2025年 4月 1日
2025年 3月25日
2025年 3月25日
この連載について
今回の連載「BIMでつなぐ/全5回」では、BIMとつなぐ、つなげることで得られる効果やその方法について、最新の情報をお届けします。(変化の激しいBIMテクノロジーに合わせて、テーマを変更させていただく場合もございます。)
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「設計者のための」とは?
この連載では、これまでもリアルタイムレンダリングを取り上げてきた。第一回ではTwinmotionというリアルタイムレンダリングアプリケーションを取り上げた。
また過去には、グラフィソフト社のBIMxアプリケーションとVR(バーチャルリアリティ)も取り上げた。
TwinmotionもBIMxも素晴らしいアプリケーションなのだが、設計者のためのツールとしては何か物足りない。Revit LiveというRevit専用のアプリケーションもあるが、2019版で開発が終わってしまっているようだ。
そこで今回は、最近、設計者の間で手軽なツールとして使われているEnscapeを「設計者のためのリアルタイムレンダリング」のツールとして取り上げる。詳しくその機能を紹介しながら、設計者のためのツールとしての必要条件を考えたい。
Enscapeとは
重要なお知らせ
2021年1月現在、大塚商会ではEnscapeのお取り扱いはございません。
Enscape(エンスケープ)はドイツEnscape社(https://enscape3d.com/)の製品だ。Enscape単体で使うのでなく、SketchUp、Rhinoceros、Revit、ARCHICADと一緒に使う。価格は1カ月単位の場合47米ドル/月だ。2週間無料で使える体験版もある。ここではBIMアプリケーションの代表格であるRevitとARCHICADを使ってEnscapeを紹介しよう。
Revitに表示されるEnscapeタブ
ARCHICADに表示されるEnscapeメニューとツールバー
Enscapeの基本機能
Enscapeという製品の全ての機能を紹介することが本稿の目的ではないので、ここでは機能の一覧を表にまとめることにする。ARCHICADから起動したEnscapeとRevitから起動したEnscapeの比較が次の表だ。ARCHICADではEnscapeのビューと全く同じようにビューが動くLive Updates(自動更新)ができたり、RevitではPlace Sound Source(音源を配置)機能があったりという違いがあるが、大きな違いはないようだ。
(表中の「解説」は筆者の翻訳によるもので、Enscape社による公式のものではない)
機能 | 解説 | ARCHICAD | Revit |
---|---|---|---|
Start Enscape / Update Scene | Enscapeを起動 | ○ | ○ |
Live Updates | 自動更新 | ○ | ― |
Synchronize Views | ビューを同期 | ○ | ― |
Active Document - Views | Revitビューを切り替え | ― | ○ |
VR Headset | VRヘッドセットを使用 | ○ | ○ |
Asset Library | アセット(部品)ライブラリ | ○ | ○ |
Enscape Materials Editor | Enscapeで表示されるマテリアルを調整 | ○ | ― |
Render Image | レンダリングしてファイルに保存 | ○ | ○ |
Export Exe Standalone | 単独で動作するEXEファイルに書き出し | ○ | ○ |
Export Web Standalone | Enscape社Webサイトに書き出し表示 | ○ | ○ |
Video Editor (on / off) | ビデオ エディターに切り替え | ○ | ○ |
Create View | EnscapeのビューをRevitにビュー登録 | ― | ○ |
Load Path | カメラパスをファイルからロード | ○ | ○ |
Save Path | カメラパスをファイルに保存 | ○ | ○ |
Render Video | 完成したビデオをMP4ファイルに保存 | ○ | ○ |
Render Panorama | パノラマ画像の作成 | ○ | ○ |
Render Panorama for Cardboard | Cardboard用パノラマ画像の作成 | ○ | ○ |
Manage Uploads | 画像をアップロード・ファイル保存 | ○ | ○ |
Place Sound Source | 音源を配置 | ― | ○ |
Enable Sound | 音源ON | ― | ○ |
General Settings | 一般設定 | ○ | ○ |
Visual Settings | 表示設定 | ○ | ○ |
Feedback | フィードバック | ○ | ○ |
About | Enscapeについて | ○ | ○ |
Enscape Store | Enscapeストア | ○ | ― |
Enscape Toolbar | Enscapeツールバーを表示 | ○ | ― |
EnscapeがなくてもWebで
ARCHICAD、Revitに共通して、面白い機能を一つ取り上げる。Export Web Standalone(Enscape社Webサイトに書き出し表示)という機能だ。このExport Web Standaloneを使うと、Enscapeを持たないユーザーでも指定URLにアクセスすれば建物の内外を歩き回るようなレンダリング画像を表示させることができる。ただしOSはWindowsに限られ、グラフィックボードなどそれなりの機能は必要になる。
次の例はARCHICAD 22でARCHICADガイドラインのモデルを表示させ、Enscapeを起動、さらにEnscape社Webサイトに書き出したものをGoogle Chromeで表示したものだ。
ARCHICAD 22で表示
Enscapeアプリケーションで表示
Webで表示(Google Chromeを使用)
同じことをRevit 2020でもやってみよう。使うのはRevitに付属のサンプルモデルだ。
Revit 2020で表示
Enscapeアプリケーションで表示
Webで表示(Google Chromeを使用)
ARCHICADでもRevitでもWebでの表示がとても美しい。数秒でこの品質のレンダリング画像を手に入れることができる。しかも歩き回り、視点が変化してもレンダリングのやり直しや待ち時間はない。ずっとこの品質の画像を表示し続けることができる。
Revit・ARCHICADからEnscapeへ
Enscapeは、単独で使うことはできない。同じリアルタイムレンダリングアプリケーションのTwinmotionは単独で起動して独自のファイルを開くことができるが、Enscapeではできない。あくまでARCHICADやRevitから起動するプラグインツールだ。
今回のテーマは「設計者のためのリアルタイムレンダリング」だ。モデリングを進める設計者は、例えば先のARCHICADの例では「テーブルや椅子を配置してみた、よしEnscapeで見て確認してみよう」となるのだ。見るだけのために数時間かかったのでは困る。ARCHICADモデルを筆者の環境で開いて、Enscapeを実行表示させるまでに55秒かかった。Revitの例では20秒ほどかかった。
ちょっと一息する時間として、1分以内にはEnscape側の作業に切り替わってほしい。「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第一条件は「最初のレンダリング画像が表示されるまで1分以内」としよう。ARCHICADでもRevitでも、最初のロード中は次のような画像が表示される。
Enscapeロード中に表示される画面
Revit・ARCHICADでのモデル変更をEnscapeに反映
「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第二条件はモデルの変更がレンダリング画面に同期されることだ。Enscapeではモデルの変更はBIMアプリケーション側で行う。先のRevitの例で、光の入ってくる窓を削除して壁だけにしてみよう。窓がなくなるだけでなく、床への日射も変わらないといけないが、なんとモデルを変更して2秒ほどでレンダリング完了。体感としてはリアルタイム、「瞬時」だ。
「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第二条件は「BIMアプリケーションでのモデル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される」だ。設計者はこの画像を見て変更の良しあしを判断する。瞬時でないと意味がない。
Revitで窓を削除、Enscapeに反映
Revit・ARCHICADでのマテリアル変更をEnscapeに反映
モデルの変更と同じようにマテリアルの変更も大事だ。壁、床などの表情はデザインの良しあしを決める。
ARCHICADの例で床と壁のマテリアルを石貼りに変えてみる。ARCHICADでの変更がEnscapeに反映されるのにかかる時間は3秒ほどだ。これも瞬時としていいだろう。
「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第三条件は「BIMアプリケーションでのマテリアル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される」だ。瞬時に反映されればマテリアルを次々に変えながら、比較検討することができる。
ARCHICADで床と壁のマテリアルを変更、Enscapeに反映
VRで使う
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使うVR(バーチャルリアリティ)と、BIMアプリケーションを組み合わせて使えるのもBIMの魅力の一つだ。例えば設計のこんなシーンで使う。
- 病院のプランでナースステーションのどこから、病室のドアがどう見えるかチェック
- 玄関に吹き抜けを作ったが、どこに立って見上げると、どこまでがどう見えるかチェック
- 客席の隅々からステージが見えるか、どう見えるか、障害物はないかチェック
コンピューターにヘッドマウントディスプレイをつなぎ、簡単な初期設定さえすればEnscapeでVRが使えるようになる。左手のコントローラーを持ち上げるとメニューが表示され、各項目を右手のトリガーで指示する。BIMアプリケーションで登録されたビューに切り替えたり、平面図を地図として表示したり、現在の表示をカメラで撮影するといったメニューが用意されている。右手のコントローラーで場所を指示してテレポーテーション、指示したところに瞬間移動もできる。
下の写真はARCHICADとEnscapeの組み合わせだ。HMDはHP社のHP Reverb Virtual Reality Headsetを使っている。HMDに表示されている画像はモニターにも表示されるので複数人で見ることもできる。
VRは設計を楽しくしてくれる。「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の第四条件は「スムーズにVRとつながる」だ。
Enscapeは設計者のためのツールになるか
Enscapeは設計者のためのツールになるか? その答えはYesだ。ここで挙げた「設計者のためのリアルタイムレンダリング」の次の四つの条件を満たしている。
- 最初のレンダリング画像が表示されるまで1分以内
- BIMアプリケーションでのモデル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される
- BIMアプリケーションでのマテリアル変更が瞬時にレンダリング画像に反映される
- スムーズにVRとつながる
設計がBIMによって変わってきた。もっとさまざまな製品がこのビジュアライゼーションの分野で出てくることを期待したい。
シリーズ記事
- プレゼンテーションとつなぐ【BIMでつなぐ/第1回】
- プログラミングでつなぐ【BIMでつなぐ/第2回】
- ARCHICADとつなぐ【BIMでつなぐ/第3回】
- 図面とつなぐ【BIMでつなぐ/第4回】
- 設計者のためのリアルタイムレンダリング【BIMでつなぐ/第5回】
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