2018年 2月

総務部エリコのひとり言

万が一に備えて企業の防災対策を考えよ! の巻

同期との飲み会でのふとした会話をきっかけに、企業防災の重要性を痛感したエリコ。防災対策が万全ではない山シロ株式会社の現状に危機感を覚えたエリコは、総務部長からの頼みで防災対策の立案に取り組むことになった。果たしてエリコは、このミッションを成功させることができるのか?

うちの会社、防災対策はしっかりやっている?

「俺、日本に帰れるのかな……ってすごく不安だったんだけど、協力会社のスタッフが迅速に対応してくれたから安心できたんだよね」

同期が集まる飲み会で、営業部の山本くんがつぶやいた一言。何でも、先月の海外出張で取引先と現地協力会社の工場へ視察に行ったとき、運悪くモンスーンに遭遇してしまったらしい。

現地でも例がないくらいの大規模な暴風雨に見舞われ、ホテルから一歩も出られず、一時は身の危険も感じたのだとか。不安でしかたなかったときに、すぐに協力会社のスタッフから安否確認の連絡が来て、帰国延期の手続きなども速やかに行ってくれたのだそうだ。同行した取引先の担当者も「迅速かつ的確な対応をしてくれたので、安心できた」と感心していたようだ。協力会社の防災意識の高さに感動したらしい山本くん。目を輝かせながらアツく語っていた。

そんな光景を目にしながら私は、「うちの会社の防災対策って、もしかして甘い?」と不安を覚えた。実は山シロ株式会社は防災時のマニュアルやガイドラインが整備されていない。どうにも気になってしまい、次の日、総務部長に防災対策の必要性について話をしてみることに。山本くんの経験談や、それを聞いて個人的に感じた不安を率直に打ち明けてみた。

いつものように、にこやかな表情で聞いていた部長だったが、次第に真剣な表情へ変わっていった。どうやら部長も懸案事項として、「何か手を打たなければ」と前々から考えていたみたい。しかしいつも多忙な部長、忙しさのあまり、ついつい先延ばしになっていたらしいのだ。

「これもいい機会だから、よかったら一度、防災対策の骨子を考えてくれないか?」とお願いされた。部長にはいつもサポートしてもらっているし、そもそも人から頼られるとやる気になってしまう性格。勢いで「やります!」と引き受けてしまった。とはいっても、さて、何から手をつけるべきか……。今回も大学スキー部の大先輩、社労士・小岩さんに相談してみよう。

万が一の事態を想定した「備え」の数々

小岩さん
今日はランチのお誘い、ありがとうございます。ここの天丼、私の大好物なんですよ。もしかして、事務所のスタッフから聞きました?
エリコ
はい。実は小岩さんの事務所に通うようになってから、事務の人とも親しくなって。既に小岩さん情報はリサーチ済みですよ(笑)。いつも相談に乗ってもらってばかりだし、今日は私がごちそうします!
小岩さん
お気遣いありがとう。それで今日の相談は……企業の防災対策でしたね?
エリコ
そうなんです。一口に防災対策といっても、いろいろありますよね。何から手をつけていいものか……。
小岩さん
たびたびお話ししていますが、こうした取り組みは全社員に「自分ごと化」してもらうためにも、まずは大々的にアナウンスすることが大切です。必要ならば、部署を横断したプロジェクトチームを立ち上げるのも有効ですね。
エリコ
いかに会社全体を巻き込めるかが、総務の仕事で大切なこと。小岩さんに教わりました。
小岩さん
そのとおり。そのうえで今回のようなケースの場合はまず、災害発生時に誰がどのように会社を取りまとめるのか、組織体制を決めておくことですね。緊急時にそうした体制が確立されていないと混乱が生じます。それを防ぐためにも、災害が起きたときにリーダー的存在となる「リスクマネージャー」を従業員の中から選定しておくといいでしょう。
エリコ
リスクマネージャー……一体どんな人が適任なのでしょうか?
小岩さん
代表取締役をはじめ、人事労務管理に関する決裁権限を持っている人がベストですね。エリコさんの会社でいうと、総務部長さんなど適任でしょう。あとはリスクマネージャーの配下についてサポートを行うメンバーも決めて、そうした社員にも役割を割り振っておく。
エリコ
役割、と言いますと?
小岩さん
例えば従業員の安否確認担当、被災状況の確認担当、救助・救出の指示担当、行政機関や関連会社への連絡担当などですね。そうした役割を元に、災害発生時にリスクマネージャーの指示の下で動く対策チームを前もって結成しておくといいでしょう。
エリコ
「災害対策室」みたいなものを社内に結成するイメージですね。
小岩さん
またリスクマネジメントの一環として、山シロ株式会社でも防災マニュアルを作成しておいた方がいいと思います。その際には愛知県防災局が作成した「事業所のための『防災マニュアル』作成の手引き(注)」を参考にしてみてください。
愛知県は東海地震の危険性が指摘されている地域なので、防災対策にも熱心な県なんですよ。この手引きも非常に分かりやすくまとめられています。もちろん社員だけでマニュアルをつくるのが難しい場合は、私も社労士としてお手伝いしますから。
エリコ
とても頼もしいです! あとは緊急連絡網などもつくっておいた方がいいですよね。
小岩さん
そうですね。有事の際には情報が錯綜(さくそう)しがちなので、安否情報などが一元管理できる体制を整えておくことが必要です。数名程度のグループをつくってメンバーの安否状況を取りまとめる代表者を決めておき、対策チームとスムーズに連絡がとれるようにしておくといいでしょう。グループウェアなどを導入しているなら、それを活用してもいいですね。
エリコ
なるほど。
小岩さん
あとは防災訓練。これもぜひやっておくべきです。地元の消防署に相談すれば、おそらく協力してくれますよ。
エリコ
消防署が協力してくれるんですね! ハードルが高そうだと思ったけど、それならなんとかやれそうです。
小岩さん
あとは帰宅困難者が出るような場合に備えて、会社に宿泊用の備品を用意しておいたり、自宅までのルートを各社員に確認しておいてもらったりする。
大切なのは「災害」という可能性を、頭のどこかに日々とどめておくこと。対策チームの組織図を職場の見えやすいところに貼っておくなど、そんなちょっとしたことでもいいんです。そのような心構えの有無が、万が一のときに明暗を分けたりしますから。

(注)愛知県防災局「事業所のための『防災マニュアル』作成の手引き」

日ごろの準備と心構えが、「もしも」のときに明暗を分ける

小岩さんからのアドバイスを資料にまとめ、会社としてやるべきことを総務部長に報告。部長からは「社長にも話をしてみる」とのことだったが、翌日には「これから会社として防災対策に力を入れていく!」という社長からの力強いメールが全社員に飛んでいた。さすがは社長、話が早い。

まずはリスクマネージャーを総務部長に引き受けてもらうことに決め、各部署からメンバーを出してもらい対策チームを結成した。災害発生時にはこのチームが中心となって動いていく。メンバーそれぞれの役割分担をあらかじめ決めておき、有事の際に迅速な対応ができる組織体制を整えた。

次に部署ごとに、4、5人単位のグループをつくってもらい、グループ内で連絡先を共有。緊急時の連絡体制を整備した。グループごとのリーダーが各部署の代表者に安否状況を連絡、それを受けた代表者が対策チームに連絡し、最終的にリスクマネージャーが取りまとめるような体制だ。それとあわせて、グループウェアも安否確認用のツールとして活用していくことになった。

「事業所のための『防災マニュアル』作成の手引き」を大いに活用して、自社の防災マニュアルも作成。マニュアルづくりなんてやったことがないから不安だったけど、作成の手引きがとても分かりやすくまとまっているので、対策チームで分担して書き上げることができた。小岩さんにも確認してもらったところ、「上出来!」とうれしいお返事。完成したマニュアルを全社員に配布して、各自で目を通してもらった。

また防災訓練を行うために近くの消防署に相談してみると、「ぜひとも協力します!」と前向きな返事をもらうことができた。訓練当日には消防署職員の方の指導のもと、本番さながらの避難訓練や救護訓練などを行った。社員からは「避難訓練なんて中学生以来だから新鮮で面白かった」という意外な反響もあった。

こういった訓練を一度経験しておくか否かで、緊急事態の際にスムーズに行動できるかも違ってくるはず。災害時に会社として冷静な対応ができれば、企業としての評価につながることだってあるかもしれない。「心構えの有無が明暗を分ける」という小岩さんの言葉を、今後もしっかりと頭にとどめておこう。

エリコのひとり言

災害時の対応が、企業への信頼や評価を左右することだってある。従業員やお客様を守るためにも、万が一の事態を日ごろから頭の片隅で想定しておくことが大切!