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2 動的公差線図の使い方

前回は、最大実体公差方式を考えるうえで欠かせない最大実体サイズ、最小実体サイズ、包絡の条件を理解した。
今回は最大実体公差方式を適用できる幾何特性の種類と、サイズ公差と幾何公差を同時に考える場合に、それらの関係を視覚的に公差検討できる動的公差線図について説明する。

1. 最大実体公差方式を適用できる幾何特性の種類

最大実体公差方式は、全ての幾何特性について適用できるわけではなく、中心線や中心平面を持つサイズ形体のみに適用できる(表1)。

表1 最大実体公差方式を適用できる幾何特性

幾何特性記号最大実体公差方式の適用性幾何特性記号最大実体公差方式の適用性
真直度公差

真直度公差

適用可
左の七つの幾何特性に対して、中心線または中心平面に指示したサイズ形体に適用できる

適用不可
左の七つの幾何特性に対して、表面または母線に指示した場合、適用してはいけない
平面度公差

平面度公差

適用不可
左の七つの幾何特性は全て、表面または母線指示となるため、適用してはいけない
平行度公差

平行度公差

真円度公差

真円度公差

直角度公差

直角度公差

円筒度公差

円筒度公差

傾斜度公差

傾斜度公差

線の輪郭度公差

線の輪郭度公差

同軸度公差

同軸度公差

面の輪郭度公差

面の輪郭度公差

対称度公差

対称度公差

円周振れ公差

円周振れ公差

位置度公差

位置度公差

全振れ公差

全振れ公差

最大実体公差方式を適用できる「サイズ形体」とは、中心線(あるいは中心平面、もしくは中心点)で表す形体を呼び、大きさの概念を持ち、サイズのばらつきによって大きさが変動するものを言う(図1)。

図1

サイズ形体

サイズ形体

つまり、データムや幾何特性を指示する際に、寸法線の延長線上に指示する形体を指す。

2. 動的公差線図

最大実体公差方式の特徴は、サイズのばらつきと幾何特性のばらつきを同時に考えることである。
頭の中でそれらの関係を考えることもできるが、ビジュアル的に示したものが動的公差線図である。

まずは形状偏差の中で唯一のサイズ形体である真直度の図面指示例で確認しよう。
シャフト1をハウジング2に隙間ばめで挿入する構造を考える。
それぞれのサイズ公差は厳しく設定され、挿入部の隙間も小さいことから、穴と軸それぞれに反りやうねりがあると、ハウジングにシャフトを挿入できない恐れがある(図2)。

図2

二つの部品のサイズ公差記入例

二つの部品のサイズ公差記入例

サイズ公差を決める一つの考え方を下記に示す。

  1. 図示サイズを「φ30」で決定する。
  2. 2部品の反りなど変形を考慮し、最大実体サイズのときに0.1mm程度の隙間マージンが必要と考える。
  3. 直径サイズ公差は、図示サイズに対して対称となるよう、軸の最大実体サイズを「φ30(-0.05~-0.10)」、穴の最大実体サイズを「φ30(+0.05~+0.10)」として、トータル0.1mmの隙間マージンを確保する。

上記の考えを図に示したものが動的公差線図と呼ばれるものである。
まずは、サイズ公差だけの関係を表現した動的公差線図を示す(図3)。

図3

動的公差線図(2部品のサイズ公差の関係のみ)

動的公差線図(2部品のサイズ公差の関係のみ)

図3の隙間マージン分を設計意図として明確に規定するために、幾何公差(今回は真直度)の項目を追加する。
それぞれの部品の最大実体サイズのときに真直度が最大(0.05mm)になってもギリギリ30.0mmになり、互いに干渉せずに組み立てられることが分かる(図4)。

図4

動的公差線図(サイズ公差と幾何公差の関係のみ)

動的公差線図(サイズ公差と幾何公差の関係のみ)

この動的公差線図の考え方を図面として表す場合、次のように幾何公差を追加すればよい(図5)。

図5

真直度を使った図面指示例

真直度を使った図面指示例

図5までは一般的な幾何公差を指示するための考え方である。
一般的な幾何公差では、最大実体状態(最も隙間が小さくなる状態)でカタチの崩れをどこまで許すかという考えのみであった。

逆に、最小実体状態(最も隙間が大きくなる状態)の隙間マージンを計算すると、30.1-29.9=0.2となる。
一般的な公差検討において、最小実体状態の隙間は単なる隙間マージンとして扱われるだけで、使い道のないものであった。
この使い道のないマージンを、幾何公差として使ってもよいというものが最大実体公差方式であり、その増すことができる領域を赤い領域で示す(図6)。

図6

動的公差線図(最大実体公差方式を適用した場合)

動的公差線図(最大実体公差方式を適用した場合)

最大実体公差を取り入れた動的公差線図の考え方を図面として表す場合、次のように最大実体公差を適用する記号(まるエム)を追加すればよい(図7)。

図7

真直度に最大実体公差方式を使った図面指示例

真直度に最大実体公差方式を使った図面指示例

最大実体公差とは、サイズの出来上がり具合によって、組立に条件の良いときに限って、幾何公差を広げることができることが分かった。
また、動的公差線図は、視覚的にサイズ公差と幾何公差の関係を理解しやすくするためのツールであることが分かった。
動的公差線図を描くことで、サイズのばらつきと幾何特性のばらつきの両方を公差検討するという意識を持つことが、設計上のメリットである。

次回は、その他の特性で、最大実体公差を使う事例を紹介しよう。

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