2019年 5月14日公開

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「年次有給休暇の年5日取得義務化」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

わが社の働き方改革……やる気はあるけれど、具体的に何から始めればよいのかと悩む経営者も多いことでしょう。折しも2019年4月から「年次有給休暇の年5日取得義務化」が始まります。そこで今回は働き方改革の主要項目の一つ、年次有給休暇取得の取り組み方について解説します。

有給休暇の基本

政府は「働き方改革」推進の一環として、年次有給休暇(以下、年休)の取得率を、2020年までに70%とする目標を掲げています。現在の平均取得率はおおむね5割程度(注1)。政府目標では、ここからさらに2割増やすということになります。

これに関連して2018年6月には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が成立。労働基準法が改正されたことで、「年次有給休暇の年5日取得義務化」という新しいルールが生まれました。まずは年休の基本から簡単に説明しましょう。

  • (注1)平成29年の年休取得率は51.1%、付与日数18.2日に対して9.3日が利用されています。

年次有給休暇の基本

年休は(1) 6カ月の継続勤務で、かつ(2)期間中の全労働日の8割以上出勤している従業員に対して、「10日」付与されます。その後1年が経過するごとに、直近1年間の出勤要件である(2)を満たせば、勤続年数に応じて下の【表1】のとおりの年休が与えられます。

【表1】

なお、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトであっても所定労働日数に応じて年休は付与されます。下の【表2】を見ると、週1日勤務のパートタイマーでも、要件を満たせば最大3日の年休が付与されることが分かります(青色の欄を参照)。

【表2】

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有給休暇取得の新ルール

年次有給休暇の年5日取得が義務化

これまでは、従業員が年休を請求しないまま時効の2年間が過ぎると、その権利は消滅していました。しかし、改正法が施行される2019年4月以降は、1年間に付与される年休のうち「5日」については、使用者が「時季指定」(注2)して取得させなければならないこととなりました。つまり、従業員から請求がなくても、会社は「少なくとも年5日」の年休を取得させる義務があるのです。この義務化ルールは企業規模に関係なく適用されます。

  • (注2)会社が年休を具体的に○月○日と特定することを「時季指定」と呼びます。

義務化ルールに違反した場合

違反すると従業員1人につき30万円以下の罰金が科せられます。実際に最高額が科せられるかどうかは別として、もし年休取得が5日未満の従業員が10人いれば、合計で最大300万円の罰金が科せられる可能性があることになります。そうなると、会社のために休まず働いてくれる従業員が、意図せずして会社に著しい不利益を及ぼしかねないリスク要因になってしまうということです。

義務化ルールの対象

1年で「10日以上」の有給休暇が付与される従業員(【表2】の黄色の欄に該当する従業員)が義務化ルールの対象となります。また雇用形態がパートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働日数が3日以上であれば、勤続年数によっては義務化ルールの対象となる可能性があります。所定労働日数が「週3日」であれば「勤続年数5.5年以上」、「週4日」であれば「勤続年数 3.5 年以上」の従業員が該当する点は注意が必要です(パートタイマーやアルバイトを含む)。

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義務化ルールへの対応

義務化ルールが適用されることで、年5日の年休すら取得できていない従業員が忙しい年度末に慌てて年休を一括取得しなければならないような状況になったら、一番困るのは会社です。そのような事態に陥らないように、日ごろから従業員が年休を取りやすい環境や仕組みを整備しておくことが大切です。

管理職が率先して年休取得

まずは管理職が率先して年休を取得することが、年休取得をしやすい環境づくりの第一歩となります。義務化ルールがスタートしたことで、部下の年休取得状況の管理は、管理職の新たな業務になるものと考えられます。もしそうであれば、万が一、年休を「5日」取得できない部下が出てきたときに困るのは管理職なのですから、何としても良き手本を示さねばなりません。

取得促進のために「計画的付与制度」

年休の計画的付与制度を活用する方法があります。これは、労働者代表と「労使協定」を締結することで、年休を一定の時期や期間に取得させることができる制度です。

例えば、飛び石連休の谷間の労働日や、閑散期の土日プラス1日を計画的に取得させる……などといった取得の仕方が考えられます。

取得促進のために「取得状況に応じて個別調整」

年休付与日から一定期間(四半期~半年)が経過するごとに年休の取得状況を確認。取得の進んでいない従業員には個別に希望日を聞いて、取得時期を調整することになります。この個別調整をスムーズに行うには「有給休暇付与日の統一」が有効です。

有給休暇付与日の統一

2019年4月1日以降、新たに年休を10日以上付与された従業員について、1年に少なくとも「5日」の休暇取得が義務付けられる。というのが法改正の骨子ですが、従業員それぞれに入社日が異なると、有給休暇が10日以上付与される日もまた異なります。例えば1月10日に入社した人は「7月11日」、1月15日入社した人は「7月16日」というように年休付与日がバラバラになってしまうのです。これでは各人ごとに付与日や取得状況が異なってくるので管理が煩雑です。特に随時中途入社がある中堅・中小企業は、これだけで余計な管理の手間が掛かってしまいます。

そこでお勧めしたいのが、年休付与日の統一です。例えば付与日を「毎月1日」に統一した場合、最大12通りの付与日を管理すればよいということです。会社は前倒しで休暇を与えることになりますが、それよりも各人の取得状況が管理しやすくなるメリットのほうが大きいといえるでしょう。なお、年休付与日の統一については、あらためて就業規則に規定する必要があります。

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有給休暇取得に関する留意点

義務化ルールがスタートしたことで、会社側は従業員の年休消化を促進する必要に迫られます。そのために、手続き上の工夫をすることもあるでしょう。その際に留意すべき点を、以下に挙げておきます。

「欠勤→有給休暇」の振り替え手続きは本人に

従業員が体調不良などで欠勤した場合、事後的に年休に振り替えることはよくあります。しかし、欠勤→年休ということで自動的に振り替えていると、従業員の側に「年休を取得した」という認識がないケースも出てきます。そうなると、後になって従業員が年休を申請したとき、思っていたより年休が残っていなかったということで、不満や不信を訴えられるトラブルが想定されます。

こうした事態を避けるため、欠勤を年休に自動的に振り替えるのではなく、従業員に「欠勤」の手続きを行ってもらったうえで、その欠勤を年休に振り替える申請も同時にしてもらうようにするとよいでしょう。もちろん、年休取得は事前申請が原則なので、従業員に対しては、「欠勤を年休に振り替える義務があるわけではない」ことも周知しておく必要があります。

同じ4時間でも半日有給休暇=「○」 時間有給休暇=「×」

年休を半日単位で取得できる制度がある企業では、半日有給休暇を取得した場合、0.5日を、「時季指定義務」の「5日」から控除できます。しかし、時間単位での年休は控除の対象とはならないので注意が必要です。

例えば、1日8時間勤務の企業において、時間単位有給休暇を4時間取得した場合と半日有給休暇を取得した場合、同じ4時間休んだとしても、前者については「時季指定義務」の「5日」にカウントすることができません。年休取得帳簿に記載するときは「半日有給休暇」と「時間有給休暇」を取り違えてカウントすることのないよう気を付けてください。

発想を転換して有給休暇取得の促進を

今回の法改正による新ルールが定着するには時間がかかるかもしれません。従業員が体調不良で休む場合はやむを得ないとはいえ、会社にとっては突然の「休暇」を取得されたようなものであり、その穴を埋めるのは容易ではありません。しかし、リフレッシュのための年休取得は、事前の申請に基づくのですから欠員への対応は可能だといえます。そう考えれば、従業員の年休取得を促すことは会社にとっても有益だといえるでしょう。

また「今度有給休暇を取るので」と、職場で簡単な業務の引き継ぎをすることがよくあります。年休取得のためにこうした報告/連絡/相談が増えることで、職場内で「情報の棚卸しと共有」が進むきっかけにもなるでしょう。あるいは、休暇明けに職場で旅行の土産話に花が咲くこともあるかもしれません。年休取得の増加に伴い、社員間のコミュニケーションが促進されることも期待できますね。

今回、義務化ルールがスタートしたのを機に、従業員の年休取得が負担となるといったマイナス面の影響だけでなく、プラス面の影響があることにも着目してみるとよいでしょう。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/飯野 正明

プロフィール

東京都社会保険労務士会中央支部所属。1969年生まれ。社労士業務歴28年目の経験と知識を活用して、労務問題における「相談者の用心棒」として活動中。

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