2019年 1月15日公開

専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

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「知っておきたい税額控除の基礎」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

税額控除の制度を利用するか否かで、納付する税額は大きく変わります。実際に制度の適用を受けようとすると、複雑な条件の理解やそろえるべきデータが多いため、専門家の助けが必要になることも少なくありません。まずは、この制度について知ることが大切です。ここでは、税額控除についての基本的知識をご紹介します。

税額控除とは

税額控除とは、本来納めるべき法人税(算出後の税額)から、一定の金額を差し引くことができる制度です。
一般的には、国が推進する重点政策に関連して、その対象となる法人が一定の条件をクリアしたときに税額控除が適用される、といった例があります。例えば、国民の所得向上や景気拡大につながるようなこと、すなわち従業員の給与を引き上げたり、設備投資をしたりした場合に、控除が受けられる制度が整備されています。
税額控除には、複雑な税法規定を駆使して適用できるものが多いので、具体的にどんな場合にどんな条件で控除されるのかは、税理士、会計士などの専門家や、所轄の税務署に相談することをおすすめします。

ここでは、主な税額控除についてご説明する前に、その前提となる現在の法人税率を確認しておきましょう。次のとおり、開始事業年度(「平成28年4月1日~平成30年3月31日」と「平成30年4月1日~」)によって、一部、制度の変更点があります。ご注意ください。

平成28年4月1日~平成30年3月31日開始事業年度

課税所得期末資本金1億円以下期末資本金1億円超など
年800万円以下15%23.4%
年800万円超23.4%

平成30年4月1日~開始事業年度

課税所得期末資本金1億円以下期末資本金1億円超など
年800万円以下15%23.2%
年800万円超23.2%

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主な税額控除(恒久規定)

主な税額控除には、恒久的な制度と、喫緊の政策課題に沿った臨時措置的な制度の二種類があります。まず、恒久的な制度とは、法人税法上のもの(税法が改正にならない限り恒久的に適用される規定)で、次のようなものがあります。

(1)所得税額の控除

利息、配当等のうち日本国の所得税法の規定により源泉徴収された所得税がある場合には、法人税より税額の控除を受けることができます。

(2)外国税額の控除

外国で生じた外国税額について、租税条約等により一定の計算をした金額が、法人税から控除されます。外国で生じた所得に係る源泉税や、支店等により外国で納税した法人税等がある場合は、この外国税額控除の適用を受けられる可能性がありますので、留意しておいた方がよいでしょう。

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主な税額控除(臨時規定)

次に、租税特別措置法上のもの(政策により原則的に期限がある臨時的な規定)をご紹介します。

(1)試験研究を行った場合の法人税額の特別控除

製品の改良等で費用(試験研究費)を支払った場合には、一定の計算をして算出した金額を法人税から控除することができます。

特別控除の対象となる試験研究費の範囲は、次の二つに限られます。

  1. 製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する費用
  2. 対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究のために要する費用

注意事項

  1. 特別控除を受ける法人は、青色申告法人に該当しなければなりません。白色申告法人は税額控除を受けられない、ということです。
  2. 試験研究に係る税額控除については、特別試験研究、中堅・中小企業技術基盤強化制度などの規定があります。会社として製品の考案等で費用が発生した場合には、税理士等の専門家に相談しましょう。

(2)高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除

中堅・中小企業者等(注1)が産業用ヒートポンプやコジェネシステムなど高度省エネルギー増進設備等を取得等した場合には、取得価額の7%相当額の特別控除を受けることができます。(注2)こちらも青色申告法人であることに限定されています。

  • (注1)中堅・中小企業者等とは、次に掲げる法人、または、農業協同組合等に限られます。
  1. 資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
    ただし、同一の大規模法人に発行済株式または出資の総数または総額の1/2以上を所有されている法人および2以上の大規模法人に発行済株式または出資の総数または総額の2/3以上を所有されている法人を除きます。
  2. 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
  3. 平成31年4月1日に開始する事業年度より、事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円以下である法人
  • (注2)特別控除の対象となる事業者や設備は、細かく定められています。詳しい内容については、経済産業省「資源エネルギー庁」のWebサイトをご参照ください。

省エネ再エネ高度化投資促進税制(うち省エネ促進税制)について(経済産業省「資源エネルギー庁」のWebサイトが開きます)

(3)中堅・中小企業者等が機械を取得した場合の法人税額の特別控除

資本金の額が3,000万円以下の中小企業者等で、以下の設備を取得するなどして、指定事業の用に供した場合には、取得価額の7%相当額の特別控除を受けることができます。こちらも事業者は、青色申告法人に限定されています。

  1. 機械および装置……1台の取得価額が160万円以上のもの
  2. 器具および備品……電子計算機等で1台の取得価額が120万円以上のもの
  3. 工具……測定工具等で1台の取得価額が120万円以上のもの
  4. ソフトウェア……一定のソフトウェアで取得価額が70万円以上のもの
  5. 車両および運搬具……普通自動車で貨物の運送の用に供されるもののうち3.5トン以上のもの
  6. 船舶……内航海運業の用に供される船舶

指定事業は、以下のとおりです。

製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業を除きます)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業および沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、情報通信業、駐車場業、損害保険代理業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、映画業、教育、学術支援業、医療、福祉業、協同組合およびサービス業(廃棄物処理業、自動車整備業、機械等修理業、職業紹介・労働者派遣業、その他の事業サービス業)

なお、不動産業、物品賃貸業、電気業、水道業、娯楽業(映画業を除く)等は、対象になりません。また、性風俗関連特殊営業に該当する事業も対象となりません。

(4)給与等の引上げおよび設備投資を行った場合等の法人税額の税額控除

法人が国内雇用者の給与支給額を増加させた場合、一定の要件を満たすことで、法人税から税額控除を受けることができます。

また、平成30年4月1日から開始する事業年度より「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」の規定が廃止され、「給与等の引上げおよび設備投資を行った場合等の法人税額の税額控除」の規定に改組されました。

ここでは、中堅・中小企業者等に限定して、新制度の内容を要約してご説明します。

a.通常の要件

次の二つの要件(等式)を満たすと、税額控除額が15%となります。なお、「比較雇用者給与等支給額」とは、前事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入される、国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

b.上乗せ要件

上の二つ要件とは別に、次の「上乗せ要件」のいずれもを満たすと、さらに税額控除額がアップして、25%となります。

上乗せ要件1

上乗せ要件2

なお、給与等の引き上げを行った場合等の税額控除限度額は、以下のとおりです。

(雇用者給与等支給額―比較雇用者給与等支給額)×15%または25%

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/中川 誠

プロフィール

東京税理士会麻布支部所属。1972年生まれ。ベンチャー企業に対する税務申告および経営相談、相続コンサルティングなど幅広く行う。町医者のような会計事務所を目指している。

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