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電源トラブルに備える「有機ラジカル電池」

NECが開発したPC向けバックアップ電池「有機ラジカル電池」。ネットバンキングやオンラインショッピングの利用が急増する中、停電などの電源トラブルによるデータ損失の事態に備えて、この有機ラジカル電池の実用化に注目が集まっている。

「有機ラジカル電池」の特徴

「有機ラジカル電池」とは、有機ラジカル化合物を活物質(蓄電材料)として、ラジカルの酸化反応・還元反応を利用して充電・放電を行う電池のこと。また、有機ラジカル電池は充電が可能な「二次電池」の1つでもある。ちなみに、最近一般的になってきている「オキシライド乾電池」は充電ができないので、アルカリ乾電池と同じ「一次電池」にあたる。二次電池にはほかに、「リチウムイオン電池」「ニッカド電池」や、デジタルカメラ等で使用されることが多い「ニッケル水素電池」などがある。

有機ラジカル電池は、2000年にNECが開発に成功したが、実はまだ実用化はされていない。現在、最も多く生産されている電池はリチウムイオン電池で、おもな用途は携帯電話やノートパソコンの電源などになる。しかし、このリチウムイオン電池やニッケル水素電池などの従来の二次電池は、エネルギー密度が理論的な限界に近づいており、さらなる高容量を実現する新しい二次電池の開発が求められている。


(資料提供:日本電気)



これに対し、有機ラジカル電池は将来性豊かな電池として大きな注目を集めていることは確かだ。特徴として、以下の5点が挙げられる。

  1. 他の電池と比べて10倍の高出力を誇る。
  2. 約30秒と短時間で充電できる。
  3. 1000回の充放電を行っても90%以上の容量を維持できる。
  4. 厚さ0.3ミリを実現。折り曲げても使用できる。
  5. カドミウムや鉛などの重金属を利用しないため環境に優しい。

有機ラジカル電池の利用方法

有機ラジカル電池は、材料としてプラスチックの一種である有機ラジカル材料が用いられている。電極が薄膜化されることによって、厚みを0.3mmの薄さにまで抑えることができる。また、電解液が浸透したゲルの状態であるために、折り曲げたりねじったりといった変形も可能だ。これらの利点を生かし、ICカードや電子ペーパーへの内蔵や、人や動物に装着できる小型RFIDタグなどに応用できるだろう。

また、有機ラジカル材料は電気化学反応速度が非常に速く、電解質イオンがスムーズに移動するため充電反応に際しての抵抗も小さいため、30秒以内で充電を完了させることができる。さらに、従来の二次電池に多用されたカドミウムや鉛といった重金属を使用しないので、環境をおびやかすことが少ないという点でも将来性は高い。

このような利点を生かして、将来的にはフレキシブルディスプレイやCPU、メモリーなどを搭載した衣服に有機ラジカル電池を搭載し、本当の意味での「ウェアラブルコンピューター」を実現することも可能である。NECではさらに、エネルギー密度を向上させ、使用時間の長時間化なども図っていくという。

ただし、問題点もある。二次電池のメーカー間における互換性だ。特に電池をPC本体に内蔵させるケースでは、コンパクト化、デザイン性などに各メーカーの独自ノウハウが詰まっているため、互換性はほとんどない。携帯電話用やPC用の電池の国際化規格についてもあまり進んでいないのが現状だ。乾電池は国際的にも標準化されているが、二次電池の規格化のほうも進展することを期待したい。


厚さ0.3mmを実現した有機ラジカル電池(写真提供:日本電気)


あらゆるIT機器のバックアップ電源として期待

NECでは2005年8月、同社のデスクトップPC(Pentium 4搭載、最大消費電力228ワット、平均96ワット)に耐久性と出力を高めた有機ラジカル電池を内蔵して実証試験を行った。1つ35ワットの電池を4個(140ワット)直列接続し、AC電源が停止すると異常を自動感知して電池電源に切り替え、作業中のデータをハードディスクに保存できることを確認した。

新しく開発されたこの有機ラジカル電池は、4個直列でも5.5×4.5×1.6センチ、88グラムと小さく、PCに内蔵が可能。従来に電源トラブル対策で必要とした外部UPS(無停止電源)の代替となるため、省スペース化も図ることができる。

また、水銀や鉛などの有害物質も不要な上、安定なプラスチック材料を蓄電材料に使うため、異常時にも発煙・発火の危険性が少ないという。

今後、家庭内のネットバンキングやオンラインショッピング、各種チケットのオンライン予約の利用が急増していく中、停電などの電源トラブルでデータ損失する事態は絶対に回避したい。UPSがなくても安心してPCを利用できる環境を手軽に実現できる有機ラジカル電池は、こうしたホーム市場のニーズにもピッタリと合っている。

小型化や低価格化を実現しやすく、しかも環境に優しい有機ラジカル電池の製品化が実現すれば、わざわざUPSなどの機器を導入しなくても、デスクトップPCだけでなく、あらゆるIT機器の電力バックアップ対策が可能になるのだ。

(掲載:2007年2月)

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