さまざまな業種で活用が検討されている

HoloLensはあくまでもデバイスに過ぎず、どういったことが可能になるかはアプリケーション次第だ。そのためさまざまな用途が考えられているが、中でも広く知られているのは日本航空(JAL)の取り組みである。

同社では2016年4月、HoloLensを活用して「ボーイング737-800型機 運航乗務員訓練生用トレーニングツール」と「ボーイング787型用エンジン整備士訓練用ツール」の二つをPoC(Proof of Concept)として開発した。

このうち前者の「運航乗務員訓練生用トレーニングツール」は、運航乗務員訓練生の副操縦士昇格訓練における、補助的なトレーニングツールとして活用するものだ。従来の訓練法では、主にコックピット内の計器やスイッチ類を模した写真パネルに向かい、操作をイメージしながら操縦手順を学習していたというが、HoloLensを利用することで、リアルなコックピット空間をいつでもどこでも体感できるようになった。

具体的には、目の前にホログラムとして浮かび上がる精細なコックピット内の計器、スイッチ類の操作を、HoloLens上の映像や音声ガイダンスに従い、自らの体を使ってシミュレーションできるようにしている。

JALでは当時、「初期段階のトレーニングは紙を使ったもの。その操作方法が正しいかどうかは、ほかの人に見て判断してもらう必要があったし、実際のコックピットに移動した際のギャップもある。HoloLensを利用することでそうした課題が解決できる」と、その効果を説明していた。

また2017年11月には、航空機メーカーの仏Airbusが、JALと共同で訓練用アプリケーションのプロトタイプを開発し、その様子を公開している。Airbusが開発したのは、自社の航空機「A350 XWB(eXtra Wide Body)」向けの整備および操縦訓練アプリケーション。HoloLensを装着することで、ディスプレイを通じて3Dのコックピット空間などを作り出すことができ、実機がなくても実際の訓練と同様の内容を実施できるという。コスト効率が高く、効率の良い訓練、運用ソリューションが実現できる点がメリットだ。

新潟県に本社を置く建設会社の小柳建設でも、HoloLensを活用したプロジェクト「Holostruction」を実施しており、2017年には、建設業における計画・工事・検査の効率向上および、アフターメンテナンスのトレーサビリティーを可視化するコンセプトモデルを開発したことが発表されている。

さらに2018年4月には、JRCSが海運・海洋産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けてマイクロソフトと提携。その一環として、リモートトレーニング、リモートメンテナンス、自動航行のための操船支援などで、HoloLensを活用したソリューションを提供している。

これら、交通、製造、建設、海運の各業界に加えて、医療や教育といった分野でも既に活用事例が生まれており、さらなる利用拡大が期待されるところだ。

技術継承や遠隔サポートなどで人材面の課題に対応へ

このようにさまざまな取り組みで活用が期待されているHoloLensだが、技術継承への効果も期待されている。定年を迎えて退職していく多くのベテラン社員は、さまざまな業務ノウハウを持っている。ところが、各企業は以前ほど教育に時間をかけることができなくなっており、現場で技術を教えていく余裕も失われてしまっている。こうした中で、MRを使って人材トレーニングの効率を上げ、ベテランの持つノウハウ、知見を継承する取り組みが注目されてきた。

その例の一つが、東京電力ホールディングスが2018年11月に発表した第一線現場業務支援システム「QuantuMR(クァンタムアール)」だ。

QuantuMRは、東京電力ホールディングスと、ARやVRを活用したシステム開発を手がけるポケット・クエリーズが、2018年5月から、第一線現場における業務の支援や高度化を目的に共同開発を行い、7月から変電所において実証実験を実施したもの。その有効性を確認できたとして、製造業をはじめ、さまざまな業種での採用を目指し外販を開始した。

具体的には、MRの特長を生かして、デバイス上に実際に見えるものとホログラムを同時に表示するとともに、遠隔地からの音声を組み合わせ、離れた場所にいる管理者が遠隔コミュニケーションにより作業を支援。直感的で分かりやすい操作メニューなどにより、作業の迅速化や省力化、異常の早期発見による費用削減といった効果を提供するほか、ベテラン作業員のノウハウの活用や、技術継承、人材育成などにも活用できるという。

東京電力ホールディングスでは、「紙の図面やマニュアルの取り出しが不要となり、使いやすい空間配置、アニメーションの展開、安全確認の強化、遠隔支援などの観点で、有効性が確認できた。変電所は、点検一つをとっても失敗が許されない場所だが、トレーニング施設とMRの組み合わせによって、問題が発生したときにどう対処するのかといった教育も可能になる」と説明している。

またJR東日本でも、鉄道信号設備の保守業務、線路設備の保守訓練にHoloLensを採用した。同社では、HoloLensとMRサポートツール「Dynamics 365 Remote Assist」を利用し、指令所と作業員とでリアルタイムの視界共有を実現している。これにより、音声のみならず視覚的な指示が行えるようになったため、図面や検査データを共有しながら、指令所にいるベテラン社員の知見やノウハウを現場で生かせるようになったとのこと。

さらに、人材の有効活用という点でも効果が期待されている。ベルシステム24は2019年12月、デロンギ製コーヒーメーカーのカスタマーサポートにおいて、HoloLens 2を活用したシステムを採用し、実証実験を行うことが発表された。

MR技術を用いて、遠隔地にいても実機が身近にある感覚でユーザーサポートを行えるようにすることが目的だが、それが実現すると、例えば、働く能力はあるのに、子育て、介護などで本社に出勤することが難しい人が、自宅で働くことができるようになる。

労働人口不足が叫ばれる中、その解消に向けてさまざまな取り組みが行われているが、MRもその一助となるか、成果に注目していきたい。

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