2020年 7月14日公開

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「健康保険の被扶養者認定要件が変更」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

改正された健康保険法施行規則が2020年4月1日から施行されました。今回の改正で変わった「被扶養者認定要件」を中心に、改正後の変更点を紹介します。

主な改正のポイント

「健康保険法等の一部を改正する法律及び健康保険法施行規則等」の一部が改正され、2020年4月1日から施行されています。主な改正のポイントは、被扶養者=「健康保険の被保険者に扶養されている者」の要件に関するもの。被扶養者の国内居住要件が新たに追加されたことです。これにより健康保険の被扶養者は原則「国内居住者」に限定されることになりました。

被扶養者とは

被保険者の家族のうち、健康保険の運営主体である「保険者」(注)が認めた家族を指します。家族なら誰もが「被扶養者」として認められるわけではありません。収入や、被保険者との同居の有無など、法律などで決められた一定要件を満たす必要があります。

  • (注)健康保険事業の運営主体のこと。健康保険の保険者には、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合の2種類があります。

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被扶養者の認定基準(改正前)

被扶養者は健康保険の一部の給付を受けることができます。このため被扶養者の認定には一定の基準が設けられています。

被扶養者の認定基準(改正前)

被扶養者の範囲は次の通りです。

  1. 被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(同居要件なし)
  2. 被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く。同居要件あり)

上記の被扶養者の範囲であっても、このほかの認定要件として、その対象被扶養者の収入額に制限が設けられています。被扶養者になるか否かの具体的な基準は、以下の通りです。

収入についての認定基準

  1. 同一世帯に属している場合
    認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満の場合
  2. 同一世帯に属していない場合
    認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、その収入額が被保険者からの援助による収入額(=被保険者からの仕送り額)より少ない場合(注)
  • (注)本人の収入額と被保険者からの援助額の合計が年間で130万円未満、もしくは180万円未満でなければなりません。

ここで出てくる年間収入とは、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことを指します。
具体的には――

  • 給与所得等の収入がある場合は月額108,333円以下
  • 雇用保険等の受給者の場合は日額3,611円以下

である場合がこれに該当します。

「認定対象者の年間収入」には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれることも注意が必要です。

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被扶養者の認定基準(改正後)

「国内居住要件」が認定基準に追加

健康保険法施行規則の改正により、2020年4月1日以降は、改正前の認定基準のほかに、新たに日本の居住要件が加わりました。
ここでいう「日本の居住」は、住民票が日本にあるか否かで判断されます。実際には一定の間、被扶養者が海外で生活していたとしても、住民票が日本にある限りは、この要件を満たすこととなります。またこの要件の例外についても認められています。

例外として

外国にいても被扶養者として認められる者、逆に日本国内にいても被扶養者から除外される者など一定の例外があります。いずれも「日本国内に生活の基礎」があるかどうかで判断されます。

日本国内に住所を有しない→しかし、例外的に被扶養者と認められる者

日本国内に住所を有する→しかし、例外的に被扶養者と認められない者

なお、「海外特例の要件」(例外とされる事由)とその証明に必要な書類は下の表の通りです。

海外特例の要件と証明書類

海外特例の要件添付書類
a.外国において留学する学生査証、学生証、在学証明書、入学証明書等の写し
b.外国に赴任する被保険者に同行する者査証、海外赴任辞令、海外の公的機関が発行する居住証明書等の写し
c.観光、保養またはボランティア活動その他就労以外の目的での一時的海外渡航者査証、ボランティア派遣機関の証明、ボランティアの参加同意書等の写し
d.被保険者の海外赴任期間に、その被保険者と身分関係が生じたもので、b.と同等と認められる者出生や婚姻等を証明する書類等の写し
e.渡航目的その他の事情を考慮して、日本国内に生活の基盤があると認められる者個別に判断

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法改正の背景

改正の趣旨

今回の法改正は、医療保険制度の適正かつ効率のよい運営を図ることを目的に実施されました。その背景にあるのが外国人労働者の増加による問題です。
2019年4月に「特定技能」を盛り込んだ改正出入国管理法が施行された影響で、日本国内の企業に多くの外国人労働者が入ってきました。これに伴い、外国人労働者が母国に住む家族を被扶養者として加入させることが増えてきたのです。
これらの家族を被扶養者と認めることで、母国に居住している家族が来日した際に日本国内で治療を受けた場合の診療に保険が適用される、母国の家族が母国で治療を受けた場合でも「海外療養費制度」により、現地で全額自己負担後、保険適用分について保険で払い戻しを受ける……などの事例が増加してきました。こういった本来の公的医療制度の趣旨に合わない保険給付を排除するために、健康保険施行規則の改正が行われたものといわれています。

所定の手続きを

今回の改正により国内居住要件に該当しない被扶養者は2020年4月1日以降、被扶養者として認められなくなります。施行日時点で国内に住所を有さない被扶養者は、国内居住要件を満たさないことから被扶養者の削除の届け出が必要となります。
協会けんぽが実施した「令和元年度 被扶養者資格再確認業務」に対して、「海外在住の被扶養者がいる」と回答した事業所には、2020年1月下旬ごろに「海外在住者リスト」が送られているはずです。リストが届いた事業所は、対象の被扶養者が海外特例要件に該当するか否かを確認し、所定の手続きを行う必要があります。

  • 「海外特例の要件」に該当しない場合……扶養解除の手続きへ
  • 「海外特例の要件」に該当する場合……海外特例要件該当の手続きへ

該当する場合は証明書類を添えて、必要な書類を協会けんぽに提出する手続きを行います。協会けんぽ以外の保険者の場合の手続き等については、加入する健保組合に確認してください。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/飯野正明

プロフィール

東京都社会保険労務士会中央支部所属。1969年生まれ。社労士業務歴29年目の経験と知識を活用して、労務問題における「相談者の用心棒」として活動中。

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