内部仕上げ」プロパティの値を表示してみよう。
下図のように「ラベルツール」を使い、タイプから「プロパティラベル」を選択し、壁のプロパティ値を使えるように設定する。壁を選択すると図のような引出線が作成される。少し面倒な手順のようだが一度設定しておけば後はワンクリックで使うことができる。
ラベルの設定
断面詳細図に配置された引出線
5.Revitで内部仕上表
ゾーンに仕上げ情報を入力して、一覧表で表にするというARCHICADを使って紹介した手順はRevitでもほぼ同じだ。「ゾーン」が「部屋」に「一覧表」が「集計表」に名前が変わるだけだ。
下図は部屋に入力された仕上げ情報と集計表の設定、その設定を使って内部仕上表として作成された集計表だ。
部屋に入力された仕上げ情報
集計表の設定
出来上がった集計表(部分)
6.Revit-Excel連携で手間を省く
集計表ができたがその修正は意外に面倒だ。Excelのように複数のセルに一括して入力したり、文字を置換したりすることができない。
RUTSという便利なツールが公開されているので、これを使うとExcelに書き出して変更、変更後のデータをRevitに書き戻すという操作が簡単にできる。次の図の内部仕上表で、壁の下地は全て「石膏ボード」にし、壁の仕上げは「EP-G塗装」にするという作業を例として取り上げよう。
変更前のRevitの内部仕上表
修正したい仕上表を表示した状態で「RUTS」タブにある「EXCEL」パネルの「エクスポート拡張版」を実行する。
「RUTS」の「エクスポート拡張版」
現在のビューに表示されている要素「部屋」を使うなど、幾つかの質問に答えるとExcelが起動し、下図のように一覧表の内容がExcelシートに表示される。色のついた背景のタイトルは削除・修正してはいけないシステムが使う列だ。このExcelシートでセルの値を変更する。コピー・ペースト、セルの一括入力などExcelの機能を使える。
Excelでセルの値を変更した
Excelでの変更が終わればそのまま「RUTS」タブにある「EXCEL」パネルの「インポート」を実行する。
「RUTS」の「インポート」
下図のようにExcelからRevitにデータが転送され、内部仕上表のセルが変更された。Excelだと数式を使うこともできるので応用範囲は広がる。
変更されたRevitの内部集計表
7.Revitで引出線を使う
壁に引出線を使って注釈を入れるのには二つの方法がある。タグを使う方法とキーノートを使う方法だ。
タグを使う方法は壁に入力された情報をそのまま利用するので間違いはない。ただし目的に合ったタグがない場合は「壁タグ」ファミリを自作しないといけない。ここでは次の図のような「タイプ名」と「コメント」を表示する「壁タグ」を作った。ファミリを作るといっても難しい操作ではない。適当なファミリを開いて「ラベル」を変更して、名前を付けて保存するだけだ。
作成した「壁タグ」ファミリ
この「壁タグ」を断面詳細図に配置したのが次の図だ。もちろん壁のプロパティが変更されるとこのタグも瞬時に変更される。
断面詳細図で「壁タグ」を使う
もう一つがキーノートを使う方法だ。Revitにあらかじめ登録されたキーノートには塗装の項目がないので、テキストエディターでRevitKeynotes_JPN.txtファイルに図のような「塗装」の項目を仮に追加した。
追加したキーノート
Revitで「要素キーノート」を使ってキーノートとして配置すると、図のようにあらかじめ登録された候補から選択して配置できる。コード(番号)によって分類されたキーノートだ。積算などに応用できると思うが筆者はここまでで精一杯だ。
引出線を使ってキーノートを配置
シリーズ記事
- 組み合わせて使うARCHICADとRevit【深掘りBIM/第1回】
- 面積表、仕上表、建具表をBIMで作る(1)【深掘りBIM/第2回】
- 面積表、仕上表、建具表をBIMで作る(2)【深掘りBIM/第3回】
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