この連載について

シリーズ全5回のテーマを以下に設定した。BIMについて、アプリケーションの使い方やノウハウを中心に紹介したこれまでの記事から、少し違う方向にハンドルを切って「BIMでこう変えていこう」「BIMをこう変えていこう」と提案できるような記事にしていきたい。

シリーズ記事

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1.都市をモデリングできないか?

『日経CG』2000年9月号という雑誌が手元にある。既に廃刊になっているが、この20年前の雑誌の特集は「シティ・モデリング」だ。気になるテーマだったので保管しておいた。

『日経CG』(日経BP社)2000年9月号

「シティ・モデリング」つまり都市そのもののモデリングだが、建物モデルを作ることがBIMアプリケーションで可能なことは分かっている。これをそのまま都市に広げることは技術的に可能なのだろうか? それを検証するのが今回のテーマだ。ゲームでよくあるように建物の表面だけを表示するのではない。Google マップのストリートビューでもない。都市を丸ごと、コンピューターの中に都市の双子=デジタルツインとして実現したい。

建物があれば、その中に入っていきたい。その建物の用途や店舗、オフィスの情報も取り出したい。空地に計画建物を配置して周辺住民に提案して見てもらえるようにしたい。大規模な開発計画や未来の都市計画もコンピューターの中で確認できるようにしたい。特別なツールや権限なしで誰もが試してみることができることがポイントだ。誰もが都市づくりに参加できるプラットフォームをコンピューターの中に作りたい。20年前に既に取り上げられていたテーマだが、さてできるだろうか?

2.1.5km×1.5kmの島に建物を建てる

都市モデリングなので、ある程度の規模の街区をサンプルとしたい。今回は兵庫県西宮市の西宮浜という埋め立て地をサンプルにした。この連載でも何度か取り上げているが、国土地理院の基盤地図情報から西宮浜の海岸線と街区、建物情報を取り出して変換、地図のDWGファイルを作成した。

ビジュアライゼーションを極める…BIMを見せる【極めるBIM/第3回】

BIMからCIMへ-基盤地図情報を使う【続 BIMアプリケーションの使いこなし/第5回】

また基盤地図情報の利用方法は下記資料が詳しい。

Autodesk「Autodesk InfraWorks セルフトレーニングテキスト」(Autodesk社のWebサイトが開きます)

AutoCADで西宮浜の地図(DWG)を表示

3.Revitでビルを並べる

まずRevitだけで都市モデリングに挑戦しよう。Revitが扱える制限を確認してみる。下記Webサイトによると以前は2マイルの制限があったが、Revit2011以降は緩和されて現在は20マイルの制限とのことだ。20マイルは32kmだから今回の西宮浜なら制限内だ。都市モデリング一般としても32kmあれば十分だろう。

Autodesk「Revitでジオメトリを読み込む際の内部基準点からの距離制限」(Autodesk社のWebサイトが開きます)

使用するのはこの建物だ。ArchicadからIFCファイル経由でインポートした、構造モデルも入っている総合モデルだ。ファイルサイズは51MBとそんなに大きくはない。扱いやすいサイズだ。

使用する建物(Revitで表示)

Revitに前項の要領で作成した地図のDWGを貼り付け、そこにこの建物を並べていこう。普通に挿入するとファイルサイズが大きくなりすぎて扱いづらくなるので、「Revitリンク」という方法で12の建物ファイルをリンクし表示する。

リンク表示しているので、建物を街区に12棟も配置してもファイルサイズは2.1MBとかなり小さいままだ。しかし、平面図で建物を配置したり回転したりするのは特に問題ないが、表示を切り替えたり視点の移動をしたりするには時間がかかってしまう。やはりRevit単体での都市モデリングには表示の限界があるようだ。

12棟の建物を配置(Revit)

4.InfraWorksで街区を作る

Revitと同じAutodesk社のInfraWorksで同じことを試してみよう。街区の地図モデルは国土地理院の基盤地図情報をInfraWorksで読み込んだものを使う。InfraWorksの設定で道路デザインを変えることができるので、図のような海岸通りにしてみた。

前項のRevit建物モデルを4棟配置した。配置するのに1棟当たり5分もかかってしまうが、画面の移動や回転は何の問題もない。Revit単体とは比べものにならないくらい、サクサク動作する。ウオークスルーも道路をパス(経路)として指定するだけで出来上がる。

建物を配置した街区をInfraWorksで表示

5.Archicadでビルを並べる

ArchicadでもRevitと同じように地図のDWGファイルを下敷きにして、12棟の建物を並べる。使用するのは次のモデルだ。モジュール(MOD)ファイルというシンプルな形式で保存して19MBという小さなファイルにした。

使用する建物(Archicadで表示)

Archicadのホットリンク機能を使って地図上に配置していく。一つの画面に表示されるが、12個のファイルはそれぞれ別のファイルだ。それでも街区のファイルは305MBのサイズになる。一つか二つを配置している間はまだ操作できるが、5棟目ぐらいになるとさすがにパフォーマンスが落ちる。配置するだけで5分、位置や角度を調整して3Dで確認できるまで1棟で10分ほどかかってしまう。Archicad単体で視点を移動しながら町並みの確認を行うのはやはり難しいようだ。

12棟の建物を配置(Archicad)

6.BIMxで街を歩く

Archicadでは難しくても、同じグラフィソフト社の製品であるBIMxならうまく街中を歩き回れるかもしれない。BIMxは「無制限の3Dモデルサイズ」をキャッチフレーズにする対話的なモデル表示ツールだ。ここではiPad上で動作する有償のBIMx PROを使う。
Archicadから12棟をホットリンクしたBIMx Hyper-modelをBIMx用ファイルに書き出した。サイズは元ファイルの3倍の917MBとかなり大きくなる。だが驚いたことに1.5km四方で1GB近いサイズのファイルの都市モデルの中をほぼ自由に歩き回るように表示することができる。建物の中に入り階段を上がって室内を確認することもできる。そのスピードにストレスはない。ゲームの操作と全く同じ感覚だ。

iPad上のBIMxアプリケーションで表示

7.検証の結果は?

BIMアプリケーションであるRevitやArchicadをそのまま都市モデリングに使うのは少し無理がある。
しかしRevitならInfraWorksで建物を並べることができる。道路や橋などのインフラストラクチャーのデザインとともに建物を並べることができる。どちらかというと都市計画のツールだ。
Archicadなら、建物を並べるところまではArchicad内で無理して都市モデルを作る。表示するのはBIMxだ。歩いて建物をのぞいて回れる。全くゲーム感覚だが、Archicad側で設定した建物情報が失われることはない。
この二つの例で都市モデリングのプラットフォームが使えることが技術的には検証できたと思う。あとは建物と都市のコンテンツだ。きっと数年後にはそんなリアルなコンテンツが登場して、誰もがどこかの仮想都市を歩き回れるようになっていると思う。

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