2018年 3月

総務部エリコのひとり言

柔軟な働き方を実現するため「副業」を解禁する! の巻

同僚エンジニアから「副業をしてみたい」と相談を受けたエリコ。しかし、エリコが働く山シロ株式会社では副業は原則禁止となっている。「働き方改革の波に乗るいい機会だ!」と考えたエリコは、副業解禁に向けてアクションを起こすことに。果たしてこのミッションを成功させることができるのか?

副業の解禁、どんなメリットがある?

「社外の仕事を個人で受けてみたいんだけど、会社としては大丈夫かな?」と、システムエンジニアの本間さんからお昼休みに相談を受けた。

本間さんは以前、大手IT企業で働いていたエンジニア。3年ほど前に社長直々のヘッドハンティングで転職してきた優秀な人材だ。入社後は自社ECサイトの立ち上げやスマホアプリ開発といった新規プロジェクトの中心メンバーとして活躍し、社内でも一躍脚光を浴びる存在となった。

本間さんによると、かつての会社の先輩が独立し旅行関係のアプリ開発会社を立ち上げたとのこと。エンジニアの人手が足りないらしく、「空いている時間だけでもいいから、社外エンジニアとして手伝ってくれないか?」と打診されているらしい。「お世話になった先輩だし、何よりもエンジニアとしてのスキルアップにもつながる仕事だから……」とチャレンジしたい様子の本間さん。

しかし山シロの就業規則では原則「副業は禁止」とされており、現状では希望をかなえることは難しい……。私もネットワーク周りの問題で困ったときには、よく本間さんに相談に乗ってもらっているし、何とか力になりたいと「方法を考えてみます!」といつものように勢いで請け負ってしまった。

とはいえ、何も考えがなかったわけではない。副業や兼業は、いまや国を挙げて推進している大きなトピック。うちの会社も「副業解禁」に踏み出すチャンスかもしれない。ひとまず部長に話を持ちかけてみよう!

その前に副業を解禁するメリットを自分なりにまとめてみる。リサーチの結果、大きく以下のようなメリットがあると分かった。

  • 社員の主体的なキャリア形成の促進
  • 社員の成長・スキルアップによる事業拡大のチャンスにつながる
  • 求人面での大きなアピールポイントにもなる

これらメリットと他社の副業解禁事例などを資料にまとめて、部長へ持っていった。しかし、予想に反して渋い顔……。「メリット面は分かったけど、デメリットもあるんじゃないか? それについてはちゃんと考えてみた?」と思わぬ厳しい言葉を受けてしまった。

確かにそこまで考えが及んでいなかった……。自分の考えが甘かったことを反省。デメリットや懸念点も踏まえたうえで、「それでも副業解禁に踏み出す価値がある」と部長に思わせるような、説得力ある提言が必要だ。一人じゃなかなか荷が重いミッション……。こうなったら社労士・小岩さんの力を借りてみよう。

副業解禁に向けて押さえておくべきポイントとは?

小岩さん
エリコさん、また何やら苦戦しているみたいですね。
エリコ
そうなんです。実は今、副業の解禁に向けて動いているんですが、部長や上の人たちを動かすような説得力のある説明が必要だと思って。
小岩さん
エリコさんの会社をはじめ「副業禁止」を掲げている企業はまだまだ多いですからね。前例がない企業は、やはり不安も大きいのだと思います。
エリコ
副業のメリットについては何となく分かったんですけど、デメリットとしてはどんなことが考えられますかね?
小岩さん
副業に就くということは、本業にプラスして働く時間も増えるということ。企業側は副業をする社員の労働時間や健康面により一層気を配らなければいけない。そういった懸念点はあるでしょうね。
エリコ
そうですよね。副業に熱中するあまり体を壊したり、本業がおろそかになったりしては本末転倒ですもんね。
小岩さん
そうなんです。ですから副業を解禁するにあたっては、従業員と企業側が事前にしっかりとコミュニケーションを取る必要があるでしょうね。
エリコ
なるほど。
小岩さん
あとは情報漏洩リスクというのも考えられます。例えば、ある業界において特別な技術や特許を持っている企業A社がある。そこの社員が同じ業界のB社で副業を行う場合、A社は自社ノウハウの流出リスクにさらされるかもしれない。そのようなデリケートな情報を扱う企業の場合は、守秘義務の徹底や、競合企業での副業禁止などを定めておく必要もあります。
エリコ
副業解禁にあたって事前に考えておくべきこと、いろいろあったんですねえ……。
小岩さん
今述べたようなリスクや懸念を回避するために、解禁当初は「事前届出制」にするのが適切でしょうね。副業をする際には、事前に申請書を提出してもらい、「どんな内容の仕事なのか」「週何時間くらい働くのか」などを企業側がしっかりと把握しておく。
エリコ
それと就業規則を改定する必要もありますよね?
小岩さん
そうですね。その際には、厚生労働省が作成した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット(注)を参考にしてみてください。副業・兼業を解禁するにあたり、企業が押さえておきたい情報をまとめているパンフレットです。この中にモデル就業規則が掲載されているので、これをたたき台にして改定するといいと思いますよ。
エリコ
このパンフレットはとても役に立ちそうです!
小岩さん
後は副業を解禁するにあたり、全ての社員・管理職が労働法や雇用保険についての基本的な知識を身につけておくべきです。例えば労働基準法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」となっています。これがどういうことだか分かりますか?
エリコ
本業と副業の労働時間は合算扱いになるってことですよね。法定労働時間は1日8時間、1週間で40 時間と決まっていたはず。ということは、その時間を超える副業は残業扱いになる……?
小岩さん
そのとおり! 例えば本業のA社で1日7時間働き、終わった後に副業としてB社で3時間働くとします。その場合はB社での2時間分は残業扱いになるので、残業代としてB社は時間外手当を支払う必要があるのです。
エリコ
それは知らなかった。そういった副業に関連する知識を、社員と管理職の両方が知っておくべきなんですね。
小岩さん
はい。そのためにも、社員向けの研修会などはしっかり行ったほうがいいです。
副業を解禁するにあたって、企業側が重視すべきポイントは従業員の「労働時間の管理」と「健康面の管理」、そして副業先で危険な作業に従事していないかなどの「安全面への配慮」の三つ。この三つは必ず押さえておくべきポイントなので、覚えておいてください。

(注)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット

若手だけではなく、ベテラン社員からの意外な反響も

小岩さんの話を受けて、あらためて副業解禁に向けてのアクションを起こすことに。手始めに社員全員を対象に「副業に関する意識調査」アンケートを行う。調査の結果、6割近い社員が「副業や兼業に興味・関心がある」と答えてくれた。副業に興味を持っている人って、こんなに多かったんだ。予想を超える数字に、背中を押されたような思いがした。

このアンケート結果と、デメリット面も含めてあらためて検討した資料を再び部長のもとへ持参。「デメリット面もあるけど、それを補って余りある効果が期待できます!」と駄目押しの一言。すると部長はニヤリと笑って、「明日、社長や役員たちにも話してみるよ」と言ってくれた。うれしい! 心の中でガッツポーズを決めた。

数日後、「社長からゴーサイン出たぞ」と部長から朗報が入った。さすが社長、いつもながら話が早い。そしてどうやら部長、私がつくった資料を片手に他の役員たちを説得して回ってくれたらしい。たまに厳しいけど、いざというときは本当に頼りになる上司だなあ。

次に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレットのモデル就業規則を参考にしながら、我が社の就業規則改定に取りかかる。副業を行う際には、事前に届出を出すことなどをしっかりと明記。また就業規則の改定に伴い、副業を解禁することを全社員に周知し、副業リテラシーを高めるための研修会を開催した。副業に対する考え方をはじめ、労働法、雇用保険についての知識を身につけてもらう。ここでも「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレットを教科書代わりに活用。参加した社員にも分かりやすいと評判だった。

副業が解禁され、晴れて本間さんも友人の会社を手伝うことになった。「ありがとう、エリコさん」と、本間さんの笑顔が心からうれしかった。

予想外だったのが、若い人よりもむしろ50代以上のベテラン社員からの反響が大きかったことだ。「定年後の不安もあったし、今から副業を始めて第2の人生の準備をしとこうかな」なんて、前向きな声が多数聞かれた。副業は若い人だけが興味を持っていることじゃない。これをきっかけに、さらに社員が働きやすい会社になっていけたらいいなあ。

エリコのひとり言

副業する社員の「労働時間の管理」、「健康面の管理」、そして「安全面への配慮」。会社が副業を解禁するときには、この三つのポイントを押さえておくことが重要!