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建築系CAD 講師:鈴木裕二

BIMを本気で使いこなす

第1回:BIM教育を考える/全5回

BIMを本気で使いこなす【1】 BIM教育を考える/全5回

1BIMを本気で使いこなす

好評なのかどうか分からないが、うれしいことにまだこの連載が続くことになった。
狭い範囲でも深く掘り下げた記事の評判が良かったようなので、これから5回「BIMを本気で使いこなす」をテーマにさまざまな切り口でBIMを紹介し、読者の皆さんと一緒にBIMの使いこなしを考えていこうと思う。

5回のテーマは次のものを予定しているが、直前に変わるかもしれない。

  1. 1. BIM教育を考える
  2. 2. BIM で仕事の流れを変える方法

BIM を使ったら儲(もう)かりますか? はい、でも仕事の仕方も変えないといけません、という話

  1. 3. BIM で改修(リフォーム)設計をやってみた (1)
  2. 4. BIM で改修(リフォーム)設計をやってみた (2)

筆者の所属する設計事務所が請けて進行中の保育所リフォーム設計を、2回にわたり丁寧にレポートする。
BIM が使えると、こんなに仕事が進むと実証できればいいのだが。

  1. 5. BIM で紙の図面をなくす方法/工場で BIM を使う/安価にシミュレーションする

読者の皆さんの意見を聞きながら5回目のテーマは決めたいと思う。とりあえず三つのテーマを挙げておく。

BIMによる保育所リフォームの設計画面

BIMによる保育所リフォーム設計

2BIMをマスターすることを目指す専門学校

中央工学校OSAKAという専門学校を紹介する。筆者も非常勤講師としてCADと構造設計を教えている大阪にある専門学校だが、ここでその宣伝をしようというのではない。そのBIM教育についての取り組みを紹介し、BIM教育のあり方について考えるからだ。

たぶん日本のBIM教育は進んではいない。コンピューターを使った建築の授業と言えばまだAutoCADなどの2次元CADが主流だろう。欧米ではBIMアプリケーションの教育が主流になりゲーム世代の若者には3次元による発想が身についていて、逆に2次元のCADを使えなくなったとも聞いている。

そんな中で中央工学校OSAKAの建築CGデザイン科はBIMを前面に押し出している。中央工学校OSAKAの昼間学科は建築学科、住宅デザイン科、建築CGデザイン科、インテリアデザイン科の4科で構成されるが、その中で建築CGデザイン科は紹介パンフレットで「CG・BIMをマスターし、建築・プレゼン技術を磨く」ことを学科の特徴として挙げている。目指す人材は「CG・BIM技術を持つ、建築・空間デザイナー」だそうだ。

企業向けの「求人と採用のお願い」パンフレットでも「BIM教育で建築業界の未来を担う人材を育成」とある。ここまでBIMを前面に押し出した専門学校、大学を筆者は他に知らない。

中央工学校OSAKAの入学案内パンフレット

中央工学校OSAKAの入学案内パンフレット

3建築CGデザイン科の目指すもの

中央工学校OSAKA建築CGデザイン科担任の中島征治先生に建築CGデザイン科の歴史や問題点、目指すものについてお話を伺った。

「建築CGデザイン科は2006年にスタートし、多くの卒業生が既に社会に出ています。その8年前と比べるとBIMや3Dについての企業の理解はずいぶん進んで、建築CGデザイン科への期待も感じます。 一方BIMを導入されている企業でも、BIMを使える即戦力が欲しいとの期待ではなく、ソフトウェアを使えるだけで建築を知らないのは困るとも言われます。建築CGデザイン科の目指すものはそこにあります。ただソフトウェアを使うだけでなく、建築を好きになって理解してほしいという方向を目指しています。2年もかけるのでBIMアプリケーションを使う力は十分に身につきます。あとは例えば設計課題を一人で設計して仕上げる力が必要ですね。BIMを使えば建築を理解できるようになるというのもBIM教育の特長です。

企業からの求人と学生の意向がずれるのはつらいところです。学生はCG制作などのほうに向かおうとし、BIMで建築をと考えるのはまだ少数派です。

BIM教育で重要なことは、実際に仕事でBIMを使っている方を講師として招くことです。

株式会社BIM LABOなどBIMの先進企業と手を組んで、最先端の設計手法を学生のうちに身につけてほしいと、インターンシップや実務の第一線で働く方による特別講座に取り組んでいます。昨年度より大阪府や一般社団法人大阪府専修学校各種学校連合会(大専各)と産業界で構成されている大阪発『産学接続コース』に推奨されました。 今年度は文部科学省の職業実践専門課程に認定され、これまでの実践的な活動が認められたと自負しています。」

3DモデリングやCGに特化して、BIMや建築がおまけかとも思ったのだが、明確に「BIMと建築」「BIM教育」を目的にした学科を目指されている。

中央工学校建築CGデザイン科担任の中島征治先生

建築CGデザイン科 中島征治先生

4BIMによる研究発表

中島先生を訪れたとき、たまたま「学生の研究発表があるので見ていきませんか」と誘われた。「建築家の作品」をテーマに自分の好きな建築家の作品を選んで、それをArchiCADでモデリングするという2年生の課題だ。1カ月という期間内で作品を選び、その背景を調べ、図面を入手しモデリングして、スライドを作成し発表するという授業だ。安藤忠雄、フランク・ロイド・ライト、ル・コルビュジエなど学生が選んだ作家と作品はさまざまだが、「4×4の家」「落水荘」「ロンシャンの教会」「ファンズワース邸(てい)」などその全体がArchiCADを使ってモデリングされている。 そしてその成果を20人ほどの教員と学生の前で発表する。

インドのタージ・マハルを発表した学生はArchiCADでモデリングし、Artlantisでレンダリングしたが、夕日でピンクに輝く大理石を表現したいとPhotoshopでレタッチをして1枚のCGを仕上げていた。

中央工学校授業風景

授業風景『建築家の作品』研究発表

専門学校の学生は高校を卒業してすぐ18歳で入学するとは限らない。大学を卒業して、あるいは社会人を経験してから入学する人も多い。 瓦屋で働いた経験があり、「BIMを使える瓦職人」を目指すという学生もいる。彼が瓦1枚1枚をモデリングして経蔵の屋根を作ったというのがこの作品だ。彼の努力も大変なものだが、その方法をきちんとアドバイスできる指導者に恵まれているということだろう。

BIMを使って瓦1枚1枚モデリングした画面

瓦1枚1枚をモデリング

5コンピューターを使う

学生たちは入学と同時に日本ヒューレット・パッカード株式会社の モバイルワークステーションZBook 14を貸与される。オフィスで使われる一般のノートパソコンより高級な、グラフィックボード内蔵のワークステーションなので、ArchiCADなどのBIMアプリケーションを動かすのには十分だ。また学生の間は貸与だが、卒業すると自分のものになる。

建築CGデザイン科の授業スケジュールを見てみると、コンピューターを使った演習が多い。建築製図はAutoCADが使われ、CAD演習、CG・DTP演習、デザイン演習などの演習はArchiCAD、3ds Max、SketchUpが使われる。デザインツール、レタッチツールとしてはIllustrator、Photoshopも使われる。

またソフトウェアの使い方だけでなく、情報活用能力を養成するため全教室に無線LANアクセスポイントを整備し、学生はグループワークや設計課題をメールやDropboxを利用して提出するなど、実務の現場の環境を覚えるよう工夫もされている。

コンピューターを使った演習は次のような科目とソフトウェアで行われる。

1年 建築製図 AutoCAD
CAD演習 PowerPoint、Illustrator、Photoshop
CG・DTP基礎演習 ArchiCAD、Artlantis、Illustrator、Photoshop
2年 CG・DTP応用演習 3ds Max、ArchiCAD
デザイン演習 VectorWorks、ArchiCAD、SketchUp

筆者が非常勤講師として担当している2年の「構造設計」ではArchiCADで構造モデルを作成し、Wordで構造計算書を仕上げるという手順で、座学ではありながらコンピューター演習のような授業になる。

学生はたくさんのソフトウェアに触れることができ、ソフトウェアの使いこなしという意味ではかなりの腕前になる。しかしこれがまたコンピューターに頼りすぎという批判も招くことになる。

学生に1人1台貸与されるモバイルワークステーションZBook 14の写真

学生に1人1台貸与されるモバイルワークステーションZBook 14

6図面が描けないという批判はあるが

3次元でしか設計できないので、2次元の図面をきちんと描くことができない、という「BIM使い」の学生への批判を耳にすることがある。BIM使いの学生が「3次元で設計する」とは例えばこういうことだ。

次の図のような設備と窓があるとする。クライアントから窓をもう少し高さ方向に、設備ぎりぎりまで広げてほしいと要求があると、「BIM使い」は3次元表示のままで窓をつかみヒョイと引っ張って動かそうとする。古いタイプの設計者は、BIMであっても2次元の断面図などを開いて、設備と窓のクリアランスを測定して、窓の属性で高さ方向の大きさを100プラスなどという方法をとる。

たぶん窓をつかみヒョイと引っ張って動かすのが正解なのだ。無理をして2次元の図面に頭を切り替えて、そこで判断しようとすることはない。

前項で触れたコンピューターに頼りすぎという批判はどうだろう? これには筆者には苦い思い出がある。卒業制作発表会の1週間前にある学生から「この建物周囲の風の流れを見えるようにしたいのですが」と相談を受けた。そこでAutoCADの中で動くFlow Designというアプリケーションを紹介し、その操作を教えた。

彼はそれを卒業制作発表会で発表したのだが、講師の先生方からさんざんな批判を受けることになった。「コンピューターに頼りすぎ」と。使い方を教えたが流体解析の意味について全く教えられなかった私のミスだ。コンピューターに頼ってもいいけど「コンピューターに頼りすぎ」と受け取られない方法を今は教えるようにしている。それでもまず使い方を覚えて、理屈はあとから勉強すればいいとも言っているが。

画面上で窓を3次元でつかんで変形したところ

窓を3次元でつかんで変形

7実社会はどんな人材を求めているのか

さてここからは私の意見だ。就職先の企業からは「学校ではBIMの使い方は教えなくていい、建築を教えてほしい」という声があるそうだが、本当にそうだろうか? 先の窓の変形という作業を3次元で窓をヒョイと引っ張って動かす方法を使える学生は、2次元で発想してしまう旧来の技術者にはない構想力を持っているのではないだろうか。

BIMの使い方を徹底的に覚えることで、建築的発想が豊かになると言えばうそになるだろうか。コンピューターの中に作り上げた建物モデルの中を、自由に歩き見て回ることで空間を自分のものにできるのは間違いないと思う。

一昨年の秋にも同じことを書いたのだが、筆者のBIM時代の建築設計者像はこれだ。

  • 都市や生活のあり方についての持論がある
  • 建物のデザインができる
  • 施工について正確な知識を持っている
  • BIMアプリケーションをかなり使える
  • ちょっとしたプログラムなら作れる
  • 2次元の手書きスケッチはできたほうがいい

墨つぼも使え、スケッチをこなし、豊富な知識があって、BIMアプリケーションを使いこなす。そんな人材を建築の学校が生み出してほしい。

BIM時代の建築設計者像を表すイラスト

BIM時代の建築設計者像

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