2014年 3月 1日公開

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「知っておきたい労働基準監督署のお仕事」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

最近ドラマでも取り上げられ、その存在が身近に知られるようになった労働基準監督署(以下、労基署)ですが、一般的な企業の総務担当者が関わる機会はそれほど多くありません。そこで今回は、労基署とその「調査」について基礎から勉強しておきましょう。

「知っておきたい労働基準監督署のお仕事」の巻

労働基準監督署の基礎知識

労働基準監督署とは

労基署は、労働条件の遵守確保のための臨検や、労災保険関連の業務を担う行政監督機関です。労働者を守る役割を果たすことから「労働者保護の最前線」 と呼ばれることもあります。
労基署は、一人以上の労働者を使用する事業所を対象とし、都道府県ごとに複数設置されています。

労働基準監督署の主な役割

労基署には主な部署が三つあります。監督課、安全衛生課、労災課です。企業の総務担当者が相談や届出などで訪問するのは、この三つのどれかになります。

労働基準監督署の主要3部署

部署役割主な業務
監督課労働基準についての業務全般労働基準法・労働安全衛生法等に基づく監督指導、36協定・就業規則等労働基準法関係各種報告・届出の受付、監督関係の許認可事務、労働相談など
安全衛生課安全衛生についての業務全般足場・建設工事の計画届の受付・審査、ボイラー、クレーン等特定機械の検査、労働者死傷病報告・各種健康診断結果報告等安全衛生に係る報告受付、安全衛生表彰に関する事務など
労災課労災補償についての業務全般労災保険給付、各種労災年金の定期報告の受付、石綿救済法に係る業務など

各種届出

次に、一般企業の総務担当者が各種届出を行う際の主な手続きを担当課ごとに紹介します。

1.監督課への届け

●時間外協定(36協定)※

労働基準法では、法定労働時間を超える労働を行わせる行為は刑罰の対象とされています。ただし、労働者との間で時間外協定(36協定)※を締結し、労基署にその届出をした事業主は、時間外労働をさせた場合でも、例外として刑罰を免れることができます。この時間外協定書の届出先が、監督課ということです。時間外協定書は新たに締結したとき、または更新したときに届け出ることが義務づけられています。

  • * 時間外協定(36協定)とは?

労働基準法では、労働時間の上限は1日8時間または週40時間と定められています。これを超えて労働させる可能性がある場合は、あらかじめ労働契約の締結時に、時間外労働を行わせることについて合意がなされている必要があります。そして、その合意を根拠として時間外労働に関する協定を締結します。これは個々の従業員と締結するのではなく、労働組合または職場の従業員代表者が対象となる従業員を包括して協定を締結します(一般的には就業規則にその旨が記されています)。この時間外労働についての協定は、労働基準法第36条の規定に基づく協定なので「36(サブロク)協定」と呼ばれています。

●変形労働時間制の協定

変形労働時間制とは、1日8時間、週40時間ではないものの、ある一定期間でならしてみると週40時間に収まるという労働体系です。季節によって忙しさが異なる企業ではよく採用されます。繁忙期は1日10時間、週50時間働かせるものの閑散期は1日6時間労働で、で平均すると週40時間に収まるといったかたちです。なお、主な変形労働時間制は1カ月単位の変形労働時間制と1年単位の変形労働時間制があります。この変形労働時間制の協定を結ぶ場合も監督課に届け出ます。

●就業規則の作成・変更

就業規則を新たに作成した場合や内容に変更を加えた場合も監督課に届け出ます。

2.安全衛生課への届け

●健康診断の結果報告

従業員が50人以上の事業所では健康診断を実施し、その結果を労基署に報告しなければなりません。健康診断の結果は報告書にして安全衛生課に提出します。

●産業医・衛生管理者の選任・解任届

従業員が50人以上の事業所では産業医・衛生管理者といった有資格者を選任しなければなりません。その選任届、あるいは解任届を安全衛生課に行います。

●従業員50人未満の会社は?

従業員50人未満の会社には産業医や衛生管理者の選任義務はありません。ただし、従業員数にはパートタイマーも含まれます。社員数が30~40名の会社でも、「従業員50人以上」に該当するケースもあるので、パートタイマーも計算に入れての確認が必要です。

3.労災課への届け

労災の請求、労働保険料の申告などで訪れます。

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労働基準監督署の調査

労基署の調査とは、労働基準監督官が、労働基準法等の違反の有無を調査し、適法な状態に是正する目的で、事業場に立ち入ることを言います。
調査には、以下の四つの場合があります。

  1. 定期監督
  2. 申告監督
  3. 災害時監督
  4. 再監督

ここでは最も一般的な調査である定期監督について解説します。

労働基準監督署から調査が入る場合

労基署の調査の多くは定期監督です。管轄する労基署が無作為で任意に事業所を選び、事前に調査の日程や必要な資料について書面で通知してきます。従って、調査が入るかどうかは書面が届くまでは分かりません。

労基署から調査の通知が来て驚く経営者や担当者も多いのですが、あわてる必要はありません。いきなり訪問を受けるということはなく、通常は日時が指定されて担当者が資料を携えて労基署に出頭するケースがほとんどです。調査に要する時間は1~2時間といったところです。

調査で提供(提出)が求められる資料

a. 出勤簿

出勤簿、もしくは全従業員のタイムカード等の勤務時間の記録が求められます。これによって、社員別の時間外労働・休日労働に関する実績を調べます。

[チェックポイント]

  • ひどい超過勤務がないかどうか、法定健康診断が実施されているか、 など

b. 賃金台帳

過去2年間分の賃金台帳が求められます。

[チェックポイント]

  • 残業時間が割り増しされた賃金で払われているかどうか
  • 深夜割り増しがされているかどうか
  • 最低賃金が守られているかどうか
    など

最低賃金は各都道府県で定められています。毎年10月に改定されるので、11月、12月に調査が入る場合は、最低賃金が確認されるケースが多いといえます。

厚生労働省Webサイト 賃金台帳様式(PDF)

割増賃金について

実労働時間が法定労働時間を超えた場合は1.25倍の給料を払わなければなりません。その他、深夜労働、休日労働などによって割増率が定められています。

[割増賃金の計算法]

割増賃金=1時間あたりの通常賃金×割増率

ちなみに残業代は「割増賃金×時間外労働などの時間数」となります。

時間外労働25%以上8時間/1日以上の労働時間
50%以上1カ月間の残業時間が60時間を超えた場合*
(中小企業は猶予措置あり。22年労基法改正)
深夜労働25%以上午後10時~翌午前5時
休日労働35%以上法定休日(法律で定められた休日)。労基法では、1週につき1日または4週を通じて4回以上の休日を確保しなければなりません。この最低限確保しなければならない休日に労働させた場合が休日労働となります。従って、法律で定められた休日とは、必ずしも日曜日や祝日を指すものではありません。
休日+時間外労働35%以上休日労働は時間外労働と別物であり、休日労働そのものが割増賃金の対象となります。休日労働の時間外という概念がありません。時間を超えても時間外労働の25%は加算されません。
時間外+深夜労働50%以上時間外(25%)+深夜(25%)
休日+深夜労働60%以上休日(35%)+深夜(25%)
  • * 60時間超過の割増に関して、代休措置をとった場合には取り扱いが異なります。詳細については、厚生労働省のWebサイトなどで確認してください。

c. 労働者名簿

パートタイマーも含めて全従業員の名簿が必要です。派遣社員については派遣元が作成しているので不要ですが、派遣先管理台帳は作成しなければなりません。

なお、労働者名簿は作成が義務づけられています。作成がまだであれば、この機会に作成をお勧めします。様式に決まりはありませんが、記入内容は、労働者の氏名・生年月日・履歴・性別・住所・従事する業務の種類・雇入れの年月日・退職の年月日およびその事由(解雇の場合はその理由)・死亡の年月日およびその原因などです。

厚生労働省Webサイト 労働者名簿様式(PDF)

d. 雇用契約書(労働条件通知書)

従業員を採用するときに、賃金や労働時間などの労働条件を明示することが労働基準法で義務づけられています。

雇用契約書(労働条件通知書)などの書面で明示しないといけない事項は次の5点です。

  1. 雇用契約の期間(例:1年。なければ「ない」と記載する)
  2. 働く場所、仕事の内容(採用直後のもの)
  3. 始業および終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換(交替勤務の場合の交替日、交替順序など)に関する事項
  4. 賃金の決定、計算および支払いの方法、締切り日、支払い日
  5. 退職に関する事項(解雇の事由、定年年齢など)

e. 就業規則

監督官は現行の就業規則を見て、法改正が反映されているかをチェックします。法改正が施行されているにも関わらず、就業規則が変更されていない場合などは、変更するよう求められます。

厚生労働省Webサイト モデル就業規則(PDF)

f. 労使協定

時間外・休日労働に関する協定届(事業所控)。変形労働時間制やフレックスタイム制・裁量労働制等、特殊な定めをしている場合の労使協定などを労働基準監督官の求めに応じて提示します。この場合、36協定など労使協定の締結が必須のもので労基署に届出義務のあるものについて労基署に届け出ているか、そして現在有効な労使協定が存在するか(期限切れでないか)がチェックされます。

参照:厚生労働省(福岡労働局)Webサイト 時間外労働及び休日労働に関する労使協定書 記載例(PDF)

注意!

労働者と協定さえできれば、100時間でも200時間でも残業をさせていいわけではありません。厚生労働省は、1カ月45時間、年間で360時間という限度を示しています。法律ではなく、厚生労働大臣が定めた指針なので強制力はありませんが、一般にはこの限度が目安とされています。

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調査のあとで

調査が終わると、問題があった場合は、その問題点を指摘し、期日を定めて改善を求める「是正勧告書」が交付されます。また改善結果は「是正報告書」というかたちで、労基署に提出するよう求められます。

労働基準監督署からの指摘事例

  1. 法定労働時間を超える労働の事実があるのに36協定が提出されていない
    この場合、罰則が適用される重大な法違反ですので、是正期限は「即時」とされます。つまり、直ちに36協定を締結し、労基署へ届出せよ! ということです。
  2. 残業代が割増賃金になっていない
    中には1時間1,000円というかたちで固定している企業が見受けられます。月給制であっても1時間あたりの単価を出して、その1.25倍にしなければなりません。
  3. 健康診断の結果が出ていない
    健康診断の実施義務がある事業所にも関わらず、健康診断を実施してなければ実施を求める勧告が出されます。実施しているにも関わらず報告書が提出されてない場合は、速やかに報告するよう求められます。
  4. 法律が変わったのに就業規則が変わっていない
    定年をいまだに55歳と定めている企業も見受けられます。今は60歳を下回ってはならず、なおかつ高齢者の雇用確保措置に関する事項を記載するよう求められる場合もあります。その他、育児・介護休業制度など法律が変わっていることについても、昔のままであれば改定するよう求められます。

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「調査はまだ」という場合

10年間一度も調査がないという企業もあります。調査の頻度には地域性もあって、監督官の目が届きやすい地方があるかと思えば、大都市ともなると何千社とあるので調査対象となる率は相対的に低くなる傾向があります。仮に調査で問題点が指摘されても、あくまでも是正勧告が出されるだけなので、それに従って対応していれば、特に不安に感じる必要はありません。

調査対象となる可能性は?

調査対象となる可能性については一概に言えません。10年以上対象となっていない企業もあれば、前回調査から3~4年後に再び調査対象となった企業もあります。ただ、問題がある企業が常に調査対象となるとは限りません。従って、調査対象となった場合でも特に不安を感じる必要はありません。労基署から是正を勧告されたら、「これを契機により良い職場環境を構築していこう」と前向きに考えることが大切です。そのように企業を方向づけていくことが労基署の存在意義であり、調査の目的なのです。

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