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「おさまり」のいい図面  〜鍵はBIM×二次元CADの相互理解〜第5回:「工」 施工を考える /全5回「おさまり」のいい図面【5】「工」 施工を考える

1.コンピュータの中で建物を建てる1.コンピュータの中で建物を建てる

施工を考える。実際に建物を建てる施工のことだ。
実際に施工する前にコンピュータの中で建物のモデルを作ろうというのがBIMだ。コンピュータの中で建てるので、現場で建てて初めて見つかるような問題点を、あらかじめ見つけて対処できる。これがBIMによるフロントローディングだ。
ただそのためにはコンピュータの中にちゃんとした建物モデルを作らなければいけない。
「だいたい」のモデルでは、見つかるはずの問題点も見つからない。「ちゃんとした」モデルを作る必要がある。
例えばトイレの便器と配管が予定のスペースにおさまるかは、便器の種類も排水管の位置もきちんとモデル化しておかないと分からない。「便器の種類はあとで施主に決めてもらおう」ではフロントローディングにはならない。
鉄骨の継手の位置を決めておかないと、現場で電動工具を使って締め付けができるかチェックできない。継手位置と仕上げや設備配管の関係もモデル化しておく。
つまり本気でフロントローディングするなら、かなり詳細なモデルをコンピュータの中に作らなければいけないということだ。
ところがそのためにはいくつか克服すべき問題点がある。

第1はコンピュータとソフトウェアの能力の問題だ。大きなビルディングを限りなく細部まで入力してサクサク動くとは限らない。下の図はBIMアプリケーションでは難しい神社のモデリングだ。BIMアプリケーションではなくAutoCADではソリッドモデリングとしてうまくいく。

第2は仕事の流れの問題だ。設計者がモデリングしている時点では施工者が決まっていないのが普通だ。そのために施工を考えたモデリングができない。さらに現在の設計者の業務範囲ではBIMモデルを作るために増えた工数の費用は請求しにくい。

第3はBIMアプリケーションを使う人間の能力の問題だ。施工用のBIMモデルを作るには施工についての広くかつ深い知識が必要だ。

ただしこの第3の問題点は果たして克服しなければいけない問題なのかという指摘もある。つまり設計者は施工のことをそんなに知らなくても、あくまでデザイナーでいいじゃないかという意見だ。これについてはあとで考えることにしよう。

とにかくこれら三つの問題を克服さえすれば施工用のBIMモデルを作ることができる。現状はどのあたりまでできているのか、見てみよう。

図1 AutoCADで神社の3Dモデリング(静岡市御穂神社本殿保存修理工事)

2.施工のための平面詳細図2.施工のための平面詳細図

下の図2はRevitで作成したスチールハウスの「平面図」と、それを元にAutoCADで作成した「平面詳細図」だ。平面詳細図のほうは縮尺を変えて大きく表現しているだけではない。施主や施工者と打ち合わせの結果決まった情報がそこには記載されている。各設備機器の詳細形状、窓とドア枠のおさまりなどが記載されている。
このように施工に必要な情報が記載された平面図が施工で使う平面詳細図だ。下の図面には表現されていないが構造図ではスタッド(柱)の割付が決まっており、設備との干渉がないようにチェックされている。天井の照明の位置も別の設備図で決められている。CADなのでそのような意匠、構造、設備の平面図を重ねあわせてチェックもできる。
ただしこの時点で記載されない情報もある。例えば壁に貼る石こうボードはいくらのサイズのものを使い、どこに目地(継目)が出るのか記載されていない。それは現場で決めてくださいということになる。この時点でボードの割り付けは設計者の仕事ではない。
さてBIM・・・これからはBIMだ、ということでこの平面詳細図に表現されている情報をすべてRevitモデルで表現しなければいけないのだろうか?
あるいはボードの割り付けもBIMモデルに入力するのか?Revitで標準では用意されていない設備機器の3Dモデルを作成したり、構造部材のおさまりを3Dでモデリングしたりするのか?
実のところ筆者にもよく分からない。RevitでのBIMモデリングはこの程度にしておいて、あとは2次元のAutoCADでいいかとも思う。BIMモデルと2D施工図面の役割分担の境界線をどこに引けばいいかで迷っている。

図2-1 Revitでの「平面図」ビュー 図2-2 AutoCADで作図した「平面詳細図」

3.施工のためのコンクリート躯体図3.施工のためのコンクリート躯体図

鉄筋コンクリートで建物を作るとき、どうやってコンクリートの柱や壁のサイズを決めているのだろう?
構造の設計者が決めるのは最低限の基準となるサイズだ。構造計算の結果500×500とした柱が550×500と50mm大きくなってもかまわない。もちろん建物の強度には影響しない。
コンクリート躯体のサイズは「躯体図」と呼ばれるコンクリートの施工図によって決められる。ほとんどの場合、施工図は専門の業者によって作成される。タイルの割り付けや最終的な仕上げの形状から、外形として柱の大きさが決められ、その内側に入るコンクリート柱の大きさが決まる。
そのために場所によって設計寸法より柱の大きさを大きくしなければいけない。柱を大きくすると、それに合わせて壁厚も大きくしなければいけなくなる。それをコンクリートの「増し打ち」という。
ところがこの「増し打ち」をBIMアプリケーションで実現するのはなかなか面倒なのだ。C5という符号(タイプ名)のついた柱は500×500と決まっている。そこに2階から3階にかけて北側の面だけ50mm増し打ちするとC5という名前(タイプ)ではなくなる。
BIMアプリケーションによるコンクリート施工モデルはできないことはないが、手間がかかり面倒なのだ。
当面2次元CADはコンクリート躯体図の分野でその主役の地位から降りられないだろう。

図3 Revitで作成した柱の増し打ちモデル

4.施工のための鉄骨工作図4.施工のための鉄骨工作図

図4のようにRevitで鉄骨モデルを作成し、H形鋼の継手を配置した。これで鉄骨の施工、梁の製作ができるかというとそれは無理だ。大梁と小梁の取り合いがまだできていないのはもちろんだが、この梁には設備用のスリーブ孔があくかもしれない。建方のための手すりや足場を取り付ける金物ピースも必要だ。このRevitモデルは構造設計者が使うモデルで、施工者や鉄骨製作工場(ファブリケータ)が使えるモデルではない。

図4 Revitで作成した鉄骨モデル

(ここで使用したH形鋼の標準継手は筆者のホームページ(http://www.adds.co.jp/)からダウンロードできる。)

鉄骨の業界では鉄骨の工作図を、鉄骨製作工場が2次元の図面としてCADで作図しているのが大多数の現状だ。できあがった紙の図面はゼネコンに渡され、そこでチェック承認されるとともに施工用のピースや、設備図面と突き合わせて必要な追記がされる。いずれも紙の世界だ。
最近この鉄骨製作工程に3次元のモデル、3次元工作図というべきモデルが導入されつつあるそうだが、残念ながら筆者にはまだ使うチャンスがない。3Dモデルを使った鉄骨の製作が工場で進めば、その上流の構造設計や意匠設計にも一気にさかのぼって影響するのではないかと期待している。
同じ鋼構造でも橋梁の分野ではこの手の3D設計は少し進んでいると聞いている。
いずれにしても鉄骨製作用の3次元のモデルを設計者は入力していない。2次元でも3次元でも鉄骨製作のノウハウは工場にある。鉄骨モデリングのノウハウも工場にある。これからは設計者は鉄骨製作工場のノウハウを取り入れ、工場と協力して施工で使える鉄骨モデルを作るようになるだろう。
それまでは2次元の紙の工作図だ。それでもBIMを使った2D工作図の作成は少し手法が違う。BIMをモデルの平面と断面をビューとして切り出した図面(DWGファイル)を下書きとして、工作図を作図できる。ガセットプレートや取り付け金物の詳細を追記するだけで工作図ができあがる。
この方法なら統一されたBIMモデルを使っているので、大きなところでの間違いは回避できる。
下の図5はRevitで鉄骨モデルの一部をビューとして切り出し、一つのシートにまとめたものだ。図6はそのRevitシートをAutoCADのDWGファイルに書き出し、断面図や寸法を追記したものだ。これが工作図になる。

図5 Revitで工作図図6 AutoCADで工作図

5.ACDを使ってみた5.ACDを使ってみた

昨年、米国のBIMアプリケーション開発者と話す機会があった。「米国でBIMが使われている現場では、施工図も3次元か?」と聞いたところ、施工図(Shop Drawings)はほとんどが2次元で、AutoCADか専用のアプリケーションが使われていると答えがあった。
なんだ、それなら日本と同じではないか、と少し安心もした。
オートデスク社からAutodesk Building Design SuiteというAutoCADもRevitも入った製品が今年リリースされた。その中にAutoCAD Structural Detailing(以下ACDと呼ぶ)という製品が含まれている。AutoCADベースのアプリケーションだが、Revitでモデリングして2次元の施工図、工作図をこのACDで作成できるのだ。
残念ながら英語版しかなく、かつ内容も日本仕様、日本標準になっていないが、こんな形でRevitから施工用の図面を作成することもできるというサンプルにはなる。
そうかBIM先進国の米国ではこんなツールを使っていたのか、と考えさせられた。
RevitからACDにモデルを転送する。2Dではなく3Dのモデルとして転送される。図7がRevitからACDに転送されたモデルだ。

図7 RevitからACDに転送された3Dモデル

ACDで梁を継手位置で切断し、継手の情報、大梁と小梁接合部のガセットプレートの情報などを入力していく(図8、図9)。断っておくが日本仕様ではないので日本では使えない。
しかし似たものなら入力することができる。

図8 大梁の継手入力ダイアログボックス 図9 大梁−小梁の接合部入力ダイアログボックス

ここまでできたら自動で工作図が生成される。それが図10だ。梁の平面図が縦に配置され、正面図がその横に配置されているのはご愛嬌だが、部材リストを含むこの工作図がワンクリックでできてしまう。
Revitの構造モデルからACDの3Dモデル、そして2Dの従来形式の工作図と一連の流れは、BIMモデルと施工モデルの分担の境界線の一例になっているのではないだろうか。何でもBIMアプリケーション一つでBIMモデルにすべて統合する必要はないと思う。

図10 ACDで自動生成された梁の工作図

6.JIAのBIMガイドライン6.JIAのBIMガイドライン

2012年の7月にJIA(社団法人日本建築家協会)から『BIMガイドライン』が発表され、関係者の間で反響を呼んでいる。
この『BIMガイドライン』では建設プロジェクトの工程そのものの見直しの提言と共に、BIMによって設計者がその役割を変えていくことが指摘されている。

BIM により、従来の企画業務と基本設計業務、さらには実施設計の初期段階まで往ったり、来たりできるようになります。専門家として、建築主と一緒に予条件も含めた発注内容を検証する責任が設計者に求められるようになります。

誰がBIM作成の費用を負担すべきかについて、

BIM の入力作業は、設計者のみではなく、施工者やサブコンが設計段階で支援することが不可欠です。これら支援について、何らかの方法で対価を支払う仕組みも必要です。

と、誰がいつBIMの入力を行うかについて具体的に提案もしている。
設計という仕事と、設計者という職業の守備範囲、建築プロジェクトの工程が大きく変わっていくことを示唆した『BIMガイドライン』だ。ぜひ一読されたい。

JIA「BIMガイドライン」

7.これからの建築設計者像7.これからの建築設計者像

建築の専門学校1年生を相手に話す機会があった。ひと通りBIMについて紹介すると、夏休み前の手書き製図の課題で苦しんでいる学生から
「もう手書きの時代じゃないですよね、今の話を聞いて手書き製図の課題に苦しんでいるのがアホらしくなりました」
と声があった。
もちろんこれに対して専門学校の教員の方からは「手書き製図がいかに大事か」という「指導」があった。BIM仲間からも「まず手書きで建築についてしっかり覚えてください」というアドバイスもあった。
が、ここで「そうだ。手書きで苦しむ必要はない。そんなことはコンピュータにさせればいい」と私からの過激な意見で、教員の皆さんを困らせてしまった。私が言いたかったのはBIM時代の建築設計者像は従来のそれと大きく変わってきていて、学生たちはそれに対応しないといけないということだ。
BIMになって細かいモデリングが要求されるが、建築設計者たるもの細かい施工上のおさまりなど気にせずデザインに専念すべきだという意見があると本稿の最初で書いた。
しかし平面詳細図、コンクリート躯体図、鉄骨構造図を自分で作図する力がないとちゃんとしたBIMモデルを作ることはできない。ちゃんとしていないBIMモデルでは、BIMの利点の半分も生かせない。ちゃんとしたモデルを作る力があれば、紙の図面を作図する力は少しあればいい。というのが私の意見だ。
これからの建築設計者像には

● 都市や生活のあり方についての持論がある
● 建物のデザインができる
● 施工について正確な知識を持っている
● BIMアプリケーションをかなり使える
● ちょっとしたプログラムなら作れる
● 2次元の手書きスケッチはできたほうがいい

といったことが要求される。
当然これから建築を学ぶ人たちは、このBIM時代の建築設計者像を想定して、授業と勉強の時間を配分すべきだと思うのだがどうだろう?
あ、また専門学校の先生方に叱られる。

図11 BIM時代の建築設計者像
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