富士通がDXに舵を切る

富士通の時田社長は、「デジタル技術とデータを駆使して革新的なサービスやビジネスプロセスの変革をもたらすもの」と、同社が目指すDXの姿を定義。「富士通は、伝統的なICT企業として、製品やサービスを提供してきた。だが、これからはテクノロジーをベースにして、社会やお客様に価値を提供する会社に変わっていくことになる。これがDX企業である」と語る。

そして、「富士通の使命は、一人でも多くの人々に、テクノロジーを通じて幸せをもたらすことである。富士通には世界有数の顧客基盤があり、社会から求められる価値を実現し、パートナーと共創することで課題解決に貢献できると確信している。環境や社会、ビジネスに好循環をもたらすインパクトを生み出したい」と意欲をみせる。

産業全体を俯瞰(ふかん)しても、富士通がDXに舵を切る理由が分かる。

オンプレミスや既存SIなどの従来型IT市場は、年平均成長率がマイナス2~3%と縮小傾向にある。これに対して、レガシーのリプレースや、DXの実現に必要なクラウド移行といったモダナイゼーションへの投資は堅調に増加しており、年平均成長率6.0%となっている。さらに、データ利活用やAI、IoTなどの新たなテクノロジーを駆使したDXへの投資は、33.4%増と急拡大すると予測されている。

富士通にとっては、成長率が高いDX領域に軸足を置くことが、そのまま企業成長に直結するというわけだ。

「富士通では、DXやモダナイゼーション、可視化、効率化といった領域を『デジタル』と位置づけ、これを成長のドライバーとして、ビジネスを伸長させることになる。デジタル領域は、高い付加価値を実現できるポテンシャルがあり、将来的に利益の拡大を実現できる」と時田社長は語る。

七つの重点技術領域にリソースを集中

DXを加速するうえで、富士通はいくつかの取り組みを開始した。

一つめは、DX分野における富士通独自の強みを発揮するための地盤づくりとして、「コンピューティング」「AI」「5G」「サイバーセキュリティ」「クラウド」「データマネジメント」「IoT」の七つの重点技術領域にリソースを集中することだ。

このうちコンピューティングでは、超高速処理技術「デジタルアニーラ」やスーパーコンピューターなどの最先端技術の開発、実用化に取り組む。中でも、次世代スーパーコンピューター「富岳」はいよいよ開発を完了し、石川県かほく市の富士通ITプロダクツで生産をスタート。2019年12月には第1号機の出荷が予定されている。共用開始は2021年から2022年ごろの想定だ。

一方で、デジタルアニーラは、「組合わせ最適化問題」を高速に解くことができる技術で、物流分野において、ドライバーの最適な配送ルートの選定などで活用されるほか、あらゆる組み合わせによって高度な最適解を求める化学、創薬分野などでの応用が期待されている。2017年度に技術発表を行って以降、PoC(Proof of Concept)を経て、2018年5月には商用サービスを開始。これも富士通ならではのDXを支える技術として注目を集めている。

AIでは、同社のAI技術「Zinrai」への取り組みのほか、説明責任や倫理が重視されている流れをとらえて、説明可能な技術を提供。これによって、実ビジネスへの実装を加速する。同社では、2019年3月に「AIコミットメント」を発表。説明可能で、透明性、精度、品質を備え、社会から信頼され、成長するAIを提供する姿勢をみせている。

5Gは、デジタル技術との組み合わせによって同社の強みを発揮できる領域だ。この分野では、エリクソンとの戦略的パートナーシップを推進。NTTドコモ向けには、5G対応基地局無線装置と制御装置の納入を開始している。「5Gは、スマートファクトリーや遠隔医療、自動運転などのさまざまな産業分野への適用に加えて、業種や業界を超えた新たなビジネスモデルの創出を促進することで、DXを加速することができる」とする。

IoTでは、2020年には全世界で800億個のデバイスがネットワークにつながることを視野に入れながら関連技術の開発を促進。大量のデータ処理を停止させることなく追加、変更できる「Dracena」などのソリューションも提供する。大規模データやアプリを処理し、UXおよびCXを向上するリアルタイムデジタルツインの取り組みも鍵になる。

こうした重点技術領域におけるテクノロジーへの投資だけでなく、DXビジネスの機会創出と新事業の推進に向けた投資として、今後5年間で5000億円を実行する姿勢もみせる。

例えば、5Gでは、通信キャリア向けビジネスだけでなく、ローカル5Gの提案強化を進めるための社内連携を強化。長年の通信キャリアビジネスで培った技術や人材を、エンタープライズ向けのネットワークコンサルティングに活用するといった取り組みも行うとした。

DXビジネスを牽引する新会社を設立

二つめは、DXビジネスを牽引する新会社を、2020年1月に設立することである。

新会社は、富士通本体からは自立したコンサルティングファームとして設立。競争力のある集団として、富士通グループの枠を超えてビジネスを展開することになる。

まずは、500人超のDXコンサルタントの体制でスタート。2022年度には2000人に拡大する予定だ。富士通の営業やSEから選抜した社員をコンサルタントに転換させるとともに、富士通総研の上流コンサルタントの移籍、ソフトウェア開発部門や、データ分析、AIに関わる技術者も加えることになる。さらに、外部から高いスキルを持つコンサルタントを新たに獲得する予定だ。

これにより、戦略コンサルティング、業種コンサルティング、ソリューションコンサルティング、テクノロジーコンサルティングなどを通じて、DXの提案から企画、構築、運用までをワンストップで提供する。

時田社長は、「富士通製品にこだわらず、社内外から最適な製品を用いて、ソリューションを提供する。富士通の製品やソリューションを前提にしたビジネスはしない」とし、「まずは、DXが進んでいる金融や製造、流通を最初のターゲット分野として定めるが、富士通が十分にアプローチできていなかった顧客にも積極的に提案することになる」と語る。

内側から“DX企業”へと変革

三つめは、富士通を、内側からDX企業に変える取り組みだ。

時田社長自らが10月1日付で、CDXO(Chief Digital Transformation Officer)に就任。「富士通自らがDX企業になるために、社内の非効率なプロセスやインフラの刷新を行い、社内改革を確実に実行する。そのために私自身がCDXOとして、富士通グループの先頭に立って社内改革を行っていく」と意気込む。

時田社長は、1988年4月に富士通に入社して以来、主に金融部門を担当し、複数の大手生命保険会社の大規模システムの再構築などを担当してきた人物で、金融機関における勘定系レガシーシステムのオープン化や、FinTechの流れにあわせて金融機関のデジタル対応にも取り組んできた。

「メインフレームからUNIX、Windows、インターネットといった大きな技術革新を、現場の最前線で経験してきたことが、いま起こっている技術変化に生かせる」(時田次期社長)とする。

富士通が目指すのは、「多様性に富むプロフェッショナル集団となり、クリエイティブなアイデアを生み出し、それを顧客に提供できる企業」だ。「富士通自身がDXに率先して取り組み、そこで得られた知見や経験値を顧客に提供することができる」と自らがモルモットになる姿勢をみせる。

時田社長は、「これまでは製品、サービスを個別に提供し、それに則した組織構造としていたが、ハードウェアとソフトウェア、サービスが一体となった提案や発想ができる組織に変える。営業やSEといった職種についても今後は見直していくことになる」と、組織の改革、人事制度の改革、カルチャーの革新に大胆に取り組む考えだ。

強いところを伸ばしながら新たなカルチャーを社内に作っていく

富士通では実績として、2022年度までに「デジタル」領域で年平均成長率12%増を見込み、売上高は1兆3000億円を目指している。そのうちDXでは3000億円のビジネス創出を目指す。

連結業績見通しでは、2022年度にはコア事業となるテクノロジーソリューションの売上高が年平均成長率3%増となる3兆5000億円、営業利益率10%を目指しており、DXを含むデジタルが、コア事業の拡大と同社の成長を牽引することが分かる。

時田社長は、「テクノロジーを顧客や社会の価値に変えるということにもっと取り組まなくてはならない。また、業種や業務ごとに蓄積されたノウハウを横断的に活用し、クロスインダストリーな価値を生み出す活動へと発展させる必要がある」などとし、成長に向けた課題を自ら指摘する。

そして、「富士通には、優秀な人材と、とがった技術やアイデアがあるが、それを統合することや、知恵を結集して次の未来やステップを描くことが不得意である。長年に渡ってお客様を第一とし、現場に強く、お客様に寄り添ったビジネスを行う反面、アイデアを出しながら、次のテクノロジーでお客様の新たな価値を届けるといった経験が少なかったからだ。外の力を使って協業することも下手である。DXの実現には、富士通が持つ強いところを伸ばしながら、新たなカルチャーを社内に作らなくてはならない」とする。

富士通の強みを生かしたDXビジネスの実現に向けて、先進テクノロジーの強みと、強固な顧客基盤に支えられた業務や業種ノウハウの蓄積を、どう生かすことができるか。「富士通自身の変革と、多くの人への貢献という両輪で事業を進め、社会やお客様から必要とされる企業、社員がいきいきと働ける企業の実現を目指す」とする時田社長は、DX企業になるために大胆な改革に着手している。

  • * 本稿に記載された各種IT製品、テクノロジーにつきましては、記事制作時の技術動向に関する幅広い知見を基にして構成されています。これは制作を担当したクラウドWatch編集部(株式会社インプレス)の所見であり、大塚商会においてお取り扱いのないものも含まれております。あらかじめご了承いただきますようお願いします。