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機能やスペックだけでは製品を語れない
注目されはじめた「QoE」

「QoE(Quality of Experience)」とは、提供されたサービスに対してユーザが感じた品質のこと。数字で表せる料金や機能ばかりが注目されがちだが、QoEはこれからの製品・サービスにおいてキーポイントとなる。

つながる? つながらない? ユーザ無視のIP電話

2007年5月23日(水)、NTTが提供するIP電話「ひかり電話」が長時間にわたって接続できないというトラブルが発生した。これほどの大規模な事故は珍しいが、短時間の障害などの接続トラブルは後を絶たない。専用の電話線ではなく、インターネットを利用したIP系電話が急速に普及している昨今、このサービスに対する不満や不信は多くなっている。

大規模な接続障害を受けて、総務省は5月24日、NTT東日本、NTT西日本、NTT-ME、そして電気通信事業者協会などの関係団体に対して、電気通信サービスの事故・障害対策の総点検を実施するよう要請した。今回の要請は、もはやIP系サービスは生活に欠かせないものとなりつつある一方、事故・障害が多発している事態を憂慮したものだ。

ユーザが感じる品質「QoE」

IP電話の利用や動画配信など、IPネットワークを利用した音声や映像のやり取りが一般的になりつつある中で、3〜4年ほど前から通信サービスの品質を示すものとして使われているのが「QoE(Quality of Experience)」という概念だ。

QoEは、例えば「IP電話の音がぶつぶつ途切れる」「配信された動画が滑らかに表示される」といった、ユーザが感じた品質のことを指す。つまり、QoEとはユーザの主観的な評価を表す言葉を意味する。

電気通信情報学会では「ユーザ体感品質」と訳しており、2007年1月には国際的な標準化組織である「ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)」が、QoEの定義を「ITU-T P.10/G.100 AppendixⅠ」として定めている。

これに対し、通信業界ではもともと通信サービスの品質を示す用語として「QoS(Quality of Service)」、つまり「サービスの品質」が使われることが多かった。このQoSは、主としてネットワークの分野で、帯域と遅延許容時間のトラフィック・サービスを保証するメカニズムを指すのに使われている。


ユーザによって感じ方や評価が異なるQoE

QoSとQoEの違いとは

QoSとQoEでは、品質の対象が異なる。QoSはネットワークの性能を、QoEはユーザの体感品質をそれぞれ対象としている。つまり、QoSは通信事業者やサービス提供者から見たサービス品質の基準であり、QoEはユーザから見たサービス品質の基準と言える。

最近はこのQoSとQoEを使い分けるようになっているが、その大きな要因は、IP電話や動画配信などリアルタイム性の必要なサービスが普及してきたことだ。例えば、IPネットワークを使って動画を配信する「IPTV」のようなサービスでは、QoSとしてはできるだけ高速にチャンネルを切り替えるためのネットワーク性能が重要となり、QoEに関してはそれに加えて「常に同じ時間の間隔でチャンネルが切り替わるようにしてほしい」というユーザの要求を考慮する必要がある。

実際にネットワークを設計するときには、まずはユーザを満足させるだけのQoEを決めることから始める。そして、その要求に合わせてパケットの遅延、ゆらぎ、消失などの必要なQoSのパラメータを調整する。

実は、これは昔からある電話のネットワークと同じやり方でもある。電話のQoEの尺度としては、ユーザが音質を5段階で評価したときの平均値である「MOS(Mean Opinion Score)」値がよく使われている。このMOS値は、総務省がIP電話の電話番号を割り当てる際の品質基準となる「R値」と対応付けられたものだ。通信事業者は決められたR値を満たすようにネットワークを設計することで、サービス品質を担保しているのだ。

しかし、IP電話などでは実際の通信時に刻々と状況が変化しているため、必ずしも期待どおりのQoEが得られるとは限らない。サービス提供者にとっては今後、実際の通信時にパケットの遅延や消失などQoSの状況からQoEを推定し、機器を制御することが大きな課題となってくるだろう。逆に言えば、ユーザの要求に応じた品質を実現することが、サービス提供者の評価が分かれる大きなポイントとなるのだ。

QoSとQoEの違い

  QoS QoE
 品質の対象  ネットワークの性能  ユーザの体感
 基準  サービス提供者から見た品質  ユーザから見たサービスの品質

これからのQoEとサービスの関係

最近では、QoEの推定に用いるQoSの各種パラメータを端末間でリアルタイムにやり取りする「RTCP-XR(RTP control protocol extended reports)」というプロトコルを採用する動きが出ている。RTCP-XRの特徴は、ユーザに最も近い場所にある端末からQoSのパラメータを集められる点にある。今後、このプロトコルが多くの機器に搭載されるようになれば、ユーザの感覚にぴったり合う品質推定が期待できる。サービス提供側は通信状態に合わせてQoSを調節し、ユーザのQoEを維持することが可能になるだろう。

一方で、QoEの考え方は通信やITの業界だけにとどまらない。デザインの世界では「ユニバーサルデザイン」という考えが広まっている。ユニバーサルデザインは「全ての人のためのデザイン」を意味しているが、デザインとは決して外観を意匠することではなく、むしろ人間が生きるための夢や希望を具体的にしていくという思想がその根底にある。

このユニバーサルデザインも、かたちこそ違えど、実はQoEに通じる考え方なのだ。当たり前と言えば当たり前の考え方だが、テクノロジーの進化の過程では見落とされがちなものでもある。QoEは、今後も重要なキーワードとなりそうだ。

(掲載:2007年7月)

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