2018年12月

実務者のためのCAD読本

BIM最前線(2)インテリアデザインとBIM/全5回

建築系CAD 講師:鈴木裕二

今回は「インテリアデザインとBIM」をテーマに、30年の経験を持つインテリアデザイナー、岡田眞一設計室の岡田眞一さんに詳しい話を伺った。

1.BIMを使えばインテリアデザインが変わる

連載テーマの順序を入れ替えて「インテリアデザインとBIM」を今回のテーマとする。筆者は、インテリアデザインは専門ではないので友人の岡田眞一設計室の岡田眞一さんに詳しい話を聞いた。岡田さんは30年の経験を持つインテリアデザイナーであり、BIMアプリケーションARCHICADを20年以上前から使っている。BIMという言葉がまだ一般化していない時代からのユーザーだ。

インタビューはインテリアデザイン業界の現状の一言から始まった。

「最近はカラー展開図というのがはやっていて、デザイナーが2D CADで作られた展開図に色とマテリアルを付けています。ところがその展開図と平面図、断面図の整合が取れていなくてARCHICADでモデリングするとおかしくなることがあります。BIMを使えば、そんなことはあり得ないのに、なぜ、若い人は使わないのでしょうね」

岡田眞一設計室の岡田眞一さん

2.最初から3Dモデルを作成

岡田さんに、インテリアデザインの仕事の進め方を具体的に聞いてみた。

まずクライアントから建物の資料を受け取る。テナント物件のことが多いので、その場合はビル管理会社の内装監理室が2D CADで作られた建物と設備の設計図書資料をDXFやPDFの形式でまとめてくれる。図面で分からない寸法は現場に出向いて実測することもある。

デザインは、この2D CADの建物資料をARCHICADで入力して3Dモデルにすることから始まる。打ち合わせで使う最初の資料からARCHICADで作成する。平面図、パース、3Dモデル(下の図)がこの時点の成果物だ。石、木、ビニールなど、何を使っているかが分かる程度に材質を設定し、家具などのボリュームもできるだけ正確にモデリングする。特徴的な間接照明などは配置するが、正確に全ての照明を配置することはない。打ち合わせの資料としてはこれで十分で、通路や座席の配置を確定することができるようになる。この段階でクライアントによる変更指示もあるが、長年付き合ってきたクライアントの場合、大きな変更はほとんどない。

家具の配置も3Dビューで表示(ARCHICAD)

3.モデリングにこだわる

デザインが固まると、施工後の状態が再現できるモデリングを行う。最近は、便器などの衛生設備データはメーカーが提供していることがほとんどだ。椅子、テーブル、カウンター、パーティションからレジ台まで、リアルな形状と材質のモデル作成へと進めていく。ほとんどの場合ARCHICADのGDLという機能を使って作成するのは、GDLを使うことで図のようなパーティションの全長が変わるからだ。また、格子のピッチなども、「パラメータ」の数値で設定を変更できる。

「プログラムの知識がない私でも、マニュアル片手に『パラメータ』付きのオブジェクトを作成でき仕事の効率化に役立っています。今後は、その機能に加えて、デザインの幅が広がり、そこから生まれるデザインの可能性にも期待しています」と岡田さんは言う。

作成したパーティション

「パラメータ」で変更できるパーティションのGDLスクリプト

4.デザインツールとしてのBIM

ガラスにインクジェットプリンターで印刷して客席間のパーティションに使う。そのデザインもインテリアデザイナーたる岡田さんの仕事だ。

まず、ARCHICADで座席間のガラス製パーティションのモデリングを行う。次にAdobe Illustratorを使ってガラス表面のパターンをデザイン。ドイツのMAXON Computer社のCINEMA 4Dで室内パースのレンダリングへと進め、照明との兼ね合い、家具の色とのマッチングなどをチェックする。さらに施工段階ではガラスにプリントする専門会社にAdobe Illustratorのデータとして送付することで、デザインどおりの加工が行われる。データが電子化されていることは、デザインから加工までスムーズに、意図どおりに進行させられるという利点がある。

CINEMA 4Dで作成されたデザイン段階のCG

5.図面を作成するBIM

詳細なモデリングを行うことで、図面化する作業も一気に効率アップできる。平面詳細図、立面図・展開図、断面図、部分詳細図、天井伏図が3Dモデルから切り出されることで、図面になる。一つのモデルを切断して作られるので、図面の間で矛盾は起きようがない。図面間の整合性が常に維持されるというのも、BIMが用いられるべき特長の一つだ。

もちろん、切り出した図面には寸法や注記の加筆が必要となる。そこでもモデルに与えられたオブジェクトの情報を利用することができるので、注釈記載上の間違いは少なくなる。

次の図はあえて全ての図面を重ねて表示したものだ。BIMという3文字の真ん中にある“I”、Information(情報)がこのモデルにいかにたくさん搭載されているかが分かる。図面はたくさんの情報をフィルターにかけて、必要なものだけを見やすく表示した成果物の一つでしかない

全ての図面情報を重ねて表示した

6.見積り作成場面でのBIM

ARCHICADを使って家具や建築要素をモデリングしているので、図のような家具の一覧表もすぐに作ることができる。大きさ、材質、数量など、必要な情報を指定すると、それらを取り出した表としてまとめられる。

「では見積金額もいつでも確認できるのですね?」と筆者が問いかけると、岡田さんからは「いや、モデリングの段階では、『これを使うと坪単価はこれくらいになるな』という目算が頭の中にあるだけです。表に表示されるのは数量のみで、金額は表示されません」と返ってきた。

ARCHICADで作成された家具の一覧表

7.照明シミュレーションを可能にするBIM

照明器具にもその姿・形状だけでなく、その照度と有効な照射範囲をデータとして設定してある。最近は照明器具メーカーが配光データ(IESデータ)ファイルを配布しているので、それを使って色温度を追加すればリアルな照明を設定できる。

例えば、図のような壁面(ガラス+グラフィックフィルム+アクリル板)の間接照明と天井LEDライン(アクリル板加工による造作)だ。デザインとしては、明るければいいというわけではない。経験と勘で照明を配置するのでなく、デザイン段階で正確な明るさと色のシミュレーションをしておきたい。BIMが可能にしてくれた照明シミュレーションがいかに有効か、竣工写真と比較すると分かる。

壁の間接照明と天井LEDラインの照明シミュレーション

同じ現場の竣工写真

8.工事管理とコミュニケーションの道具にも

施工前に提出する書類も多く、その大部分を岡田さんが作成する。消防署に提出する書類、ビルの内装監理室に提出する図面などだ。例えば、消防手続きに使う天井の消防設備機器配置図だと、建築本体の設計時(テナント区画割りのみ)の配置と、テナント店舗設計が完了した段階とでは違う図面になる。BIMによる設計なので、間仕切りなどの内装デザインの最終設計が終わると同時に、消防設備機器配置図は3次元レベルでできあがっている。さらにスプリンクラーもオブジェクトとして作成してあるので、あるレイヤーを表示すれば決まった半径の円が現れる。スプリンクラーの機能する範囲、つまり、有効散水包含円の表示/非表示ができるようにしてあるのだ。レイヤーの操作で消防申請用図面ができあがる。

さらに、設計者はデザインして終わりでなく、現場工事監理もその責務だ。施工者とのコミュニケーションにもBIMは使われ、壁面に造作家具としておかれる棚があるとか、壁にはこの家具を支える下地が必要、家具の製作に必要は家具の寸法はこうなる……などの打ち合わせ用資料として活用される。次の図は、壁で切断した壁下地図と、表面から見た家具の正確な図面だ。それぞれの3Dビューもある。それらは同じ一つのモデルの見方を変えているだけではあるが、これらの図面と資料があれば、現場の職人たちも迷わずにすむ。家具が工場から到着して据え付けようとしたときに「あれ、下地と寸法が合わない」というような、ケアレスミスも防ぐことができる。

壁下地の図(上)と造作家具の図(下)を1枚の図面に

上の図面の3Dビュー

9.BIMでインテリアデザイン

デザイン着手の段階から、クライアントとの打ち合わせ、実施設計、図面作成、家具の製作、積算、照明シミュレーション、施工打ち合わせ、工事監理までBIMが使われている。メインで使うのがARCHICADで、レンダリングにはCINEMA 4D、グラフィックや素材作成にAdobe IllustratorとAdobe Photoshopと、使用するアプリケーションも多彩だ。

岡田さんは「図面作成の作業が目的でなく、デザインの効率性をめざすBIMによる設計」を強調する。ソフトウェア導入費用や習熟のための時間は「BIMによる効率アップの効果で十分回収できる」そうだ。

ARCHICADにも次々と新機能が追加されている。最新のARCHICAD 22では左右色の違うメガネを使って立体視ができる「ステレオレンダリング」、360度の全周ビューを作れる「スフィリカルカメラ」などが使える。BIMxというARCHICADで作られた仮想の建物内を歩き回れるウォークスルーのツールも進化し続けている。このような新しい技術でインテリアデザインのプレゼンテーションもこれから変わっていくだろう。

これからの時代、インテリアデザイナーも、カラー展開図ぐらいで「自分のデザインを表現した」と満足してはいられない。クライアントに、そして施工者にデザインをリアルに表現し伝えることが求められている。

ARCHICAD 22のスフィリカルカメラを使ったレンダリング設定

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