レガシーシステムが抱える問題

「2025年の崖」という言葉は、経済産業省が2018年に発表したレポート『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』が初出といわれる。

このレポートでいう2025年の崖とは、基幹システムを中心としたITシステムが古いまま見直されずに残って、企業が競争力を失うことを指す。それだけでなくそもそも、日本ではIT投資がほとんど保守・メンテナンスに回っていることや、人材不足などによるデジタルトランスフォーメーション(DX)実現の遅れが問題となっているという。そこで、2020年までにDX推進に向けた施策を行い、2025年までに動きを起こそう、という提言がレポートの趣旨だ。

ITの世界では、2025年までにさまざまなサービスの終了が予定されており、それらを利用している企業は、随時、古いシステムを更改していく必要がある。つい先日、2020年1月にWindows 7の延長サポートが終了したことは記憶に新しいが、2024年には本連載第2回(ISDN終了が企業に与える影響は?)でも取り上げたISDNのディジタル通信モードの終了が予定されている。2025年には、多くの日本企業で基幹システムに採用しているSAP ERPの保守サポート終了が予定されており、これらがさまざまな機会に「2025年問題」として取り上げられてきた。

ISDN終了が企業に与える影響は?(ニュースZ軸:第2回)

SAP ERPの「2025年問題」については、SAPが用意している後継製品「SAP S/4HANA」への移行を中心に対応が進められているものの、長い間使い続けられ蓄積された膨大なデータを含め、システム全体が肥大化していることも多いERPの移行は、そう簡単なことではない。

特に日本国内においては、パッケージをそのまま導入しているケースは少なく、サードパーティーのアドオンを追加したり、周辺システムを開発・追加したり、システムインテグレーターがカスタマイズを行ったりして、自社に不足する機能を追加していることが非常に多く、移行に際しての足かせとなっている。

もちろん、(存在するのなら)S/4HANA向けアドオンや周辺システムを追加する、再度カスタマイズを行う、といったことで対応することは不可能ではないが、システムが変わるたびにそうした対応で取り繕うことは、急速に変化する現在のビジネス環境において得策とはいえないだろう。

また、保守サポート切れをクリアする方法としては、SAP ERPを利用し続けたまま、第三者保守サポートを提供するリミニストリートやカーバチュアなどへ保守を依頼する手がある。第三者保守とは、ソフトウェアベンダーが提供する正規の保守サービスの代わりに、別のサポート会社と保守契約を結ぶ手法で、SAPが保守を終了する2025年以降も保守を継続して受け続けることが可能になる。だがこれは問題を先延ばしにしただけとも言え、きちんとDXに取り組むためには、いつまでも同じシステムを使い続けるわけにはいかないだろう。

第三者保守には保守料金を削減できるというメリットもあるため、それを原資としてDXに取り組むべきだ、というメッセージをリミニストリートなどが継続して発信しているが、そうした場合にもどのシステムへどうやって移行するのかは、企業が個別に考えていく必要がある。

一方では、現在も一部の企業内で動き続けているメインフレームについても、ハードウェアの保守切れは常に起こり得るし、ソフトウェアの保守を担ってきたCOBOLエンジニアがこれから定年退職の時期を迎え、減少していくといった問題が指摘されている。古いシステムを開発・運用してきた人材が退職して不在となり、そのノウハウを後継できていなければ、システムが「ブラックボックス」化し、手が付けられない負債となってしまう。

これを解消するために、ITモダナイゼーションを行い、新しいシステムへ移行させる取り組みは以前から行われてきた。互換性のあるミドルウェアやエミュレーションを利用してハードウェアを移行し、既存アプリケーションをそのまま利用する「リホスト」、変換ツールを利用してコードをJavaなどの多言語に書き換える「リライト」などの手段も成熟してきている。

ただし、システムをモダナイズして延命したとしても、構成が変わらなければ時間とともに再度ブラックボックス化する可能性は高くなる。2025年をクリアしたとしても、その先にまた次の崖が待っている、ということになりかねない。

ログデータから業務を可視化する「プロセスマイニング」

では企業は、DXを見据えたITシステムの移行をどう考えていけばいいのか。その手掛かりをつかむための手法の一つとして注目されつつあるのが、プロセスマイニングである。

プロセスマイニング(Process Mining:プロセス採掘)とは、一言で言ってしまうと、企業で行われているさまざまな業務プロセスのイベントログを分析し、業務改善に活用する取り組みのこと。多様なシステムから排出されるログを集めて自社の実態を可視化・分析することにより、どのシステムをマイグレーションし、どのシステムを廃止するのか、といった判断のための材料として活用しようというわけだ。

従来、こうしたプロセスの可視化を行うためには、業務の担当者にインタビューしプロセスを洗い出していたが、プロセスマイニングでは、ログデータという「事実」の積み重ねから業務プロセスを可視化するため、隠れていた業務プロセスも洗い出せる点が特長だ。こうして、非効率な部分を特定して原因を推定し、問題の発生を予期して事前に対処することで、業務改善や生産性の向上などを効果的に行えるという。

プロセスマイニングの生みの親として知られる、独アーヘン工科大学教授のウィル・ファン・デル・アールスト博士によれば、既に30種類以上の商用ツールが提供されているという。日本国内においても、独Celonisが2019年9月に日本法人を設立しているほか、イタリアCognitive Technology製のツール「myInvenio」なども展開が開始されており、注目を集める分野となっている。

ただし、製品が提供されているからといって、全てのシステムからすんなりとデータを収集できるわけではない。例えばCelonisでは、汎用(はんよう)コネクターに加えて、SAP、Oracle、Microsoft Dynamics、Salesforceなど主要な製品/サービスとの連携コネクターを用意しているが、日本企業が持つカスタマイズされたSAPシステム、あるいはスクラッチ開発されたシステムが容易につながるとは考えにくく、ある程度の工数をかけてデータの取り込み方を考え、作り込んでいく必要があるだろう。

しかし、いったん連携が実現できた後に得られるメリットは少なくない。業務プロセスの洗い出しはもちろん、企業単位や取引単位の個別プロセスをドリルダウンして利用状況を分析するといったことも可能になるため、過去には必要だったが最近はほとんど使われなくなったプロセスを特定し、システム移行時にカットする裏付けとして利用することができる。

このほか、前述したように、プロセスの非効率な部分から悪影響を与えている要因を推定したり、パフォーマンスを悪化させている根本原因を検出したりすることも可能だ。

もちろん、プロセスマイニングでなければ業務を可視化できない、ということはなく、これはあくまで手法の一つでしかないが、企業のITシステムが今後突き当たる「壁」を越えるための手段として、今後の展開を見ていく必要があるのではないだろうか。

  • * 本稿に記載された各種IT製品、テクノロジーにつきましては、記事制作時の技術動向に関する幅広い知見を基にして構成されています。これは制作を担当したクラウドWatch編集部(株式会社インプレス)の所見であり、大塚商会においてお取り扱いのないものも含まれております。あらかじめご了承いただきますようお願いします。