すでにWindowsやOfficeの企業ではない

「Microsoftは、WindowsやWindows ServerといったOSを開発し、これをデバイスメーカーなどに供給する企業、あるいはMicrosoft Officeを開発して、多くの企業に使ってもらう企業というイメージが強い。だがいまやマイクロソフトは『クラウドの会社』であり、それはグローバルにおいても、日本においても同様だ。パートナーや顧客との会話、活動、提案において、クラウドが軸になっていることや、『クラウドファースト』でビジネスを行っていることは、多くの人たちに感じてもらっているはず」と、平野前社長は語る。

それは業績の面からも明らかだ。

米Microsoftが発表した2019年度(2019年6月期)の業績では、過去最高の売上高となる1,258億ドル(約13兆円)に達し、そのうちコマーシャルクラウドの売上高は381億ドルと3分の1弱にまで拡大。「競合会社の2倍の成長率を遂げ、世界最大のクラウドベンダーになった」と宣言してみせた。

また日本でのクラウドの成長率は、グローバルを上回る成長を遂げている。クラウドビジネス全体で、グローバルの成長率を上回っただけでなく、Azure、Office 365、Dynamics 365といったそれぞれのクラウドビジネスでも、グローバルの成長率を上回っている。日本マイクロソフトは、グローバルでもトップレベルの成長を遂げているという。

このように、日本マイクロソフトのクラウドシフトは鮮明だ。

実はWindowsの売上高は、いまや全体の1割程度にすぎず、「Windowsの会社」という言葉は、同社を表現しきれる言葉ではなくなっている。その点でも、「クラウドの会社」という方が同社の姿を正しく示しているといえよう。

マイクロソフトのクラウドビジネスが好調な理由

日本マイクロソフトのクラウドビジネスが好調な背景にはいくつかの理由がある。

一つ目は、Microsoft AzureというIaaS(Infrastructure as a Service)およびPaaS(Platform as a Service)の基盤とともに、Office 365という圧倒的シェアを持つSaaS(Software as a Service)を提供していること。さらに、Dynamics 365によってクラウドベースのCRM(Customer Relationship Management)やERP(Enterprise Resources Planning)を提供するなど、幅広いクラウド製品群をそろえていることが挙げられる。

この分野でスタンダードとなっているOfficeユーザー資産を、クラウド環境へ移行。また、Microsoft AzureにおいてはLinux環境での利用が半数に達するなど、多くの開発者を取り込むことに成功し、Microsoft Azureを基盤にしたIaaS、PaaS、SaaSの活用が一気に増加した。

これだけの広範なクラウド環境を提供できることは、日本マイクロソフトがクラウドビジネスを展開するうえで大きな武器になっている。

二つ目は、早期に日本へのデータセンターの開設に取り組んだことだ。日本マイクロソフトは、2014年に東日本と西日本の2カ所同時にデータセンターを開設。これによって、日本の企業が国内だけでディザスタリカバリーを行える体制を作り上げている。

国内にデータセンターを設置するエンタープライズグレードのクラウド提供によって、官公庁や自治体、金融機関など、日本にデータを置いておきたいユーザーなどをしっかりと取り込むことに成功した。

三つ目は、2017年以降、クラウドビジネスを中心とした組織体制へと大きく変更した成果だ。パートナー向けプログラムや顧客への提案、日本マイクロソフト社員に対する評価制度もクラウドビジネスを前提とした仕組みに変更。クラウドを売るだけではなく、それをいかに活用するかを重視した仕組みへとチェンジさせた。

さらに、日本マイクロソフト自らが「働き方改革推進企業」を掲げたように、自らがクラウドを活用してデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、その成果をパートナーや顧客に提案していったことも、クラウドビジネスの広がりを下支えした。

クラウドの理解が深まり、ビジネスも加速する

こうした動きにあわせて、Azureに関するパートナーのスキルが向上。パートナーによる提案の加速によって、クラウドの活用に対する理解が高まり、ビジネスが加速するという好循環が生まれたことも見逃せない。

日本マイクロソフトによると、過去4年間でAzureの新規顧客数は4倍に増え、デジタルトランスフォーメーション関連事例は、前年比で2倍以上になっているという。

2020年1月にサポートが終了するWindows Server 2008/2008 R2や、2020年10月にサポートが終了するOffice 2010の移行においても、クラウド移行を最善の提案に位置づけている。

「企業のデジタルトランスフォーメーションを実現するには、Azureへの移行やハイブリッドクラウドの活用が最適な回答になる。また、よりセキュアで最新の機能を使ってもらうためには、Microsoft 365が有効であり、これによってモダンデバイスの利用を通じて、AIテクノロジーを駆使しながら働き方改革を支援することができる」とする。

日本マイクロソフト 業務執行役員 クラウド&エンタープライズビジネス本部の浅野智本部長は、「移行先としてクラウド志向が高まっており、2018年3月の調査では7.2%だったものが、2019年6月の調査では26.9%に増加している。Azureの指名が増えている傾向がある」とする。

Windows Server 2008で構築したシステムを、Microsoft Azure上に移行する場合には、延長サポート終了後も3年間はセキュリティパッチを無償で提供する移行施策も用意しており、これもクラウドシフトを後押ししている。

だがクラウドシフトだけが、日本マイクロソフトの成長を支えているわけではない。クラウドシフトを行う一方、オンプレミスの商談にもしっかりと対応できる体制を維持している点も、日本マイクロソフトの特徴のひとつだ。

平野前社長はこれを、「マイクロソフトは、クラウドネイティブ企業と言われるような、100%クラウドの会社ではない。しかし、オンプレミスを持っていることはマイクロソフトの強みである。顧客の中には、オンプレミスでなくてはいけない状況や、オンプレミスが一番適している状況が存在する。超機密情報であり、データは外には一切出さずに、鍵を何重にもかけておくという場合もある。そうした環境に向けた提案もできるのが、マイクロソフトが持つユニークな部分だ」と表現した。

パートナー戦略もクラウドを軸とした施策へ

日本マイクロソフトは、先ごろ発表した2020年度(2019年7月~2020年6月)のパートナー事業戦略においても、クラウドを軸とした施策を積極化する姿勢を示した。

日本マイクロソフト 執行役員常務 パートナー事業本部長の高橋美波氏は、「パートナーのクラウドビジネスの比率をさらに高め、クラウド比率が70%を超えるパートナーを増やしていきたい」と意気込む。

それに向けて、パートナープログラム対応業種の拡充やインダストリー リファレンス アーキテクチャ拡充、マーケットプレイスを通じたクラウドベースのソリューションの拡販、Microsoft Azure認定技術者の増強支援や業種SE向けトレーニングの展開、クラウドおよびAI技術者の増強などに取り組むことを示した。

クラウド中心のパートナー施策は、パートナーとの関係を大きく変えることにつながる。

従来のパートナーとの話し合いは、「いつまでに、どのプロダクトを、どれぐらい売るか」という話が中心であり、そのために何人にトレーニングをして、イベントを何回開催して、それをどう支援するかという話がメインとなった。

だが、クラウド時代のビジネスは「今後どんなソリューションに注力するか」、「そこにマイクロソフトやパートナーのテクノロジーをどう使うか」、「そのソリューションをマーケットに対してどう展開するか」という提案になり、短期的な収益だけを求めるパートナー施策ではなくなる。

「Azureを売るとかAIを売るとかいう発想は、顧客にとっては何も意味もない。売るのではなく、使ってもらうことが指標になる。どのインダストリーに向けて、どんなソリューションを提供し、それを一緒にやっていくための支援策が大切であり、従来の売り方や従来の付き合い方から大きく変わることになる」とする。

それをいち早く理解したパートナー企業こそが、マイクロソフトのクラウドビジネスをドライブできることになる。

新たなパートナー戦略を打ち出したことで、「日本のナンバー1クラウドベンダー」に王手をかけた日本マイクロソフトのクラウドシフトの総仕上げが始まる。