はじめに
産業のグローバル化に伴い、エンジニアの描いた図面が翌日には海外の工場で加工されるという時代になって久しい。また、図面だけではなくエンジニア自身も生産の立ち上げや製品フォローのために海外へ行く機会がこれからどんどんと増えてくるはずである。
海外へ行くとなるとまず英語から・・と思いがちであるが、機械設計の世界には英語以上の共通語である図面が存在し、これを味方につけることでGLOBALエンジニアに変身できるのである。
このような時代にエンジニアとして図面にどう向き合えばよいのか、「世界で戦えるGLOBALエンジニアになるための製図技術」と題し、ファーストステップ編として、CADの役割や設計と製図の関係、製図の重要性、現状の製造業で流通している図面の実態、2010年改正JIS製図などについて全5回にわたって解説する。
1.CADの役割を認識する
CADとは、コンピュータ支援設計と和訳され、コンピュータを用いて工業製品などの設計を行うシステムのことである。一般的にCADはワープロと比較されることが多い。
例えば、川端康成の作品である「雪国」の冒頭に書かれている文章に「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」というフレーズがある。長いトンネルの中の真っ暗な閉塞感から、トンネルを抜けるとまばゆいくらいの真っ白な銀世界が広がるといった開放感が表現されている。
つまり、高性能なワープロを使えば世界的な文学者並みの文章が書けるわけではなく、書き手の才能が必要であるという本質はCADを使う場合も同じである。
設計OUTPUTである図面を作成するまでの過程を図1に示す。
文学であれ機械設計であれ、どちらもOUTPUTが存在する。前者の場合は原稿、後者の場合は図面である。ジャンルはまったく違うが、OUTPUTを通じて著者あるいはエンジニアの意思を伝達することにある。
CADもワープロも安易にコピー&ペーストを繰り返すと、作者の思考が劣化し無責任なOUTPUTが作り出されることになる。
設計効率の向上を図るためのCADを、納期優先のためのコピー&ペーストマシンとして利用してしまうと、エンジニアの資質を劣化、しいては日本製造業の競争力低下につながってしまう。
設計思想のある設計、ない設計
2次元CADは、ドラフター上のX-Y座標面に紙と鉛筆を使って図形を描く作業の代わりに、パソコン画面上の仮想のX-Y座標面に図形を描くシステムをいう。大手企業では3次元CADが主流であるが、中小企業ではまだ2次元CADが主流である。
2次元CADは次のような操作を繰り返しながら部品形状を制作する。
- 直線あるいは曲線を描く
- 描いた線をオフセットした位置にコピーする
- 2本の交線をフィレット(面取り)する
- 線の長さ、円弧の長さをストレッチ(伸縮)させる
- 複数の形状要素を移動あるいはコピーする
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