この連載について

今回の連載「BIM最前線/全5回」では、BIM(Building Information Modeling)を取り入れたこれからの設計・建設の職能を考えるうえで、知っておきたい最新の情報をお届けします。

シリーズ記事

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介

1.BIMxの新機能

グラフィソフト社のBIMプロジェクトビューワーBIMxは、ARCHICADというBIMアプリケーションで作られた3次元の3Dの建物モデルと2D図面を、動的に行き来できるように一つにまとめ表示するアプリケーションだ。Windowsだけでなく、iPhoneやiPad、Androidスマートフォン、タブレットで動作する。BIMxは無料のアプリだが、幾つかの機能が追加されたBIMx PROという有償アプリも用意されている。

また、特別なアプリをインストールしなくても、Webブラウザーさえあればインストールの必要なBIMxアプリと同じように建物モデルを表示できるBIMx Web Viewerも、昨年リリースされた。試しに筆者もグラフィソフト社のサイト「BIMx model transfer」に、図のモデルをアップロードしてみた。「プライベート」設定にしたので、一般には公開されない。「パブリック」設定で公開されている幾つかのモデルも表示した。結構大きなモデルの3D表示も2D図面の表示もストレスなく行うことができる。建物内を歩き回っているかのように表示される「ウォークスルー」も楽しいので、ぜひ試していただきたい。Windows PCであればアプリケーションは不要で、Internet ExplorerやMicrosoft Edge、Google Chromeなどのブラウザーだけでこれらを体験できる。前方、後方、左右への移動などのキーボード操作は、[?]で表示されるヘルプで確認できる。

BIMxについての詳細は、グラフィソフト社のサイトを参照いただきたい。

BIMxについて| Help Center

BIMx model transfer(GRAPHISOFTのWebサイトが開きます)

Webブラウザーでサイト「BIMx model transfer」に登録されたBIMプロジェクトを表示

2.BIMxコンテンツの作り方

BIMxで表示されるコンテンツはARCHICADで作られる。ARCHICADで目的のプロジェクトを開き、図のようにあらかじめどの2D図面を含むかなどを設定しておいた「発行セット」を選択し、「発行セットプロパティ」でどこに書き出すかなどを設定して、[発行]ボタンで書き出す。

下図のプロジェクトでも約2分でアップロードが完了した。実に簡単だ。

ARCHICADからBIMxコンテンツを「発行」

3.VRで得られる没入感?

「VRで得られる没入感」という表現をよく目にする。VRは、バーチャルリアリティー、仮想現実などと訳される。こちらは最近、体験する人も増えてきて、市民権を得つつある。「没入感」の方はなじみのない用語だが、英語ではIMMERSIVEとなり、比較的新しい言葉のようだ。写真のようにヘッドマウントディスプレイの外面に3次元表示される空間を見ると、その世界に空間移動したように感じる。これがつまり「没入感」だ。

手に持ったコントローラー一つで指定した場所に移動することができる。高所から墜落する画像を体験するとリアルな恐怖を感じる。ヘッドマウントディスプレイやそれにつなぐ、あるいは内蔵されたコンピューターの性能が上がり、アニメ調の建物や映像の不気味さ、作り物感は消えてきた。

これがあれば、建物の内外を見て設計を確認できる。例えば、ショッピングセンターに1階から3階までの吹き抜けを作ったとしよう。そこで3階の手すりにもたれかかったときに、1階のどこまでを見渡せるかということがすぐに分かる、つまり疑似体験できるのだ。

VRで没入中?

4.BIMxのすごさ

BIMxに話を戻そう。BIMxには没入感はなくても優れた点がある。iPhoneやiPad、Androidスマートフォン、タブレットで動作することだ。さらに、あらかじめモデルに埋め込まれた2D図面がチャットのように表示される。ただしWindowsのBIMxでは2D図面は表示されない。

3Dで建物を表示した状態で、この吹き抜け部分の断面を見たいなと画面をタップすれば、断面図と同時に、建物をタテにスパッと切った3Dモデルが表示され、さらにそのモデルを図面と一緒にぐるぐる回して確認できる。

友人の住宅設計者の悩みは「図面を盗まれる」ことだった。設計図を持ってクライアントに提案に行くと、いつの間にかその図面が別の工務店に渡され見積りを取られてしまう、あるいはそのまま施工されてしまうというのだ。筆者も似たような経験はある。設計・建築業界では「あるある」の話だ。それがBIMxで提案し、クライアントの子どもにもiPadで自由に歩き回れるようにしたら、子どもが一番うまく使いこなして、「ここをこうしてほしい」と子どもから声が上がるようになったという。もちろん紙の図面は渡していないので、ライバルに図面が渡るリスクもない。紙の図面なしでクライアントと意思疎通ができて、さらに受注に結び付く「打率」が飛躍的に向上したとのことだ。ゲームではない図面が表示できるBIMxの成せる業だ。

また本格的なVRではないが、Google CardboardとPhoneやAndroidスマートフォンを使ってBIMxを使うこともできる。ぐるりと周りを見回すこともできるし、Cardboard横のボタンを使って指定した場所への移動も、図面の表示もできる。これも楽しい。

iPad上に木造住宅のBIMxを表示(設計はBIM LABO新 貴美子)

Google Cardboardを使ってBIMxのVRを体験

5.VRとBIMxを比較

VRでは第一人者のワイクウーデザイン代表桑山優樹氏に、桑山氏が作るVRについてのノウハウを聞いた。桑山氏がVRコンテンツ作成に使うのはUnity Technology SolutionsのUnity(ユニティ)2018というソフトウェアだ。アニメ風のデフォルメされた映像ではなく、図のように光や影を含む写真のようにリアルなフォトリアリスティック映像を作成できる。また昨年リリースされたUnity BIM Importerを使ってARCHICADやRevitのモデルを直接取り込むことができる。ARCHICADもUnityもプロとして使いこなしている桑山氏のすごいところは、クライアントにVRを体験してもらって、「この窓をもう少し右にずらしてほしい」と言われると、その場でARCHICADモデルを変更してUnityでVRに仕上げる、ということを業務として実現していることだ。その時間、わずか10分というところらしい。VRの使い方がとがっている。

BIMxとUnityを使った桑山流VRを比較してみた。特別な機材が必要なVRと、そうでないBIMx、2D図面を3Dモデルに重ねて表示できるBIMx、どちらが優れているということではないが、筆者は建築を表現する方法としてはBIMxのほうに可能性を感じる。

ワイクウーデザインのWebサイトが開きます

BIMxとVRの比較

機能BIMxVR(桑山優樹氏の方法)
モデリングARCHICADARCHICAD/Revit
2D図面を重ねて表示△(実寸大の図面を仕込んでおく)
フォトリアリスティックレンダリング
その場で変更できるかARCHICADがあればすぐARCHICADがあれば10分で
色やマテリアルの変更あらかじめ仕込んでおけば可能
再生できるOSWindows
iOS
Android
Windows(EXEファイル)
必要なハードウェア一般のPC
タブレット
スマートフォン
ワークステーションとヘッドマウントディスプレイなど

フォトリアリスティックな木造住宅内部の映像

6.教育の未来とVR

少し視点を変えて、教育とVRについて考えてみたい。筆者も大学や専門学校で建築を教えているが、目下の悩みは学生が現場や実物に触れるチャンスが少ないことだ。実物に触れずにボルトや鉄筋を習い、経験したことのない溶接を学ぶ。それはきっと、学生にとってつまらないことだろう。

現場を歩き回り鉄骨や鉄筋の検査をする。実際には行けないような高所の作業を体験する。既にVRの活用事例として建設業の現場で使われている事例だ。窓の下端の高さはいくらにすべきか、レストランのテーブルの後ろにどれくらいのスペースが必要かというような設計のルールもVRならすぐ理解できる。教育にこそ、もっとVRが使われるべきだと思う。そのためにはVR機器の価格が下がり、かつ教員がVR機器を使いこなせるようになることが条件になる。そのハードルは高いかもしれないが、超えなければならないハードルだ。

教室でVR(中央工学校OSAKAにて)

シリーズ記事

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介