この連載について

今回の連載「BIMでつなぐ/全5回」では、BIMとつなぐ、つなげることで得られる効果やその方法について、最新の情報をお届けします。(変化の激しいBIMテクノロジーに合わせて、テーマを変更させていただく場合もございます。)

シリーズ記事

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介

「設計者のための」とは?

この連載では、これまでもリアルタイムレンダリングを取り上げてきた。第一回ではTwinmotionというリアルタイムレンダリングアプリケーションを取り上げた。

また過去には、グラフィソフト社のBIMxアプリケーションとVR(バーチャルリアリティ)も取り上げた。

TwinmotionもBIMxも素晴らしいアプリケーションなのだが、設計者のためのツールとしては何か物足りない。Revit LiveというRevit専用のアプリケーションもあるが、2019版で開発が終わってしまっているようだ。

そこで今回は、最近、設計者の間で手軽なツールとして使われているEnscapeを「設計者のためのリアルタイムレンダリング」のツールとして取り上げる。詳しくその機能を紹介しながら、設計者のためのツールとしての必要条件を考えたい。

Enscapeとは

重要なお知らせ

2021年1月現在、大塚商会ではEnscapeのお取り扱いはございません。

Enscape(エンスケープ)はドイツEnscape社(https://enscape3d.com/)の製品だ。Enscape単体で使うのでなく、SketchUp、Rhinoceros、Revit、ARCHICADと一緒に使う。価格は1カ月単位の場合47米ドル/月だ。2週間無料で使える体験版もある。ここではBIMアプリケーションの代表格であるRevitとARCHICADを使ってEnscapeを紹介しよう。

Revitに表示されるEnscapeタブ

ARCHICADに表示されるEnscapeメニューとツールバー

Enscapeの基本機能

Enscapeという製品の全ての機能を紹介することが本稿の目的ではないので、ここでは機能の一覧を表にまとめることにする。ARCHICADから起動したEnscapeとRevitから起動したEnscapeの比較が次の表だ。ARCHICADではEnscapeのビューと全く同じようにビューが動くLive Updates(自動更新)ができたり、RevitではPlace Sound Source(音源を配置)機能があったりという違いがあるが、大きな違いはないようだ。
(表中の「解説」は筆者の翻訳によるもので、Enscape社による公式のものではない)

機能解説ARCHICADRevit
Start Enscape / Update SceneEnscapeを起動
Live Updates自動更新
Synchronize Viewsビューを同期
Active Document - ViewsRevitビューを切り替え
VR HeadsetVRヘッドセットを使用
Asset Libraryアセット(部品)ライブラリ
Enscape Materials EditorEnscapeで表示されるマテリアルを調整
Render Imageレンダリングしてファイルに保存
Export Exe Standalone単独で動作するEXEファイルに書き出し
Export Web StandaloneEnscape社Webサイトに書き出し表示
Video Editor (on / off)ビデオ エディターに切り替え
Create ViewEnscapeのビューをRevitにビュー登録
Load Pathカメラパスをファイルからロード
Save Pathカメラパスをファイルに保存
Render Video完成したビデオをMP4ファイルに保存
Render Panoramaパノラマ画像の作成
Render Panorama for CardboardCardboard用パノラマ画像の作成
Manage Uploads画像をアップロード・ファイル保存
Place Sound Source音源を配置
Enable Sound音源ON
General Settings一般設定
Visual Settings表示設定
Feedbackフィードバック
AboutEnscapeについて
Enscape StoreEnscapeストア
Enscape ToolbarEnscapeツールバーを表示

EnscapeがなくてもWebで

ARCHICAD、Revitに共通して、面白い機能を一つ取り上げる。Export Web Standalone(Enscape社Webサイトに書き出し表示)という機能だ。このExport Web Standaloneを使うと、Enscapeを持たないユーザーでも指定URLにアクセスすれば建物の内外を歩き回るようなレンダリング画像を表示させることができる。ただしOSはWindowsに限られ、グラフィックボードなどそれなりの機能は必要になる。

次の例はARCHICAD 22でARCHICADガイドラインのモデルを表示させ、Enscapeを起動、さらにEnscape社Webサイトに書き出したものをGoogle Chromeで表示したものだ。

ARCHICAD 22で表示

Enscapeアプリケーションで表示

Webで表示(Google Chromeを使用)

同じことをRevit 2020でもやってみよう。使うのはRevitに付属のサンプルモデルだ。

Revit 2020で表示

Enscapeアプリケーションで表示

Webで表示(Google Chromeを使用)

ARCHICADでもRevitでもWebでの表示がとても美しい。数秒でこの品質のレンダリング画像を手に入れることができる。しかも歩き回り、視点が変化してもレンダリングのやり直しや待ち時間はない。ずっとこの品質の画像を表示し続けることができる。

Revit・ARCHICADからEnscapeへ

Enscapeは、単独で使うことはできない。同じリアルタイムレンダリングアプリケーションのTwinmotionは単独で起動して独自のファイルを開くことができるが、Enscapeではできない。あくまでARCHICADやRevitから起動するプラグインツールだ。

今回のテーマは「設計者のためのリアルタイムレンダリング」だ。モデリングを進める設計者は、例えば先のARCHICADの例では「テーブルや椅子を配置してみた、よしEnscapeで見て確認してみよう」となるのだ。見るだけのために数時間かかったのでは困る。ARCHICADモデルを筆者の環境で開いて、Enscapeを実行表示させるまでに55秒かかった。Revitの例では20秒ほどかかった。

ちょっと一息する時間として、1分以内にはEnscape側の作業に切り替わってほしい。「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第一条件は「最初のレンダリング画像が表示されるまで1分以内」としよう。ARCHICADでもRevitでも、最初のロード中は次のような画像が表示される。

Enscapeロード中に表示される画面

Revit・ARCHICADでのモデル変更をEnscapeに反映

「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第二条件はモデルの変更がレンダリング画面に同期されることだ。Enscapeではモデルの変更はBIMアプリケーション側で行う。先のRevitの例で、光の入ってくる窓を削除して壁だけにしてみよう。窓がなくなるだけでなく、床への日射も変わらないといけないが、なんとモデルを変更して2秒ほどでレンダリング完了。体感としてはリアルタイム、「瞬時」だ。
「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第二条件は「BIMアプリケーションでのモデル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される」だ。設計者はこの画像を見て変更の良しあしを判断する。瞬時でないと意味がない。

Revitで窓を削除、Enscapeに反映

Revit・ARCHICADでのマテリアル変更をEnscapeに反映

モデルの変更と同じようにマテリアルの変更も大事だ。壁、床などの表情はデザインの良しあしを決める。
ARCHICADの例で床と壁のマテリアルを石貼りに変えてみる。ARCHICADでの変更がEnscapeに反映されるのにかかる時間は3秒ほどだ。これも瞬時としていいだろう。
「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第三条件は「BIMアプリケーションでのマテリアル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される」だ。瞬時に反映されればマテリアルを次々に変えながら、比較検討することができる。

ARCHICADで床と壁のマテリアルを変更、Enscapeに反映

VRで使う

HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使うVR(バーチャルリアリティ)と、BIMアプリケーションを組み合わせて使えるのもBIMの魅力の一つだ。例えば設計のこんなシーンで使う。

コンピューターにヘッドマウントディスプレイをつなぎ、簡単な初期設定さえすればEnscapeでVRが使えるようになる。左手のコントローラーを持ち上げるとメニューが表示され、各項目を右手のトリガーで指示する。BIMアプリケーションで登録されたビューに切り替えたり、平面図を地図として表示したり、現在の表示をカメラで撮影するといったメニューが用意されている。右手のコントローラーで場所を指示してテレポーテーション、指示したところに瞬間移動もできる。

下の写真はARCHICADとEnscapeの組み合わせだ。HMDはHP社のHP Reverb Virtual Reality Headsetを使っている。HMDに表示されている画像はモニターにも表示されるので複数人で見ることもできる。

VRは設計を楽しくしてくれる。「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第四条件は「スムーズにVRとつながる」だ。

Enscapeは設計者のためのツールになるか

Enscapeは設計者のためのツールになるか? その答えはYesだ。ここで挙げた「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の次の四つの条件を満たしている。

  1. 最初のレンダリング画像が表示されるまで1分以内
  2. BIMアプリケーションでのモデル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される
  3. BIMアプリケーションでのマテリアル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される
  4. スムーズにVRとつながる

設計がBIMによって変わってきた。もっとさまざまな製品がこのビジュアライゼーションの分野で出てくることを期待したい。

シリーズ記事

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介