インダストリー別専門組織体制を確立

日本マイクロソフトでは、Vision 2020(企業目標)として「日本の社会変革に貢献する」ことを打ちだし、それを実現するための注力分野として、三つのイノベーションにフォーカスしている。

さまざまな業種においてのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する「インダストリーイノベーション」、働き方改革をさらに推し進める「ワークスタイルイノベーション」、そして、生活シーンにおけるライフスタイルの変革を支援する「ライフスタイルイノベーション」の三つである。

これらのうち、インダストリー別専門組織体制は、最初の「インダストリーイノベーション」を推進するエンジンとしての役割を担うもので、クラウドとAIを活用した業種別のDX推進に向け、社内の営業やサービス体制も強化している。

また、パートナーとの業種ソリューションでの連携などを拡大するほか、DXの基盤となるデータセンターモダナイゼーションを推進し、ミッションクリティカルシステムのAzureへの移行、Windows Server 2008のサポート終了に伴うクラウド化の推進を図ることになる。

具体的な組織体制としては、エンタープライズ事業本部の中に、自動車メーカーや自動車部品メーカー、モビリティサービス提供事業者向けの「自動車」、化学品や農薬、組み立て製造業、エネルギーを対象にした「製造&資源」、銀行、証券、保険などの「金融」、メディアエンターテインメント、テレコミュニケーションをターゲットにした「メディア&通信」、消費財、小売業、オンライン事業者などの「流通&消費財」、交通やモビリティ、テクノロジーにフォーカスした「運輸&サービス」、パブリッシャーや開発会社、ホスティング事業者向けの「ゲーミング」の七つのインダストリー統括本部がある。

また、パブリックセクター事業本部には、中央省庁および自治体を担当する「ガバメント」、文教分野に取り組む「教育」、医療機関や製薬会社などを対象にした「ヘルスケア」の三つのインダストリー向け統括本部を設置している。

エンタープライズ事業本部とパブリックセクター事業本部を合わせると、実に10の業界に細分化した専門体制を敷いていることになる。また、それぞれのインダストリー統括本部は、米国本社のインダストリー別組織と緊密な関係を築きながら、事業を展開しているのも特徴だ。

複数の成功事例を公開

ここでは既にいくつもの成果が上がっている。

例えば医療分野では、「医療現場の改革」「医療の質の均てん化(地域格差等をなくし、みな等しく利益を享受できること)」「ヘルスケア連携」という三つの観点から展開。その一例として、国立がん研究センター東病院のクラウドシステムでは、Azure上に「医師の暗黙知のデータベース」と手術映像を保存するストレージ環境を用意。双方のデータをWebアプリケーションに取り込んで表示する仕組みを採用している。

製造&資源領域においては、「製品のイノベーション」「コネクテッドフィールドサービス」「コネクテッド販売・サービス」「未来の工場」「インテリジェントサプライチェーン」の五つのイノベーションを推進。インテリジェントな製造業へ向けた変革をサポートする。ここでは、THK株式会社の製造業向けWebサービス「Omni THK」において、AzureベースのIoT / AIを活用した例が挙げられる。製品の在庫検索、短納期品の選定、各種情報のダウンロードにより、いつでも、どこでも見積りを取得し、その場で発注申請ができるなど、製造業のあらゆる工程をサポートすることができるという。

また流通&消費財領域では、「顧客の理解」「インテリジェントサプライチェーンの実現」「従業員の能力強化」「小売りの再創造」という観点からシナリオを推進。九州地区を中心に展開するスーパーマーケットのTRIALが、無人レジ化を目指すスマートチェックアウトにおいて、トランザクション処理にAzureを利用。将来の無人店舗化に向けた取り組みを行っている例などがある。

併せて、欧米での先進事例も積極的に紹介している。米国Microsoft本社は2018年以降、Walmart、GAP、Kroger、Walgreensなどと戦略的パートナーシップを発表しており、中でも、大手スーパーマーケットチェーンであるKrogerは、デジタルシェルフを構築して、来店者向けの情報を個別に商品棚部分に表示するなど、ストアの中でもパーソナル化した体験を提供できるようにしている。Krogerでは、自ら導入したこのソリューションを同業他社にも提供するRaaS(Retail as a Service)の展開でも注目を集めている。

Microsoft(マイクロソフト) Microsoft Azure 活用ガイド

リファレンスアーキテクチャーの提供で変革を加速

これらのインダストリー別専門組織では、共通の取り組みがある。

それはリファレンスアーキテクチャーの提供だ。これは、業界ごとに共通に必要されるテクノロジーや仕組みなどを日本マイクロソフトが提供し、開発期間の短縮やコスト削減につなげることができるというものだ。

自動車業界向けの「MaaS(Mobility as a Service)リファレンスアーキテクチャー」では、ユーザー認証やセキュリティなどの共通部分を提供している。具体的には、新規事業開発やDXを促進するために必要な機能要件をまとめた「ファンクションマップ」、機能要件をシステムアーキテクチャーに落とし込むほか、データ構造の標準化、運用方法に関するホワイトペーパーとして提供する「アーキテクチャーマップ」、アーキテクチャーやデータ構造に基づき、AzureやMicrosoft Dynamics 365、Microsoft Teamsなどのマイクロソフト製品によるサンプル実装を行う「パイロットインプリメント(構成)」で構成されている。

また流通業界向けには、「Smart Storeリファレンスアーキテクチャー」として、スマートフォンなどによるキャッシュレス決済機能や、数百万の商品在庫を数百店舗で一括管理できる商品マスター、商品トランザクション管理などに関する主要な業務シナリオ、サンプルアプリケーション、サンプルコードを提供する。これを活用することで、新規サービスの開発期間を5割短縮、実装方式設計コストを7割削減でき、さらに将来的な運用コストも5割削減できるという。

日本マイクロソフトは、「リファレンスアーキテクチャーは、先進テクノロジーを用いた課題解決の仕組みを、オープン化した、業界共通のフレームワークとして提供できるもの。差別化しない部分は共通的に提供し、それぞれの企業はそれ以外の部分で差別化することになる。日本マイクロソフトは、テクノロジーインフラサービス提供者として、リファレンスアーキテクチャーを無償で提供する」と語る。

そのほかにも、インダストリー別専門組織の共通の取り組みとして、それぞれの業界におけるエコシステムの構築、技術者育成プログラムの実施、新規ビジネス開発支援といった施策をそれぞれに用意した。例えば流通業向けには、1年間で約3,000人の技術者育成を目指したSmart Store技術者育成プログラムを実施している。

業界ごとの課題に対応する必要性

日本マイクロソフトが、こうしたインダストリー別の取り組みを加速する背景にはいくつかの理由がある。

一つは、あらゆる業界のあらゆる企業がソフトウェア企業化し、DXへの取り組みが不可避となる中で、日本マイクロソフトとユーザー企業が、より緊密な連携を取る必要が生まれているという点だ。

従来は日本マイクロソフト、パートナー、ユーザー企業という商流をベースにした連携が中心であったが、今では、三者が一緒になってDXを推進し、それを活用することでビジネスを拡大することが一般化しようとしている。
業務効率アップのために利用するツールではなく、テクノロジーがビジネスそのものを推進する役割を担うようになったことで、日本マイクロソフト、パートナー、ユーザー企業の関係がより緊密になる必要があるのだ。

さらには、業界ごとに置かれた環境が異なり、それに合わせた提案が求められている点も見逃せない。

流通業界は長年にわたり、POSシステムを中心としたレガシー環境から脱却できず、大量のデータはあるがそれが生かされない状況にあった。

また金融業界では、勘定系システムは絶対に止められないため、従来のシステムの方が安心であり、かつ低コストで導入できるメリットがあるとされていた。ところが今では、企業に対する銀行機能の提供や、顧客へのサービス強化のためのAPI活用・情報共有において、レガシーシステムやレガシーの言語では限界があると認識されるなど、大きく意識が変わってきている。銀行機能を異業種やFinTech企業に対して提供するBaaS(Bank as a Service)の実現には、新たなテクノロジーの導入が不可欠になってきたというわけだ。

それぞれの業界において固有の課題を抱えながら、システムのサイロ化によって運用コストを増大させ、単一のテクノロジーやソリューションに頼っていては早晩手詰まりとなるだろう。加えて、新たなテクノロジーに追随できる技術者の育成や確保がますます困難となることからも、一度視野を広く取って、包括的にそれぞれの課題を解決していく必要があるのだ。

「それぞれの業界において、革新的で、安心して使っていただけるインテリジェントテクノロジーを提供し、これによって、日本の社会変革に貢献する」と日本マイクロソフトが語る意義は、そこにある。

Azureの普及戦略において、インダストリー別専門組織体制の存在はますます重要になりそうだ。

  • * 本稿に記載された各種IT製品、テクノロジーにつきましては、記事制作時の技術動向に関する幅広い知見を基にして構成されています。これは制作を担当したクラウドWatch編集部(株式会社インプレス)の所見であり、大塚商会においてお取り扱いのないものも含まれております。あらかじめご了承いただきますようお願いします。