2018年 5月

総務部エリコのひとり言

社員のこころの健康を守れ! の巻

エリコが勤める山シロ株式会社は、お世辞にも社員へのメンタルヘルスケアが充実しているとは言えない。しかし営業成績や上司との関係で悩んでいる同期の姿を見て、エリコはメンタルヘルスケア充実に向けたアクションを起こすことを決意する。果たして、このミッションを成功させることができるのか?

ストレスを抱え、落ち込んでいる様子の同期を見て……

「えっ、あれ山本くんだよね……?」

会社の廊下で、ばったりすれ違った同期入社の営業部の山本くん。いつもの快活さが影を潜め、まるで別人のように覇気の感じられない暗い表情だった。どうしたのかな。

営業部にいる別の同期に話を聞いてみると、どうも山本くんは、半年ほど前から営業成績が停滞気味らしい。入社当初から期待のエース候補として、いつも上位の営業成績を残していただけに、自分の現状に歯がゆさとプレッシャーを感じているようだ。

また今年に入って山本くんの上司が代わったらしいのだが、その人はどうやら放任主義で、山本くんに対するフォローも全くないとのことだった。部下を信頼しての放任なら納得もできるけど、面倒なことにはノータッチというタイプらしく、部署内での評判もあまり良くないらしい。

気晴らしにと山本くんを飲みに誘ったりもしてみたけれど、「忙しいから今は無理」の一点張り。これまでのオープンな性格から一転、まるで心を閉ざしているかのようだ。このままだともしかしたら、不本意な形での退職やうつ病にもつながりかねない……。

私が勤める山シロ株式会社は、これまで社員のメンタルヘルスケアに力を入れてきたかというと、お世辞にもそうとは言えない。2015年12月から50人以上の労働者を抱える事業所で義務化された「ストレスチェック制度」は毎年実施しているものの、的確な運用ができているかには疑問がある。

以前の山本くんは明るいムードメーカーだっただけに、今の別人のような暗い表情が頭から離れない。同期として、そして総務部の社員として、私ができることは何かないだろうか……? そう考えるといても立ってもいられず、気づいたら社労士・小岩さんに相談の電話をかけていた。

「ストレスチェック制度」を形だけのものにしないために

小岩さん
いきなり電話がきたと思ったら、「今日お時間ありますか?」って今回はいつにも増して急ですねえ。一体どうしました、エリコさん。
エリコ
急なご連絡、本当にスミマセン……。実は私の同期が、仕事のプレッシャーやら上司とのミスマッチやらで、精神的にいろいろと抱え込んでいるみたいなんです。総務部にいる私に何かできることはないかと思って、小岩さんに助言を伺いたかったんです。
小岩さん
同期を思っての行動、エリコさんらしいですね。事情は分かりました。ところでエリコさんの会社、ストレスチェック制度はもちろん実施していますよね?
エリコ
実施してはいるのですが、「義務化されたからとりあえずやっておこう」みたいな感じです。うまく活用できているとはあまり思えません。
小岩さん
エリコさんの会社のように、ストレスチェック制度を行う意義をイマイチ理解しないまま、なんとなく実施している企業は多いかもしれないですね。
エリコ
ストレスチェック制度を行う意義って一体どんなことでしょうか?
小岩さん
大きな意義としては「未然防止」というものが挙げられます。社員がうつ病になってしまうなど、何か問題が起きてから対策を打つのでは遅い。そういった事態を事前に防止するために、ストレスチェックがあるわけです。
そのためにもチェック後、会社側が何かしらのフォローを行うことが必要になってくる。例えばエリコさんの会社、チェック後の「集団分析」なんかは行っていますか?
エリコ
いいえ、やっていません。
小岩さん
集団分析は部署やグループ単位で、ストレスチェックの結果を集計し分析するもの。これを行うと、ストレスを抱えている社員が多い部署などが可視化されます。そういった部署では、上司と部下のコミュニケーション不全や業務量の一極集中など、何らかの問題が発生している可能性が高い。
エリコ
さっき話した私の同期は営業部の社員なのですが、周りの人に話を聞く限り、ほかにもストレスを抱えている人は多そうです。
小岩さん
また従業員の適切なメンタルヘルスケアを考えるうえで、重要な「4つのケア」という考え方があります。
  1. セルフケア(働く人が自らのストレスに気づき、予防対処すること)
  2. ラインによるケア(主に管理職や上司、先輩が行うサポート)
  3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア(産業医など会社と関わりがある専門家による支援)
  4. 事業場外資源によるケア(公的機関や病院などの医療機関による支援)
小岩さん
これら「4つのケア」は社員を守るセーフティーネットのようなもの。厚生労働省が発表している「職場におけるこころの健康づくり 労働者の心の健康の保持増進のための指針」というガイドラインに詳しく掲載されているので、一度調べてみてください。
エリコ
なるほど。私の同期の場合、上司からのサポートが得られていないらしいので、(2)の「ラインによるケア」が特に弱いのかも……。
小岩さん
上司と部下は普段から接する機会も多いので、そこにおけるケアはとりわけ重要です。問題の上司にも、それをしっかり理解してもらう必要がありそうですね。どんなに優秀な社員でも、身近に理解者がいなければ心が折れてしまうこともある。重要なのは、悩んでいる社員を決して孤立させないことです。
エリコ
社員を孤立させないために何ができるか、私たち総務部が考えなければいけないわけですね。
小岩さん
そのとおり。今のエリコさんなら、きっとそれを考えられるはずですよ。

社員を孤立させないようケアの窓口を増やす

翌日、出社してすぐに総務部長に事情を説明。ストレスチェックを機能させるためにも、集団分析の実施を提案した。分析を行った結果、やはり営業部に高ストレスの社員が集中していることが判明。業務量や上司の指導のあり方など、見直すべき点は多々ありそうだ。

そこでまずは、部下に対するメンタルヘルスケア意識を啓発するために、産業医の協力の下、管理職向け教育研修を行った。部下のメンタルヘルスケアに力を入れるべきそもそもの理由から、部下とのコミュニケーションや指導方法の改善、休職者への復職支援など、さまざまなトピックをレクチャー。加えて3カ月に一度、上司と部下が目標設定などを共有する定期面談を全部署で実施することになった。これで山本くんと上司の関係も、少しは改善するといいんだけど。

また入社数年の若手社員が他部署の先輩社員とペアを組んで、密にコミュニケーションを取るメンター制度も導入。他部署の先輩から話を聞くことで視野も広がるし、同じ部署の人にはなかなか相談できない悩みを話せる場が作れる。「ラインによるケア」をより強化することで、社員が一人でストレスを抱え込むことのない環境を整える狙いだ。

社内外における専門家の窓口も充実させた。社内においては、カウンセラー資格を持つ産業医の先生に定期的に来社してもらい、事前に予約を取れば誰でも気軽に直接悩みを相談できるカウンセリングの場を設置。また外部の精神科医療機関とも連携し、うつ病などの心の病気に罹患した社員への早期治療や、職場復帰への支援も積極的に行っていける体制を整えていった。

小岩さんに言われたように、社員が孤立しない環境を作るため、自分なりにできる限りのことを考えてみた。そんなある日、山本くんから「久々に同期みんなで集まらない?」と飲み会の誘いがあった。二つ返事で参加した当日、会場に到着した私の顔を見るや否や飛んできた山本くんから、感謝の言葉を受けた。どうやらほかの同期から、私が山本くんのことをきっかけに、アクションを起こしたことを聞いたらしい。

「自分一人でいろいろ抱え込んでいたときは先が見えなくて不安だったけど、エリコのおかげで俺にも味方がいるって分かったよ」と山本くん。聞けば、上司も面倒見が良くなり、営業成績も以前みたいに上向きになってきたらしい。同期としても、総務部としても、こんなにうれしい言葉ってない! 会社のため、社員のため、総務部にいる私だからこそできるサポートをこれからも全力で考えていこうとあらためて思った。

エリコのひとり言

大切なのは悩んでいる社員を孤立させないこと。ケアの窓口を増やして、社員を包み込むようなメンタルヘルスケアを行っていこう!

監修/小岩 和男

特定社会保険労務士・人事労務コンサルタント。

大学卒業後、私鉄系不動産企業に入社。20年近く総務人事業務に携わった後、社会保険労務士として独立。都内、日本橋に事務所を構え、上場企業から新設企業まで幅広いサポートを行う。メディアへの寄稿実績も多数。

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