認証手段として一般化した“顔認証”

人間の生体情報を使った生体認証(バイオメトリクス認証)としては、指紋、静脈(指や手のひらなど)、目の虹彩を利用したものなどが知られている。携帯電話やスマートフォンでは、ロックの解除や個人の認証などに指紋を用いることは既に一般的になっているし、みずほ銀行や、りそな銀行などの大手銀行が指静脈認証を採用しており、ATMを利用する際のセキュリティを強化している。

このような認証方法の一つとして、人間の顔を利用した「顔認証」も広く使われるようになってきた。その精度はAI技術の一つである深層学習(ディープラーニング)の発展に伴い、さまざまな面で進化を遂げている。

顔認証では、カメラで読み取った画像を基に登録や認証を行うため、ほかの認証のように専用装置が必要なく、手軽に導入できる点がメリットとされている。2019年時点では、スマートフォンでもロック解除などに顔認証が利用されているため、一般的になっている。例えば、iPhone Xから導入されたAppleのFace IDを利用したことのある方も多いのではないか。

また、カメラの前で立ち止まることなく、歩きながら認証を行える「ウォークスルー認証」といった技術を利用すると、本人が意識しない間に認証を終えることが可能なため、心理的な負担はより一層少なくなった。

こうした利便性の高さなどから、顔認証はオフィスなどの入退室・入退館時の認証のみならず、PCやアプリケーションへのログオン、ドアの解錠、出退勤の打刻など、さまざまな用途へと広がりを見せている。

最近では、オフィスの複合機と連携したソリューションも誕生している。企業内で書類や伝票などを印刷する場合、印刷物の放置や取り間違えを防いだり、無駄な印刷を極力削減したりするために、認証後に初めて出力が行われる認証印刷システムがかなり一般化しているが、リコーでは顔認証を利用した「認証印刷ソリューション」を2018年10月より提供開始した。

認証にICカードを利用するシステムは珍しくないが、顔認証による認証印刷では、カメラに顔を向けると認証と印刷が行われるため、ICカードを席に忘れてしまって自席まで取りに帰る、といったこともなくなり、より手軽に利用できるようになっている。

こうした技術の進歩により、顔認証の用途は今後もますます広がっていくことが予想されている。

社会システムでの利用も広がる

このような企業内での利用だけでなく、社会システムへの導入も進んでいる。

例えば2019年2月、成田空港の新搭乗手続き「OneID」において、NECの顔認証システムが採用され、2020年春からの運用開始を予定していることが発表された。

OneIDでは、空港におけるチェックインなど、最初の手続き時に顔写真を登録すると、手荷物預け、保安検査、搭乗ゲートといったその後の手続きにおいて、従来は必要だった搭乗券やパスポートの提示を省略し、“顔パス”で通過できるようになるという。

保安検査場では、搭乗券確認を行っていた入り口をウォークスルーで通過して保安検査に進めるようになるほか、搭乗ゲートでも同様にウォークスルーで通過可能になるとのこと。これが実現すれば、利用客にとっての利便性の強化が期待される。

またNECは同年7月に、国内6空港の税関検査場で利用される「税関検査場電子申告ゲート」を財務省税関から受注したことも発表している。

この電子申告ゲートは、入国旅客による携帯品・別送品申告書の作成簡易化や、迅速な申告・通関手続きを目的として、税関検査に利用されるもの。税関検査場に設置された電子申告端末で撮影した顔画像と、出口ゲートに設置された顔認証カメラで撮影した顔を照合して、本人確認を行う。

出口ゲートに近づく人の顔を連続撮影することで、カメラの位置を意識することなく歩きながらの認証が可能なウォークスルー顔認証を実現している。そのため、利用する側の心理的な負担が軽減されているほか、スムーズな本人確認により、税関検査場の混雑緩和や検査待ち時間の短縮に寄与する。

一方で2018年8月には、東京2020 オリンピック・パラリンピック大会において、大会関係者の会場入場時の本人確認用にNECの顔認証システムが採用されたことも発表されている。全ての大会会場において、選手やボランティアなどの大会関係者約30万人を対象に、顔とIDカードを組み合わせた本人確認を行うという。

具体的には、ICチップを搭載したIDカードと、事前に撮影・登録した関係者の顔画像をシステム上でひも付け、大会会場における関係者エリアの入場ゲート全てに設置した顔認証装置を用いて、顔とIDカードによる本人確認を行う仕組みだ。IDカードを読み取り機にかざすと即座に顔認証が同時に行われ、スムーズな本人確認が可能になる。

IDカードによる認証だけでは、カードの貸し借りや盗難による“なりすまし”入場、IDカード偽装による不正入場などが行われる危険性があるため、顔認証を併用することで、セキュリティを高めようとしているわけだ。

顔認証・顔認識技術の利用は制限すべきなのか?

しかしながら、こうした顔認証やそのベースとなる顔認識技術については、特に社会システムでの利用に関して危惧も抱かれるようになった。

米Microsoftでは2018年7月、高度化する顔認識テクノロジーに対応するために、政府による規制と業界における方策が必要であるという見解を公表していたが、同年12月には「このテクノロジーは重要かつ刺激的な社会的利益と共に、乱用のリスクももたらす」と指摘。

「当社は、2019年中に、政府がこのテクノロジーを規制するための法律を制定することが重要であると考えている。何も行動を取らなければ、5年後には顔認識サービスが社会的問題を悪化させるような状況に直面する可能性もある。一度そうなってしまえば、課題を解決することははるかに困難で、明確な基準を作るためには、このテクノロジーとそれを開発し、活用する企業が、法の支配によって管理されることが必要だ」とした。

それは主に、三つの理由からだ。一つは「とりわけ開発が初期段階にある現状を考えれば、顔認識テクノロジーの特定の利用法が偏見を含み、さらには、法に違反するような差別を含む意思決定(より一般的にいえば、結果)を生み出すリスクを増す可能性がある」ため。

また残りの二つとして、「このテクノロジーの広範な利用が、人々のプライバシーを侵害する可能性がある」「政府による大規模監視のための顔認識テクノロジーの利用が、民主主義の自由を損なう可能性がある」ことを挙げている。

実際に、米国サンフランシスコ市では2019年5月、公共機関による顔認証技術の使用を禁止する条例案を可決。ほかの都市でも、制限を検討しているところがあるという。現在、防犯などの用途で顔認識・顔認証技術を利用する場も増えてきたが、こうした技術が“厳格なリアルタイム監視社会”へとつながるのではないか、と懸念する声も小さくはない。

顔認証は、便利に使えばとても価値のあるソリューションだといえるが、こうした危険性を考慮するのか、考慮するとすればどこまで制限するべきなのかといったことも踏まえて、今後の展開を考えていく必要があるのかもしれない。