子ども一人一人に個別最適化された学びを提供するために

GIGAスクール構想をひと言で言ってしまうと、全国の学校で義務教育を受ける児童生徒に、1人1台の学習者用PCを用意するとともに、パブリッククラウド活用を前提とした高速ネットワーク環境を整備する構想だ。

その目的は、子ども一人一人に個別最適化された学びや創造性を育む学びを提供し、その可能性を広げること。併せて、統合型校務支援システムをはじめとしたICTの導入・運用を加速させることで、授業準備や成績処理など、教員側の負担軽減も図り、学校における働き方改革につなげていこうという狙いもある。

そしてこれを達成するに当たって、端末1台当たり4.5万円を補助するほか、2020年度までに、全ての小・中・高校・特別支援学校などにおいて校内ネットワークを完備することなども掲げられ、校内LAN工事については費用の半分が助成の対象になるという。

こうした取り組みはインフラ面での話だが、一方でソフトウェアについても、「デジタルならではの学びの充実」を掲げ、デジタル教科書・教材など良質なデジタルコンテンツの活用を促進するほか、教科ごとに、ICTを効果的に活用した学習活動の例を提示したり、AIドリルなど先端技術を活用した実証を充実させたりすることもうたわれた。

同省では、2019年度補正予算ならびに2020年度予算において、これに伴う予算措置を講じるとしており、2019年度補正予算では、まず2,318億円を計上。全国の自治体には、PCや通信ネットワークといったICT環境の整備に加えて、ICTを活用した指導体制の構築、デジタル教材など、教育のデジタル化を総合的に進めていくことが求められている。

「デジタル機器=ゲームなどの遊び用」を払拭(ふっしょく)したい

こうした取り組みに文部科学省が力を入れている背景には、日本のICT教育に関する同省の危機感がある。

2月4日に行われた「“世界標準で学ぶ”MSソリューションで実現するGIGAスクールプロジェクト対策サミット」の基調講演で、文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長の高谷 浩樹氏は、「学校外での平日のデジタル機器の利用状況」という調査結果を示した。

それによると、日本の子どもたちはゲーム、チャットという分野ではOECD平均を上回る利用率であるのに対し、「コンピューターを使って宿題をする」が3.0%、「学校の勉強のために、インターネット上のサイトを見る」が6.0%など、勉強のための利用率は軒並み低い。

「学びにICTを使っている率では日本は圧倒的な最下位であるのに対し、ゲームなどの利用はOECD平均を上回る。日本ではデジタル機器はゲームをする道具と思われているが、これは子どもたちだけではなく、社会全体がそう思っている」という点を指摘した高谷氏は、「保護者もデジタル機器=ゲームなどの遊び用と考え、学校関係者も同様に思っているので、『学校にデジタル機器を導入する必要があるのか?』という意見になる」と、この状況に警鐘を鳴らしている。

国としてもここに危機感を覚え、2019年度の夏から準備を進めてきた。学校へのデジタル機器導入に関する法律ができ、予算も取られた。そして2019年12月に、補正予算でGIGAスクール構想がスタートした。高谷氏は、「1人1台環境が実現することで全てが変わる。ここに参加しないという選択肢はない。局、省を挙げてどう対応すべきかを真剣に考えている。これが我が国の教育が進むべき道」と、日本の学校におけるGIGAスクール実現の必要性を訴えている。

なお前述のとおり、端末に関しては4.5万円という補助金が提供されるが、これまでは端末整備に1台当たり10万円以上の予算が必要だったのに、4.5万円で実現するのか? と、提示された金額に対して学校現場ではかえって不安も起こっているという。

これに対し高谷氏は、「この不安に対しては誤解を解きたい。4.5万円でも十分に使えるものをそろえることができる」と説明。さらに、「一体不可分なものは補助対象」として、本体側としては「端末管理ツール」「キーボード」「OS」「メーカー無償保証付き端末本体」「運搬搬入・設置・据え付け」の費用は補助の対象に該当するとしている。

またインフラのうち、高速ネットワーク網整備の対象には、「アカウントの初期設計」「設定、端末の初期設計」「設定」が含まれるとのこと。校内ネットワーク設置にどの部分まで補助金が利用できるのか? という疑問に対する方向を示唆した。

ベンダー側の取り組みも続々発表

一方では、ベンダー側の取り組みも相次いで発表されてきた。最初に大きな発表を行ったのは、日本マイクロソフトだ。

2月4日、文部科学省の「GIGAスクール構想」に準拠した端末と、マイクロソフトのクラウドサービスなどを組み合わせた「GIGAスクールパッケージ」を発表。PCメーカー8社17機種の対応PC、Windows 10とOffice 365、MDM(モバイルデバイス管理)による大規模端末展開とアカウント管理、教員向け研修に加え、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に対応したクラウド環境などもパッケージ化し、学校側のGIGAスクール構想への対応をトータルに支援するという。

個別の価格は非公開だが、端末についてはGIGAスクール構想の1台当たり4.5万円の補助を想定した価格体系になっているとのこと。

また導入・運用は、従来のオンプレミス型の環境構築とは異なり、クラウド前提でのMicrosoft Intuneを活用したMDMを提案。従来のディスクイメージのクローニングと比較して短時間で作業が完了し、従来比で約3分の1のコスト削減になる。さらに端末設定に当たっては「GIGAスクール端末設定ガイドブック」を用意し、不安を払拭(ふっしょく)することに注力した。

クラウドについても、マイクロソフトのサービスが文科省の定める「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に対応していることをアピール。高いセキュリティレベルを示す例として、最高裁判所における民事訴訟手続きのIT化にMicrosoft Teamsが活用されていることを挙げた。

また、教育に強いNECも多くの発表を行っている。GIGAスクール構想で示されている具体的なモデルに準拠した端末を、Windows PC、Chromebookのいずれにも用意するほか、文教市場で実績を持つ自社のネットワーク製品により、学校のネットワーク構築を支援していくという。

加えて、教育向けクラウドプラットフォーム「Open Platform for Education」を提供し、パートナー企業のさまざまなデジタル教材を配信できるようにしている。

このほか両社以外では、NTTコミュニケーションズとレノボ、日本エイサー、バッファロー、アライドテレシス、シスコなど、さまざまなベンダーが自らの得意な領域で対応製品・サービスを発表。学校や教育委員会への支援を開始している。

とはいえ、インフラや教材などがそろったとしても、それを使いこなしていかなければ、効果は生まれない。例えば私立学校の足立学園では、デバイスを使うための授業になってしまって、導入成果につながらないという反省があったという。そこで同校では、Microsoft Teamsを使ってクラスサイトを作り、日々起こったことや日直日誌をPDF化して貼り付けるなど、日常のデジタル化を進めることで、自然なデバイス利用が定着していったという。

一方で教員側からは、デジタル機器を使うことで、板書をすることなく生徒の目を見て授業ができるようになったという成功例が挙がったとのこと。だが、教員の年齢は22歳から65歳までと幅広く、全員に急速に新しい施策を進めようとしても簡単には実現できない。一部教員はデジタル機器を使うが別の教員は使わないといった状況はマイナスとなるので、こうした差はなくしていかなければならないが、急速にではなく、時間をかけて変えていく必要があるようだ。

いずれにしても、日本の教育レベルを底上げし、国際競争力を取り戻すためには、ICT教育の推進は必須と言える。実際の運用が始まるのはまだ先になるが、拙速に進めるよりは確実な運用方法の確立を優先し、成功に向けて地道に取り組んでもらいたいと思う。

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