データフォレスト構想に基づく新サービス

ヤフーでは2019年2月、顧客となる企業や自治体の持つデータと、ヤフーのビッグデータを掛け合わせて分析し、そこから導き出されるインサイトを提供するデータソリューションサービスを、10月より開始すると発表している。

10月の発表はこれを受けて正式なサービス開始がアナウンスされたものだが、実はこの新事業、そもそもはヤフーが2018年2月に発表し、2018年11月にもあらためて表明された「データフォレスト」構想に基づいている。

ヤフーでは、検索やメディア、ECなど多岐にわたるビッグデータを保有しており、そのデータとAI技術を用いて、検索エンジンであるYahoo! JAPANのサービス改善を続けてきた。さらに近年では、ECサービスの改善に、ECだけでなくメディアのデータも使うなど、異なるサービスのビッグデータを掛け合わせて分析することで、より大きなサービス改善を見込めることが分かってきたという。

しかし、いくら有効なデータであっても、ヤフー社内だけでの活用にとどまっているといえる。また、ヤフー以外の企業も当然、業務を通じてさまざまなデータを蓄積しているはずだ。そこで、これらのデータを、顧客のプライバシーなどに配慮しながら相互活用し、顧客ニーズの分析、社会課題の解決などにつなげていこうというのがデータフォレスト構想だ。

構想の発表に際して、実証実験への参画団体を広く募集。官公庁や民間企業など、100を超える組織から問い合わせがあったという。また、実際に実証実験へ至ったケースは約20件に上り、商品開発・価格最適化・需要予測などの取り組みが行われてきた。

それが具体化されたものが、2019年2月に立ち上げられたデータソリューション事業だ。ヤフー株式会社代表取締役社長の川邊 健太郎氏は、「ヤフーに蓄積されているデータを自社のサービス改善だけに役立てているのはもったいない。各所のデータを掛け合わせて、日本企業の成長につなげていくのがデータフォレスト構想だ」と話す。

2019年2月の発表時点では、具体的なサービスとして、生活者の潜在ニーズやトレンドをリアルタイムに把握できる「生活者の興味関心の可視化ツール(DATA FOREST INSIGHT People)」、エリアの特性や人々の動きを生活者の興味関心とひも付けて理解できるようにする「エリア特性・人流の可視化ツール(DATA FOREST INSIGHT Place)」、ヤフーのビッグデータとAI技術を用いた「レコメンドエンジン(DATA FOREST ENGINE Recommend)」の三つを提供するとしていた。

正式サービス開始に当たり、生活者の興味関心の可視化ツールが「DS.INSIGHT People」、エリア特性・人流の可視化ツールが「DS.INSIGHT Place」という名称になり、それらを統合して、各種ビッグデータをブラウザー上から調査/分析できるダッシュボードサービス「DS.INSIGHT」として紹介されている。

また、企業および自治体の個々のニーズに応じて、ツールとしては提供していないヤフーのビッグデータも含めた分析、およびそれをもとにした事業支援を行うレポーティングサービス「DS.ANALYSIS」も発表された。こちらは、いわばオーダーメードの課題解決サービスといえる。

サービスを体験できるラボも開設

2019年5月には、サービスの体験などを行える拠点「DATA FOREST LAB」が、ヤフーの紀尾井町オフィス内にあるオープンコラボレーションスペース「LODGE」に設置された。

これは、データに基づいて事業課題の解決を目指す企業や自治体の担当者が、提供予定の機能、開発中の機能の一部などを無料で利用できるもの。企業や自治体が各種機能を用いて、商品やサービスの開発・改善をはじめ、あらゆる事業活動に役立つインサイトを導き出せるよう、データ活用のセミナー、ヤフーのデータアナリストによる支援、実際のデータ分析などを通して、参画企業・自治体同士が情報交換できる仕組みなどを提供している。

発表当時は、「DATA FOREST INSIGHT People」の一部が利用でき、特定キーワードと一緒に検索されているキーワードや、特定キーワードを検索しているユーザー群の行動特性などを、ランキングや規模の推移といった形式で閲覧可能にしていた。

現在は正式サービスの提供開始に伴い、名称を「DS.LAB」へ改称。サービスの提供を継続している。利用には審査が必要だが、ヤフーのWebサイトから申し込みが可能だ。

これなら価値を生み出せるのでは? と思っても、実際の効果はやってみなければ分からない部分も多い。実際に試行できるラボは、企業にとってはありがたいだろう。

「ヤフー・データソリューション」の効果

なお、正式サービスは開始されたばかりだが、「ヤフー・データソリューション」の効果の一部は、実証実験を通じて既に幾つか判明している。

例えば江崎グリコは、女性ユーザーのダイエットへの関心を検索動向から分析している。それによると、ある特定の栄養素(具体名は非公表)について検索したことがある層は「糖質」「カロリー」「おから」などのトピックに強い関心を示していたことが分かったという。逆に、その栄養素名を検索したことがない一般女性層は「肉」「作り方」「簡単」などへの関心が高く、異なる傾向を示したとのこと。

またセブン&アイ・ホールディングスでは、消費者の関心を調査した。新婚家庭ではレシピを検索する回数が増える傾向にあるというが、その検索ワードは、当初は「ハンバーグ レシピ」「カレー レシピ」などが中心だが、時間の経過とともに「キャベツ レシピ」「じゃがいも レシピ」のようなものに変わっていく。つまり、何を食べたいのかよりも、今手元にある食材をどう料理すればいいのかに困っていると類推されるというのだ。

ほかにも、年末には忘年会に着ていく服に悩んでいたり、大みそか当日になると「鍋」「エビチリ」など、正月料理とは直接関係のない料理の検索が増えたりすることも分かった。こうした傾向は、ヤフーが持つ膨大なデータを活用してこそ判明したという。

三越伊勢丹では、子育て中の小柄な女性に向けて新商品のロングスカートを開発した。具体的には、「Yahoo!検索」の検索キーワードや「Yahoo!知恵袋」の質問書き込みといったビッグデータを統計化したうえで、深層学習(ディープラーニング)や自然言語処理などのAI技術によってそれらを解析し、三越伊勢丹のECブランド「arm in arm」のターゲットである、子育て中の女性の服装に関するトレンドや悩みを抽出した。

その結果、小柄な方はロングスカートへの関心が高く、子育て中の女性は着こなしや自転車の利用、抱っこひもとの合わせ方、静電気などに悩んでいることが分かった。三越伊勢丹は、こうして得られたインサイトをもとに、子育て中の女性との座談会を行うなどの仮説検証を進め、ロングスカートの開発につなげた。

正式サービスの発表会では、9月25日から販売を行ったところ、過去、一番売り上げの高かったスカートと比べて、初週の販売数が約2.6倍になったことが明らかにされている。

同社では、今回の商品の反響などを踏まえながら、ビッグデータを用いたアパレル商品の開発、ファッションとテクノロジーを掛け合わせた「ファッションテック」の推進に挑戦するとのことだ。

これからも、こうした新しい分野への活用が期待されているが、さらに、2社・団体ではなく、3社以上のデータを掛け合わせた場合にどうなるのかという点も興味深い。ヤフーでは実際にそうした取り組みを行いたいとしており、「DATA FOREST LAB(現:DS.LAB)」の開設発表時には、ラボを参画企業同士の交流の場としても機能させたい考えを示している。

まだまだ始まったばかりの取り組みだが、今後の展開を注意深く見守っていきたい。

  • * 本稿に記載された各種IT製品、テクノロジーにつきましては、記事制作時の技術動向に関する幅広い知見を基にして構成されています。これは制作を担当したクラウドWatch編集部(株式会社インプレス)の所見であり、大塚商会においてお取り扱いのないものも含まれております。あらかじめご了承いただきますようお願いします。