2025年 2月18日公開

トラブル解決! 情シスの現場

「2025年の崖」真っただ中! レガシーシステムの課題と対応策

著者:金指 歩(かなさし あゆみ)

ITシステムのレガシー化が引き金となり、多くの問題が発生するとされる「2025年の崖」。このリスクを認識しながらも、十分な対策を講じないまま2025年を迎えてしまった企業もあるのではないでしょうか。

「現状、大きな問題が起きていないからこのままで大丈夫」と高をくくると、後々深刻な事態を招きかねません。ITシステムに重大なエラーが発生した場合、その影響は自社にとどまらず、取引先やエンドユーザーを含む広範囲に波及する恐れがあるからです。

この記事では、「2025年の崖」の背景を再確認し、現時点で実施可能な対策について解説します。これを機に、今後の検討材料として参考にしてください。

ついに迎えてしまった「2025年の崖」とは

「2025年の崖」とは、ITシステムの老朽化を引き金にさまざまなトラブルが発生し、2025年以降に大きな経済損失を招く可能性を指す言葉です。

この問題は、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で指摘されました。このレポートでは、日本全体のDXが実現すれば、2030年には実質GDPを130兆円以上押し上げる可能性があるとされています。

一方で、導入から21年以上経過した基幹システムを利用する企業が増加傾向にあることや、Windows XPやWindows 7、SAP ERPなどの主要ITシステムが、相次いでサポートを終了していく現状も報告されています。また、デジタル活用が加速する中でIT人材が不足していることも課題としてあげられています。さらに、2025年以降には最大で年12兆円規模の経済損失が発生する可能性が試算され、大きな話題を呼びました。

このレポートを機に、2025年までにITシステムを刷新し、社内にIT人材を確保するなどして「2025年の崖」に対応しようとする企業が増加しているのです。

「2025年の崖」によって起こり得るトラブル事例

「2025年の崖」に対して何も対策を講じなければ、どのようなトラブルが発生すると考えられるのでしょうか。もしかしたら、すでに何らかのトラブルが生じている企業もあるかもしれません。

ITシステムのブラックボックス化や老朽化、維持費の増加

以前から使用されているITシステムは、その構造上、事業部ごとに分断されている場合が多く、全社的な運用が難しい傾向があります。また、サポート終了が予定されているITシステムを使用している企業は、システムのレガシー化により事業運営が滞る可能性も指摘されています。

さらに、システムやツールが特定の担当者によってカスタマイズされている場合、担当者が休職・退職すると、システムがブラックボックス化してしまうリスクもあります。

また、レガシー化したシステムを維持するために保守・メンテナンスを行い、なんとか運用を続けているものの、その維持費が想定を超え、企業のコスト負担を増大させるケースも多くあります。こうした技術的負債の解消は、今後の大きな問題となっていくでしょう。

IT人材の不足

中小・中堅企業にとって特に深刻なのが、IT人材の不足です。従来のレガシーシステムは古くから使用されているプログラミング言語で記述されていることが多いのですが、それらの「古語」を理解できるエンジニアの多くは2025年までに定年を迎えるとされています。そのため、今後のITシステムの維持やメンテナンスはさらに困難となるでしょう。

また近年、オンプレミスのシステムからクラウドシステムに移行する動きが見られますが、外部ベンダーに依存して新たなシステムを構築する場合でも、社内に必要なタスクを処理するための人材は欠かせません。クラウド技術などに対応できるIT人材が社内にいなければ、レガシー化したシステムからの脱却に対応できない可能性があります。

IT人材を新たに雇用できない場合、既存の社員をIT人材として育成することも選択肢の一つですが、十分に成長させるには時間を要する点が課題となります。

サイバー攻撃を受けるリスクの増大

サポートが終了したレガシーシステムは、今後新たな脆弱性が次々に露呈する可能性が高いにもかかわらず、アップデートが行われないため、さらにセキュリティリスクが増大します。また、部門や担当者によって細かくカスタマイズされたシステムでは、担当者の知識不足や運用ミスにより、セキュリティホールが発生してしまう可能性があります。

こうした脆弱性を抱えた状態では、常に国内外からサイバー攻撃の脅威にさらされる危険性があるのです。

ビジネス環境の変化に対応しにくくなる

テクノロジーの進化や物価上昇、日本全体の人口減少などさまざまな要因により、ビジネス環境の厳しさは増していくと予想されます。こうした変化に迅速に対応するためには、自社の事業内容や組織の運営体制などを柔軟に変革していく必要があります。

しかし、重要なビジネス基盤であるITシステムがレガシー化し、その対応に追われていると、肝心な環境変化への対応が遅れがちになってしまいます。その結果、同業他社との競争で不利な立場に立たされる可能性もあります。

法令遵守(コンプライアンス)対応の遅れ

業界や業種に関する法令は定期的に新設、改正されるため、法令を遵守するためのコンプライアンス対応は企業にとって不可欠な課題です。

しかし、サポートが終了したレガシーシステムでは、新しい法令や規制に対応する機能を追加できず、対応が遅れる危険があります。

その結果、法令違反や罰金などのリスクが高まり、企業にとって深刻な問題となる可能性があります。

「2025年の崖」に今から対応する方法

すでに「2025年の崖」を迎えた今、これから本腰を入れて対策を講じ、DXを推進するには、以下の取り組みが重要です。一度に全てに対応するのは難しいため、できるところから着手して計画的にDXを進めていくのがおすすめです。

社内のITシステムからレガシーシステムをリストアップする

まず、社内で使用しているITシステムを洗い出し、レガシーシステムや将来的にレガシー化が予測されるシステムをリストアップしましょう。次のようなものが該当します。

  • サポートが終了したITシステム
  • 社内で対応できる担当者がいないITシステム
  • 更新作業が長期間滞っているITシステム
  • 過剰にカスタマイズされているITシステム など

このようにリスト化することによって、優先的に対応すべきシステムが明確になります。

レガシーシステムを使用しているデメリットを社内で共有する

レガシーシステムの課題を情報システム部門だけが理解していても、解決は難しいと言えます。ITシステムの刷新は大規模なプロジェクトであり、情報システム部門だけで進行するのは難しく、変化を嫌う経営層や社員から反対されると、プロジェクトの進行が妨げられる可能性もあります。

そこで、レガシーシステムを使用するリスクを社内で根気強く周知し、周囲の理解を得ることが重要です。この際、経営者や役員などの影響力のある人物を巻き込むことで、デメリットを効果的に周知できるでしょう。

クラウド導入費とレガシー維持費を比較する

ITシステムの刷新には大きなコストがかかるため、その費用対効果を明確にしておく必要があります。まず、導入を検討しているクラウドシステムの見積もりを取得し、導入および運用にかかるコストを算出しましょう。

次に、レガシーシステムにかかる保守・メンテナンス費用や、万が一トラブルが発生した際の損害額と比較して、ITシステムを刷新するメリットを数値で明示することが重要です。これらの数字を示すことで、経営層や社員たちもDXに本腰を入れるかもしれません。

IT人材の雇用を積極的に進める

2025年にSAP ERPがサポートを終了するなど、今後さまざまなシステムがサービス提供やサポートを終了し、レガシー化していく可能性があります。これに備えて、IT人材の雇用を積極的に進めることが重要です。即戦力の正社員を採用するのが難しい場合、業務委託や派遣社員、社外情シスサービスの活用などの選択肢も柔軟に検討しましょう。

既存社員のITリテラシーを高める

社内のITリテラシーが低いと、新しいシステムの導入や運用がスムーズに進まない可能性があります。また、導入後も積極的に使用されないことで、DXが推進しにくくなる場合があります。そのため、社内研修などを活用して、社員のITリテラシーを高めていくとよいでしょう。

さらに、若手社員やITに興味のある社員にITスキルの取得を奨励し、社内でIT人材を育成することも効果的です。将来的に自社システムを管理できる人材を確保するために、長期的な視点で育成していくとよいでしょう。

段階的なシステム移行プランの策定

システム移行は、人的リソースやコストを必要とする大規模なプロジェクトです。全てのレガシーシステムを一度に移行するのは難しいため、刷新するシステムに優先順位を付け、段階的に移行を進めるプランを策定しましょう。

この際、専門的な知見を持つベンダーや外部サービスを活用することで、効率的に移行を進められる可能性が高まります。

まとめ

すでに迎えた「2025年の崖」。今後発生しうるリスクを回避するためにも、急いで対策を講じることが重要です。社内のITシステムを見直し、レガシー化しているものや将来レガシー化する可能性があるものを特定したり、IT人材を継続的に確保したりと、できることから一歩ずつ始めてみてはいかがでしょうか。いつ始めても、遅すぎるということはないのです。

著者紹介:金指 歩

ライター・編集者。新卒で信託銀行に入社し営業担当者として勤務したのち、不動産会社や証券会社、ITベンチャーを経て独立。金融やビジネス、人材系の取材記事やコラム記事を制作している。

関連情報