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自動車の部品設計、ブレーキホースの“9状態”

1960年代後半“三種の神器”としてカラーテレビ、クーラーとともに幅広く普及した自動車。今や生活に欠かせない必需品となっており、トラックやバスを除く四輪自動車の年間生産台数は日本国内だけで900万台を突破している。今回はこの自動車について、ブレーキホースを中心に部品設計の紹介をしよう。

CADがもたらす生産台数の増加

自動車の生産台数を向上させるには、製造技術の向上や量産体制の拡大だけでなく、一定期間でより多くの車種をリリースできるような設計時間の短縮化も欠かせない要素となる。しかし、自動車1台あたりの部品点数は、一般的な車種でもおよそ3万点にも及ぶ。もちろん、複数の車種間で共通して使える部品があるし、近年では部品自体の機能向上やコスト削減などによる部品数の減少傾向も見られるが、やはり図面作成をすべて手書きで行っていては限界が出てくるだろう。

このような問題を解決し、効率的な設計環境を実現するのがCADの役割となる。各部品はデータとして保存されており、単品やアッセンブリを問わず簡単に呼び出すことが可能。さらにCAD上で新規部品を付け加え、組み合わせることによって、スピーディーな作図が行えるのである。また、部品データの管理システムが発達し、膨大な量のデータから必要なものを正確かつ瞬時に収集できるようになったのも、設計時間の短縮に結び付く大きな要因だ。

“9状態”を基本としたブレーキホース設計

車の中でも安全に関わる重要なパーツのひとつが、ブレーキペダルを踏んだ際の作動油圧をキャリパーへ的確に伝える「ブレーキホース」だ。ブレーキホースはサスペンションの上下動に加え、フロント部に関しては車輪の左右転舵にも追従する必要がある。ただし、ホースの曲げ半径がきつくなれば応力が集中、破損の原因となるため、必然的に柔軟性と耐久性を両立するレイアウトが求められる。また、安全性の確保には、周囲とのクリアランスも忘れてはならないファクターである。


ブレーキ油圧を伝えるシンプルなホース状パーツだが、安全を守る重要な部品である。車輪内側の狭い空間でも、十分な可動空間を確保するように設計を行わなくてはならない。


これらの要求を満たすには、まず車両の“9状態”におけるサスペンションの位置関係を割り出すことが先決だ。9状態とは、車両の上下方向とステアリングの動きを、標準と最大値で定義したもの。まず上下方向は、通常の接地状態である「ノーマル」、車体が最も深く沈みこんだ「フルバウンド」、逆に最も伸びきった「フルリバウンド」という3種類に区分できる。それぞれに対して前輪の角度が「ストレート(直進)」、一杯に転舵した際の「イン(内輪)」と「アウト(外輪)」という3種類があるため、“3×3=9つの基本状態”ができることとなる。


CAD上で可動部やポイントを設定し、9状態のすべてにおいてブレーキホースが引っ張られないようストラット側の取付け金具位置を決めたら、いよいよ剛性計算システムを用いてブレーキホースのレイアウトを行う。剛性計算システムは、入口と出口のマトリクス、材料などの各種ステータスを指定するだけで、車体からストラットの取付け金具、さらにブレーキキャリパーまでのレイアウトを導き出してくれるもの。ここではソリッドモデルの描画に加えて、最小曲げ半径が基準値を満たしているか、といった部分も確認することができる。もちろん、車種やメーカーによっては9状態だけでなく、中間点でのより細かな計算を行う場合もある。

こうして設計されたブレーキホースは、実車テストによる検証が繰り返され、ようやく車両の一部品として採用されるのである。なお、ブレーキホースの設計例として、現在最も多く採用されているストラット式サスペンションを紹介したが、ダブルウィッシュボーンやマルチリンクなどでも基本的な考え方は同様といえるだろう。

今後も加速するデジタル開発

今回のブレーキホースの設計例でも分かる通り、CADにはデジタルデータならではのメリットがある。それは、アニメーション機能によって可動部の動きを再現・検証したり、計算や解析にデータを応用できるという点だ。実際に、シフトリンケージやエンジン内部など可動部の検証、有限要素法のベースモデル作成、さらには生産ラインにおけるメンテナンス性の検証といった、幅広い用途で使われている。

現在の自動車業界において、CADは単なる図面設計を支援するだけのツールを超えた、より重要な支援ツールとしての存在となっている。ユーザーニーズに後押しされるように、より高いクオリティを求めながらも、同時に低価格での実現を達成するために、今後もデジタルでの開発がさらに加速していくことだろう。

(掲載:2007年1月)

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