2019年 2月

実務者のためのCAD読本

米国Autodesk Universityに見るBIMの動向【BIM最前線/第3回】

建築系CAD 講師:鈴木裕二

2018年11月にラスベガスで開催されたオートデスク社主催の巨大イベントAutodesk Universityで体験したこと。さらに「BIMは従来の工程を変革し、それぞれを『つなぐ』ことは可能か?」そのカギとなるだろうBIM 360についてなど、BIMの最新動向をお届けします。

この連載について

今回の連載「BIM最前線/全5回」では、BIM(Building Information Modeling)を取り入れたこれからの設計・建設の職能を考えるうえで、知っておきたい最新の情報をお届けします。

シリーズ記事

1.米国でAutodesk Universityが開催

筆者は、昨年11月12日から15日まで米ラスベガスで開催されたAutodesk University 2018というイベントに参加した。Autodesk Universityは、今年で26回目になるオートデスク社主催の巨大イベントだ。期間中には、11,000人以上の参加者が集まり、650以上のクラスや、数回の基調講演が行われる。

基調講演やクラスでは、最新のオートデスク製品の情報や、ユーザーの経験談が発表された。これらの一部はわざわざラスベガスに行かなくても、オンラインで基調講演や一部のクラスを視聴することも可能だ。イベントが終わった現在も、動画やプレゼンテーション資料が公開されている。

BIM 360: Facilitating Collaboration Between Architect and Contractor(AutodeskのWebサイトが開きます)

動画はAutodesk Universityトップページから検索できる。さらに基調講演はYouTubeでも見ることができる。

Autodesk Universityトップページ(AutodeskのWebサイトが開きます)

「建築家とゼネコンのコラボレーション」をテーマにしたクラス動画

2.Autodesk Universityの楽しみ方

セミナーは全て英語で行われるため、筆者のようにあまり英語が得意でない参加者にはつらいところもあるのだが、工夫すればなんとかなる。カーボンニュートラルをうたうAutodesk Universityでは、紙の資料は基本的に配布されない。その代わり、事前にプレゼンテーション用のスライドや配付資料がダウンロードできるようになっている。

そこで、クラスに参加する前に必要な資料をダウンロードしておく。筆者はiPadのGoodNotesというアプリにスライドをダウンロードした。クラスの途中で分からない英単語が出てくれば、その場でGoogle翻訳を使って意味を調べながら受講したり、Apple Pencilを使ってスライドに手書きのメモを取ったりすることもできる。

GoodNotesにスライドを表示させてメモを取りながら受講

もしかしたらGoogle翻訳で「同時」通訳はできないかと思い、試してみた。図のようにおおむね翻訳には成功するのだが、タイムラグがあって、連続で日本語を表示するというわけにはいかない。近い将来、そんなこともできるようにGoogle翻訳が進歩しているかもしれないが。

Google翻訳で自動同時通訳

また、先に紹介した基調講演をYouTubeで視聴する場合は、自動翻訳による日本語字幕を表示することができる。ただし、完全な翻訳ではない。例えば、Fusionという製品名を日本語で「融合」と表示するなどの間違いもあるが、慣れれば十分に使える。さらに英語字幕も表示することができるので、英語の勉強も兼ねられる。

Autodesk University 2018基調講演をYouTubeで日本語字幕を表示して視聴

3.二つのテーマを持って参加

650ものクラスがあると、全部のクラスに参加することはもちろんできない。どのクラスを事前登録するか選ぶだけでも大変だ。あらかじめ、自分なりのテーマを決めて参加すると有意義な時間が過ごせる。

今回、筆者は個人的に次の二つをテーマとして、Autodesk Universityに参加することにした。

  • 設計と施工・製造をつなぐ、その方法は?
  • BIM 360の実務に役立つ使い方は?

このようにテーマを決めて参加すると、講師のプレゼンテーションをより深く聞くことができる。あるテーマについて、講師によって異なる見解があることも面白い。また、オートデスク社やアプリケーションを販売するソフトウェアベンダーからの「あれもできる、これもできる」という宣伝に近い情報もそれなりに役に立つのだが、それ以上にユーザーが発表する経験談/失敗談も楽しい。

例えばRevitのファイルが壊れたときにどうするか、共有ファイルを保存しているクラウドが突然停止したときにどうするか、といった話だ。この手の話は、製品を使い込んでいるユーザーが身近にいなければなかなか聞く機会がないため、貴重な経験談だ。

廊下に掲示されたクラスの一覧表

4.つながるBIM

Revitで建築モデルを作る。例えば筆者の専門である構造設計モデルも、構造計算の結果として構造設計者によって作られる。構造設計モデルは、鉄骨や鉄筋コンクリートなどの骨組みで作られたモデルだ。

この構造モデルを元に詳細設計が行われ、次に施工・製造のための図面が作られ、図面を元に現場で施工される。構造設計→詳細設計→施工図→施工という流れをBIMは変革できるのか、それぞれバラバラでなく「つなぐ」ことができるのか、というのが筆者の一つ目のテーマだ。

幾つかのクラスでこの「つなぐ(Connect)」が取り上げられていた。共通するのは、全工程をRevitなどの一つのBIMアプリケーションだけでつなごうとしていないことだ。

構造設計→詳細設計→施工図→施工という工程を例に取ると、ここではRevit、Recap、Robot、Advance Steel、AutoCAD、Navisworksなど、幾つものアプリケーションが使われる。作られるのは3次元モデルだけではない、2次元の図面も施工図・製作図として作られる。ここでつながるのはデータだ。アプリケーションは複数を使っていい。設計から施工段階まで共通して使える一つのスーパーアプリケーションはないし、それを作り出すことも使いこなすことも求められていない、という当たり前のことを、今回の各クラス参加を通して筆者は確認できた。

ただ、各工程をつなぐ接着剤の役割を果たすモノはある。それはクラスによってDynamoであったり、Forgeであったりした。Dynamoはグラフィカルにプログラミングできるツールだ、ForgeはBIM 360というプラットフォームで使われている。「つなぐ(Connect)」方法の答えはBIM 360にある。

構造モデルと詳細設計の例

5.BIM 360を使う

BIM 360というオートデスク社のクラウドサービスがある。幾つかの目的別BIM 360がリリースされているが、特にBIM 360 DesignとBIM 360 Docsが重要だ。このBIM 360をどう使うかが、筆者のAutodesk Universityでの二つ目のテーマだ。

結論から言えば、BIM 360 DesignとBIM 360 Docsの使いこなしは難しい。離れた場所にいる複数の設計者がRevitを使って一つのモデルを設計する、つまりクラウドワークシェアリングを行うには、BIM 360 Designが必須だ。また、図面をチェックする、見るだけの関係者ならBIM 360 Docsを用いる。いずれも特定のプロジェクトごとにクラウド上でメンバー設定を行い、管理者が各メンバーに対して必要な権限を付与して、運用していくものだ。1ライセンスの価格が日本円でBIM 360 Designが約15万円、BIM 360 Docsは本数によって2~5万円と決して安くない。

実は筆者は今、BIM 360のテスト運用中だ。プロジェクトを設定し、メンバーを招待し、それぞれのメンバーの権限を設定し、共同で設計する、というところまでは簡単だ。Revitによるクラウドワークシェアリング=共同設計もうまく行く。ただ、こうして構築したBIM 360を、施工チームを含めて合理的に運用する、というところまでは至っていない。誰にどのような権限を与えて、または与えずにBIM 360を運用するのが合理的なのか。 豊富なBIM 360機能のうち、どの機能が肝なのか。Revit、AutoCAD、ARCHICAD、Navisworksなどのアプリで、どこまでBIM 360は役に立つのか。たくさんの実例の発表も聞いたが、答えはまだ得られていない。いずれ方向が見いだせたら、この連載のテーマとして発表したい。

BIM 360 Designの画面

6.大手設計事務所の悩み

余談になるが、Autodesk Universityの後で、BIMの先進事務所として知られるある米国の大手設計事務所を訪ね、BIM推進の責任者と話す機会があった。その人物は、建築設計におけるBIM推進の現時点の課題として、次の三点を挙げていた。

  • リーダーたちがBIMプロジェクトをマネージする方法を再学習する必要がある
  • Revitは繰り返しの多い単純な形状の建物の設計に適している
  • 設計者たちの多くはデザインビルドに関心がない

設計者は時間が足りなくて、目の前の仕事をこれまでどおりの方法で進めるのが精いっぱい、BIMを進めるのはなかなか難しいというわけだ。筆者は「日本と同じだ」と逆に安心した。

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