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5 投影図と寸法線以外の情報にも注意を払おう

前回までに、軸を固定する治具(じぐ)の四つの構成部品について、作図を行った。
図面は「投影図に寸法を記入するもの」ではない。図面には、投影図と寸法線以外にも、重要な情報が示されている。
その情報とは、表題欄に記入される部品名称や材質、表面処理である。

前回までに描いたそれぞれの構成部品は、どのように考えて材質と表面処理を選べばよいだろうか。

  • * 材質や処理などの選定は設計形状と同じように正答はなく、設計者が属する業界や経験、理屈で変わるため、以降解説する内容は一つの考え方であることをご理解いただきたい。

軸を固定する治具の組立図から、製品仕様を想定してみよう。

あらためて、軸を固定する治具(じぐ)の組立図を確認しておく(画像1、2)。

画像1

軸を固定する治具の組立図

画像2

治具とVブロック

1…Vブロック
2…ハウジング
3…締め付けボルト
4…ハンドル

構造から考えられる仕様例を列記する。(仮想スペック)

図面には必ず表題欄がある。表題欄は、世界的にフォーマットが決まっているわけではないので、企業ごとに欄内のレイアウトや項目が異なっている。一例を下記に示す。(画像3)

画像3

図面の表題欄

1 Vブロック(画像4)

【部品名称】

一般的にV溝を主として構成する塊はVブロックと呼ばれることが多い。その他の名称候補としては、「軸置台」「軸固定台」「基準ブロック」などさまざまな名称が考えられる。

【材質】

加工基準や計測基準として用いられる一般的なVブロックは、JIS(日本工業規格)に、その形状や材質が規定されている。
JISが規定する材質を参考にすると、候補として次の2種類がある。

  • SK105と同等かそれ以上の鋼製
  • FC200と同等かそれ以上の鋳鉄製

一般的な知識から単純に両者の違いを確認すると、次のようになる。

  • SK105…高炭素鋼であるため、焼入れを前提とし、硬さを要求する場合に選択する。コストは高くなりそうである。
  • FC200…鋳鉄なので炭素量が多い分、摺動(しゅうどう)性が良く定盤などにも用いられる。切削性が良く、焼入れしなくても使えるため、コストは安くなりそうである。

今回は、傷などの発生を抑えるために表面の硬度を上げたいという理由をつけてSK105とする。

【処理】

ここで、SK105は炭素を約1.05%含有する合金鋼であり、素材のままで使うことはなく、熱処理をして硬度を与える必要がある。そこで、焼入れ焼き戻しを注記として指示する。熱処理する場合は、目標とする硬度を書く必要があり、JIS規格と同じ「HRC58以上」を注記として追記する。焼入れによる硬度は炭素量に比例し、その炭素量から得られる目安の硬度が決まっている。

防錆のためにめっき処理をしてもよいが、焼入れによって表面に酸化被膜が発生することで錆にくい状態となっており、工場内での使用であることから表面に防錆油を塗布する程度とする。これも注記として指示しておくとよい。(画像5)

画像4

治具とVブロック

画像5

Vブロックの表題欄記入例

2 ハウジング(画像6)

【部品名称】

Vブロックを包み込む形状であることからハウジングと名付けた。その他の名称候補としては、「ケース」「ガイド」「アーチブロック」などさまざまな名称が考えられる。

【材質】

特殊な形状をしているため、鋳物で製作することを前提としている。Vブロックを挟み込んでスライドする摺動性と、締め付けボルトの反力に耐える強度を兼ねた材質が適すると考えられる。

一般的な鋳鉄である、ねずみ鋳鉄は炭素を2%以上含むことから摺動性はあるが、引張強さはそれほど大きくないうえに、伸びがほとんどないため、許容応力を超えると割れに至るという脆さ(もろ)がある。そこで今回は、ねずみ鋳鉄の脆さを改善したダグタイル鋳鉄を選択し、FCD400とする。

【処理】

FCD400は、めっきをしなければ錆が発生するため、一般的な亜鉛めっきを選択し、室内で使用するには十分耐食性のある有色クロメートとする。めっきを施した場合、内側の摺動面は摩擦によってめっきがはがれると予想されるが、多少の油がつく工場内という環境であるため許容できると判断する。

めっき記号は、鉄素地(てつそじ)に電気亜鉛めっき、膜厚8μm(マイクロメートル)、有色クロメートを意味する「Ep-Fe/Zn 8/CM 2」で表し(画像7、8)、有害物質である6価クロムを使わないよう3価クロメートを使うよう文字で指示する。製図の記号で3価クロメートを指示するものは存在しない。

上記の記号は、JISの最新記号であるが、旧記号を使用している企業も多い。旧記号を使っている企業では「MFZn8-C」と指示する。

画像6

ハウジング

画像7

ハウジングの表題欄記入例

画像8

表題欄、処理についての図解

処理欄に記載する記号の例

電気めっき Ep:電気めっき  ELp:無電解めっき
素地の種類 Fe:鉄  Cu:銅・銅合金  Zn:亜鉛合金 など
めっきの種類 Ni:ニッケル Cr:クロム ICr:工業用クロム Cu:銅  Zn:亜鉛 など
めっきの厚さ μm厚さ
後処理 CM1:光沢クロメート  CM2:有色クロメート  CM3:黒色クロメート
使用環境 A:腐食性の高い屋外 B:通常の屋外 C:湿気の高い屋内 D:通常の屋内

電気亜鉛めっきのクロメートの種類

亜鉛めっき後の後処理として、亜鉛の腐食を防ぎ耐食性を向上させるための薄い皮膜をつけることをいう。

電気亜鉛めっきのクロメートの種類:光沢クロメート(記号CM1)

光沢クロメート(記号CM1)

電気亜鉛めっきのクロメートの種類:有色クロメート(記号CM2)

有色クロメート(記号CM2)

電気亜鉛めっきのクロメートの種類:黒色クロメート(記号CM3)

黒色クロメート(記号CM3)

3 締め付けボルト(画像10)

【部品名称】

軸を固定する機能をそのまま、締め付けボルトと名付けた。
その他の名称候補としては、「ノブ」「ボルト」「固定ねじ」などさまざまな名称が考えられる。

【材質】

軸を締め付ける機能を持つため、強度が保証された鋼で十分であると考えるのが一般的である。コストや入手性、汎用性を考慮して一般構造用圧延鋼材であるSGD400とする。

SGD材はリムド鋼であり、製造工程で脱酸処理を行わない分、不純物が多く、強度だけが保証された材料で安価である。

それに対して、S45Cの炭素鋼やSCMなどの合金鋼は、キルド鋼と呼ばれ、脱酸処理によって不純物が少なく、成分を保証しているため高価である。

今回は、丸棒形状であるため、素材に丸棒のSGD400-Dを選択する。この「D」は引抜材を意味する記号である。(画像11)

【処理】

手で触る機会が多い部品であり、色を合わせる意味も含めてハウジングと同じ有色亜鉛めっきとする。

画像10

締め付けボルト

画像11

締め付けボルトの表題欄記入例

4 ハンドル(画像12)

【部品名称】

締め付けボルトの締め付け力を大きくする場合に使うことからハンドルとした。
その他の名称候補としては、「バー」「軸」「丸棒」などさまざまな名称が考えられる。

【材質】

締め付けボルトの回転力を補助するものであり、強度が保証された鋼で十分であると考えるのが一般的である。コストや入手性、汎用性を考慮して一般構造用圧延鋼材であるSGD400とする。(画像13)

今回は、丸棒形状であるため、丸棒の引抜材SGD400-Dとする。

  • * 今回は、寸法公差を省略しているためSGD400-Dとしたが、購入状態で外径の寸法公差が「h9(基準寸法に対してマイナス公差)」である「SGD400-D9」が候補に挙がる。

【処理】

手で触る機会が多い部品であり、色を合わせる意味も含めてハウジングや締め付けボルトと同じ有色亜鉛めっきとする。

画像12

ハンドル

画像13

ハンドルの表題欄記入例

このように、図面は投影図に寸法を記入するだけのドキュメントではなく、材質や処理まで含めて検討して、設計部品の信頼性を保証しなければいけない。

しかし、図面はまだまだこれで完成するわけにはいかない。

組み立てや機能を保証するために、寸法公差や幾何(きか)公差を使いこなす必要がある。
これらは、またの機会にお話しすることとしよう。

以上で、世界で戦えるGLOBALエンジニアになるための製図技術 3rd STEP<全5回>を完結する。

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