2018年 7月

総務部エリコのひとり言

裁量労働制の導入を検討せよ! の巻

老舗のメーカーながら、さまざまな働き方改革に取り組み始めている山シロ株式会社。今度は優秀なエンジニアが在籍する設計開発部に、裁量労働制の導入を検討する話が持ち上がる。総務部長から議論に当たっての事前調査を依頼されたエリコだが、果たしてこのミッションを成功させることができるのか?

  • (注)2018年6月時点の法制度を基に作成しています

裁量労働制をうちの会社にも導入?

たまっていた有給休暇を消化して、海外旅行を楽しんできた。心ゆくまでリフレッシュして1週間ぶりに出社してみると、デスクの上に部長からのメッセージが。「頼みたいことがあるから、空いているタイミングで声かけて」とのことだけど、一体どうしたんだろう? お土産を渡しに行くついでに、話を聞いてみよう。

部長のところに顔を出すと、「おお、久しぶりだなあ。楽しんできたか?」と笑顔で出迎えてくれた。「おかげさまでリフレッシュできました」と答えつつ、早速用件を聞いてみる。

部長の話によると、私が休暇を取っている間に「裁量労働制」を導入する話が社内に持ち上がったらしい。役員会議で設計開発部の部長から「部署の働き方を見直したい」という提案があったらしく、そのための取り組みとして裁量労働制を検討したいとのことだった。

新製品や自社アプリの開発に取り組む設計開発部は、ほかの部署と比べて仕事の専門性も高く、最近では残業も増えてきているとのこと。そのために時間に縛られた働き方ではなく、業務内容に見合ったより効率的な働き方を模索したいという狙いがあるらしい。
そこで「裁量労働制の導入が適切か」を判断する材料として、まずは総務部で調査報告書を作成することになり、その役目を私にお願いしたいとのことだった。

設計開発部といえば、顔なじみのすご腕エンジニア本間さんがいる部署だ(「柔軟な働き方を実現するため『副業』を解禁する」参照)。裁量労働制は今の話題でもあるし、私自身も総務部の社員としてしっかり知識を身に付けておきたい。休暇明けの急な話で部長は申し訳なさそうだったが、引き受けることにした。

柔軟な働き方を実現するため「副業」を解禁する! の巻

そういえば今日の夕方、社労士の小岩さんに海外旅行のお土産を渡すために事務所に伺う約束をしていたところだった。ちょうどいい機会だし、裁量労働制について話を聞いてみようかな。

重要なのは「みなし労働時間」に対する合意

エリコ
小岩さん、お久しぶりです。有給休暇を取ってフランス旅行に行ってきたんですけど、これ、お土産のチョコレートです。
小岩さん
オシャレなチョコですねえ。ありがたく頂きます。お土産以外にも、何か聞きたいことがあるようですね?
エリコ
はい。実は社内で今、裁量労働制を導入しようかという話が出ているんです。導入を検討するに当たっての調査役に駆り出されたのですが、恥ずかしながら、裁量労働制の実態についてあまり知識がなくて。それで小岩さんにお話を伺ってみようと思ったんです。
小岩さん
なるほど。ちなみにエリコさんは、裁量労働制についてどんなイメージをお持ちですか?
エリコ
う~ん、正直あまりポジティブなイメージはないかも……。自分の裁量で働けたら、それは確かに素晴らしいと思うんですけど、そんなにうまくいくのかなって。残業代ナシで際限なく仕事をすることになったり、休日労働にもつながったりしないかなという不安はあります。
小岩さん
エリコさんのように、不安を抱いている人は多いかもしれませんね。まずは裁量労働制について考える前に、「法定労働時間」の話から入りましょうか。エリコさんはもちろん、ご存じですね?
エリコ
労働基準法で定められた、限度となる労働時間のことですよね。「1日8時間、1週間で40時間」と定められていたはずです。
小岩さん
そのとおり。裁量労働制も、この法定労働時間をベースに考えなければいけないんですよ。
エリコ
どういうことですか?
小岩さん
裁量労働制は実際の労働時間に関係なく、あらかじめ決められた時間を労働時間と“みなす”制度。例えばみなし労働時間を1日8時間と決めたとするなら、それより短い6時間や7時間で仕事を終えても、8時間働いたとみなされるわけです。
エリコ
その場合、早めに仕事を終えたら、その分早く帰れるわけだから、働く側としてはうれしいですよね。でも、みなし労働時間を超えて働く場合、例えば9時間とか10時間働く場合でも、労働時間は8時間とみなされるわけですよね?
小岩さん
処理上はそうなります。けれども、例えばみなし労働時間をあらかじめ1日9時間と定めた場合は、法定労働時間を超えた1時間分は割増賃金を支払わなければなりません。
エリコ
なるほど! あらかじめ設定するみなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、その分の残業代は支払われると。
小岩さん
そうです。そしてこのみなし労働時間は、企業側が勝手に決めていいわけではなく、労働組合や労働者側の代表者と事前に話し合い、お互いの合意のうえで決定しなければならないのです。みなし労働時間と実労働時間が著しくかけ離れるような事態を避けるには、導入前に雇用者側と労働者側が、労働時間に対する意識の擦り合わせを行うことが重要です。もちろん、導入後にみなし労働時間の見直しを行うことも可能です。また、休日出勤を行う場合も、企業側は別途手当を支払う必要があります。
エリコ
企業側にもいろいろな「縛り」があるのですね。
小岩さん
またどんな仕事にも裁量労働制が導入できるわけではなく、適用できる職種が指定されています。大きく分けて「企画業務型」と「専門業務型」の二つがあります。
「企画業務型」は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析などを行う仕事。例えば企業の経営戦略部などで働く人はこれに該当します。

もう一つの「専門業務型」は、主にクリエイティブな業務や専門性の高い業務など、業務の進め方を、労働者の裁量に委ねることができる職種が対象です。研究開発を行う部署や、編集者やデザイナー、または弁護士などの資格を有する仕事もこれに該当します。
エリコ
私の会社のケースだと設計開発部が対象だから、後者の「専門業務型」に該当しそうです。そこで導入を検討するに当たり、気をつけるべきことってどんなことでしょうか?
小岩さん
大きく分けて二つあると思います。一つ目は、部署まるごとの導入というよりも、それぞれの社員の具体的な職務を分析・調査し、とりわけ専門性の高い社員への導入を検討すること。入社1年目の経験の浅い社員などは、自分の裁量で仕事を回すことはまだ難しいですから。
エリコ
なるほど。必ずしも部署単位でまるごと導入する必要はないのですね。
小岩さん
もう一つは、先ほども言ったように、みなし労働時間を会社が一方的に決めるのではなく、従業員としっかり話し合い、合意を取ったうえで決定すること。裁量労働制を導入するからには、社員のメリットになる形で導入できなければ本末転倒です。残業代削減など、企業側がコストカット目的に導入するなんてことは、言語道断ですね。
エリコ
雇用者側と従業員側、双方が納得できる形で導入しないと、お互いに幸せにはなれないですよね。そのためにも、従業員も本当に自分たちのメリットになるのか、当事者としてしっかり考えなければいけない。現場の声も聞いてみようと思います!

会社の都合だけでなく、現場の声にも耳を傾ける

報告書をまとめる前に、裁量労働制の導入についてどのように考えているのか、現場で働く社員の声を聞いてみることにする。設計開発部の中心メンバーでもあり、ほかの社員からの信頼も厚い本間さんにヒアリングをすることにした。

エリコ
本間さん、わざわざすみません。お忙しい中、お時間を取っていただきありがとうございます。
本間さん
うちの部長からも聞いてるよ。裁量労働制についてだよね。実は自分としては、今の勤務形態で十分満足しているんだよね。
エリコ
そうなんですか?
本間さん
自分は定時が決まっていた方が、集中して仕事に取り組めるタイプだし、むしろ今のメリハリある働き方の方がありがたいな。それに最近部署内で残業がかさんでいるのは、新製品発売後のイレギュラーな対応が増えている要因が大きいと思う。もう少し時間がたてば、落ち着いてくるんじゃないかな。
エリコ
ほかの社員の意見はどんな感じでしょうか?
本間さん
現状で十分うまく回っているから「わざわざ裁量労働制を導入する必要はない」って意見が今は多いみたいだよ。
エリコ
そうだったんですね。現場の人たちは、そこまで乗り気ではなさそうですね……。
本間さん
ただ今後、優秀な社員を設計開発部に採用していくためには、フレキシブルに働ける環境が整っていた方がいいとは思っている。
裁量労働制を導入するときには、従業員が自らの裁量で業務を行った結果、そこで生み出した成果を正当に評価する新しい「人事評価システム」なども考えていく必要があるんじゃないかな。
裁量労働制とそれに付随する評価システム、この両輪があれば、社員のモチベーションもアップしていくと思うな。

評価システムのことまでは、気がつかなかった……! 現場の声に耳を傾けることで、会社側の視点からは見えない新しい発見があることをあらためて実感。小岩さんとのやりとりを通じて考えたことや、本間さんから聞いた話を踏まえて、報告書を作成した。

全体的な結論としては「裁量労働制の導入はまだ早計」というところだけど、今後新たな評価システムの構築が可能であれば、裁量労働制の効果的な導入も期待できる……そんな内容の報告になった。報告書自体には部長も満足してくれたらしく、私が作成した資料を基に役員会議でも議論が交わされ、今回は導入を見送る方向に落ち着いたようだ。

裁量労働制はいったん見送られることになったが、今回の報告を踏まえて、新しい人事評価システムの導入は検討していくらしい。私も総務部の社員として、みんなのモチベーションアップにつながるような新制度の構築に貢献していければと思う。会社と従業員、両方が「WIN-WIN」となるような仕組みを考えていけたらいいな。

エリコのひとり言

「みなし労働時間」に対する会社側と従業員側の十分な合意があって、初めて裁量労働制は成り立つ! 現場の社員も自分たちにとって本当にメリットがある制度なのか、しっかり考えることが大切。

監修/小岩 和男

特定社会保険労務士・人事労務コンサルタント。

大学卒業後、私鉄系不動産企業に入社。20年近く総務人事業務に携わった後、社会保険労務士として独立。都内、日本橋に事務所を構え、上場企業から新設企業まで幅広いサポートを行う。メディアへの寄稿実績も多数。

ITを活用した働き方改革で、多様なワークスタイルをサポート

大塚商会では、身近なITから始める働き方改革をサポートしています。ITを活用して勤怠管理を行えば、裁量労働制やフレックス、テレワークなど社員のワークスタイルが異なる場合でも正確な勤怠管理を実現。多様な働き方ができる職場づくりをサポートします。

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