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5.2010年に改正されたJIS製図のポイント

機械製図において、ISO規格とJIS規格を整合させるために、2000年前後にJIS製図が改正された。主な改正として、「ねじの表記」や「表面性状記号」、「幾何公差の表記」などである。そして2010年に、「寸法補助記号の追加」や「溶接の指示方法」などが改正された。最新規格である2010年改正JIS製図の中から主なものを抜粋し、以下に新旧の違いを比較し説明する。

2010年に改正された記号・表記(抜粋)

【えんこ】

円弧の長さを表現する寸法補助記号は以前から存在していたが、記号のレイアウトが変更された。従来は、寸法数値の上にかぶせるように円弧の記号を配置していたものが、他の寸法補助記号と同じように寸法数値の前に配置するように変更された(図1)。

【穴深さ】

従来、穴の深さは穴の直径の数値に続けて「×(深さの数値)」で指示していた。例えば、直径8mm、深さ15mmの場合、下記のように穴深さの記号を使うように変更された(図2)。

【座ぐり】

座ぐりには、下記の2種類がある。

  • 浅い座ぐり

    ボルト・ナットの接触する部分が、ざらついた鋳物の表面であったり、ダイカストのように金型の抜きテーパによる傾斜面であったりする場合、締め付け力を均一にするために締結面を平坦に加工するもの。

  • 深座ぐり

    ねじ頭部を取り付け面から飛び出さないように埋め込むために深さのある穴を同軸上に加工するもの。

まず、改正によって、文言が「座繰り」から「座ぐり」と変更された。

従来、座ぐりを指示する場合は寸法指示の中で言葉を用いて表現していたが、新しく座ぐり記号が追加された。これに伴い、従来は浅い座ぐりの座ぐり深さを省略していたが、深さを明記しなければいけないよう改正された。浅い座ぐりの図面と実形を図3に示す。

深座ぐりの場合は、設計機能に合わせた深さになるよう穴深さ記号の後ろの数値を変更すればよい。

【皿座ぐり】

皿座ぐりは、一般的に皿ねじを固定するために用いられ、穴の端部にテーパ形状を持つことが特徴である。設計者の中には、皿穴とか皿モミと呼ぶ人もいる。

皿座ぐりも寸法指示の中で言葉を用いて表現していたが、新しく皿座ぐり記号が追加された。

【コントロール半径】CR

従来、半径の記号「R」を使用した場合、半径数値を基準にして普通許容差がありプラス側に作ってもマイナス側に作っても良いとされる。そのため、普通許容差の範囲の中でRの形状に凹凸ができたり、直線部と円弧が滑らかに接続せず段差ができたりすることも許された。

改正によって、普通許容差の範囲内できれいな円弧を要求し、かつ直線部と円弧が滑らかにつながるように指定したい場合に従来のRと区別して、新たな“CR”の記号で指示する(図5)。

【重複寸法】●

従来、寸法を重複して記入することは、製図のルール上は許されなかった。

重要機能寸法を異なる投影図に注意を促して書きたい場合や、複数の断面図や部分拡大図などに重複して書きたい場合に使えばよいのではないかと判断している。

改正によって、重複寸法を指示する場合、直径2mmの黒丸を重複する寸法数値それぞれの前に描き、注記に黒丸印が重複寸法であることの断りを併記する(図6)。

【スポット溶接・シーム溶接】

従来のJISの溶接記号の説明によると、“特に表示に問題がない場合は、(今回追加された)記号を記載する”と描かれていた。今回改正で、この新しい記号を使うようになったものである。

上段がスポット溶接の記号、下段がシーム溶接の記号である(図7)。

【開先溶接の溶接記号】

溶接深さが開先深さと同じ例の場合、従来は部分溶け込み溶接として開先深さの数値を○で囲んでいたが、改正によりカッコで指示する。

溶接深さと開先深さが異なる場合、従来は完全溶け込み溶接として開先深さの数値だけを指示していたが、開先深さの数値に続けて要求する溶接深さをカッコで指示する。実形も合わせて図8に示す。

【1st STEPのまとめ】

1st STEPでは具体的な製図のテクニックより、設計の流れの中で果たす製図の役割と、製図をする際の心構え、JISという国家規格と設計実務の乖離などを中心に紹介してきた。

製図作業をしっかりしたところで上司から評価もされることなく、挙げ句の果てに「図面に寸法を入れるくらい、何を時間かけて描いているんだ!」と言われるほど、製図の重要性を認識してもらえない場合が多い。

製図は設計作業の中の最後の砦であり、皆さんが担当する製品の信頼性を作り込む、設計工程の重要なステップであることを認識してもらいたいのである。

ISO9001によると、設計のOUTPUTとは生産図面であり、図面を描くだけでなく、その後の図面変更も含めて管理されなければいけない『品質文書』と指定されている。

いい加減な図面を描くと、いずれ不具合として設計者自身がしんどい思いをして対応しなければならず、全社的に無駄な工数発生に加えて部品の作り直しによって企業利益を食いつぶしてしまうほど影響力のある“文書”と認識しよう。

以上で、世界で戦えるGROBALエンジニアになるための製図技術~図面は英語に勝る公用語~ 1st STEP(全5回)を完結する。

2nd STEPでは、実務設計に役立つ製図のテクニックを紹介する予定である。

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