2024年 3月19日公開

トラブル解決! 情シスの現場

Azure OpenAI Serviceの「立ち位置」理解と、使える場面

著者:一之瀬 隼(いちのせ しゅん)

「業務の効率化や品質向上を進めたいけど、取り組む工数も委託先もない……」人手不足が続いている企業では、このような課題が生じやすくなっています。

そこで活用したいのが、生成AI技術を活用した「Azure OpenAI Service」です。Azure OpenAI Serviceはどのような業務に活用でき、どのような流れで導入すればいいのかなどを詳しく解説します。

Azure OpenAI Serviceとは

Azure OpenAI Serviceとは、Microsoftが提供しているクラウドサービス「Microsoft Azure」(以下、Azure)上で、OpenAIが開発したChatGPTなどの生成AIモデルを利用できるサービスです。Azure OpenAI Serviceを利用することで、生成AIモデルをそのまま利用するよりも高い機密性を確保できるため、機密情報を扱う企業や官公庁からも注目を集めています。

高い機密性を確保できるのは、情報の共有範囲を「テナント」ごとに管理できるからです。この「テナント」とは、ユーザーや利用するアプリケーションをグループ化し、境界線で閉じたもので、Azureという大きな建物の中に入るテナント(店舗)をイメージするとわかりやすいでしょう。

Azure OpenAI ServiceはOpenAI APIと比較して、使用できるモデルの種類や機能が限定されています。最新モデルが必要な場合にはOpenAI API、高い機密性が必要な場合にはAzure OpenAI Serviceを使うなど、目的や用途に応じて使い分けるとよいでしょう。

2024年1月時点で、Azure OpenAI Serviceで利用できるOpenAIのモデルは以下です。利用できるモデルの種類や期間は時期によって異なりますので、Microsoftの公式情報をご確認ください。

  • GPT-4
  • GPT-3.5
  • 埋め込み
  • DALL-E(プレビュー)
  • Whisper(プレビュー)

Azure OpenAI Serviceによって可能になること

Azure OpenAI Serviceは、誰かのサポートを得にくいような状況を解決してくれるサービスともいえます。Azure OpenAI Serviceの具体的な活用事例を紹介します。

コンテンツ生成

例えば、社内外からの問い合わせ対応に従事している場合、問い合わせを受け付けることに時間がかかってしまい、問い合わせの回答を作成する時間がない場合があります。このときにAzure OpenAI Serviceを使えば、問い合わせに対する個別の回答案を自動生成することが可能です。

またAzure OpenAI Serviceは、テキストだけでなく画像データも自動で生成できます。問い合わせ先の理解の助けとなるようなイメージ図・概念図を追加して提供することで、必要な情報をスムーズに伝えられるでしょう。

テキストの要約

議事録の作成は、多くの従業員を悩ませる業務の一つです。しかしAzure OpenAI Serviceを活用すれば、会議中の会話ログから会議のポイントを要約し、議事録の作成にかかる時間を大幅に短縮できます。

他にも、上司や同僚への情報共有のために長いテキスト情報を要約する場合や、論文やレポートの要点だけを確認したい場合にも、Azure OpenAI Serviceによるテキスト要約を活用することで確認までの時間を大幅に削減できます。

自然言語からコード生成

「Excelマクロを使えば業務効率化できるとわかっているけど、プログラミングコードを書く技術がなくてなかなか手を出せない」という場合、Azure OpenAI Serviceを用いてコードを生成することができます。

その方法は、私たちがコミュニケーションを取っている「自然言語」を使って、マクロで実現したいことをAzure OpenAI Serviceに伝えるだけです。また、すでに作られたコードの内容を理解できない場合にも、Azure OpenAI Serviceに質問すれば自然言語で表現してくれ、その内容を理解しやすくなります。

インサイトの抽出

Azure OpenAI Serviceを活用することで、テキストや画像データからインサイト(洞察や気づき)の抽出が可能です。

インサイト抽出の材料としては、アンケート調査の結果やSNS、カスタマーサポートの記録などのテキストデータや画像データが活用できます。抽出したインサイトを活用し、商品開発やマーケティング戦略の立案も進められるでしょう。

テキストの校正、編集の提案

社内外に提出するテキストの精度を向上させたいなら、Azure OpenAI Serviceで作成したテキストをチェックしてみましょう。自動で校正や編集の提案をしてくれるので、自身でテキストを確認する時間を削減できます。

Azure OpenAI Serviceを社内システムに組み込む流れ

Azureを利用している企業の場合、Azure OpenAI Serviceを簡単に使い始めることが可能です。Azureに対してAzure OpenAI Serviceを組み込む流れを紹介します。

1.Azure OpenAI Serviceへのアクセス申請

Microsoftは「責任あるAI」へのコミットメントを考慮して、Azure OpenAI Serviceへのアクセスを制限しています。アクセス申請フォームに必要な情報を入力し、申請を行いましょう。

2.利用するGPTモデルを選択、利用申請

Azure OpenAI ServiceでGPT-4モデルを使用したい場合には、専用のフォームから利用申請が必要です。今後も、新たに追加される言語モデルに対しては利用申請が必要になる可能性があります。公式サイトの情報を確認して、必要な利用申請を行ってください。

3.リソースの作成と言語モデルのデプロイ

アクセス申請が完了したら、Azureポータルにログインし、Azure OpenAIリソースを作成します。実際にServiceを利用するためには言語モデルのデプロイ(実行ファイルをサーバー上に配置して、利用できる状態にする)が必要なため、使用したいモデルを選択し、新しくデプロイを作成します。

4.トレーニングデータと検証データを用意

より精度の高い結果を得るためには、言語モデルの微調整(ファインチューニング)が必要です。そこで、微調整に必要なトレーニングデータと検証データを用意します。

5.カスタマイズモデルのトレーニング実施

Azure OpenAI Studioからカスタマイズモデルを作成します。ベースとなる言語モデルを選択しトレーニングデータをアップロードして、カスタマイズモデルのトレーニングを行います。

6.パフォーマンスの分析

言語モデルのカスタマイズが完了したら、実際に利用してパフォーマンスの分析を行います。必要に応じて検証データを利用することで、さらなる精度向上も期待できます。

Azure OpenAI Serviceを社内システムに組み込む際に必要な視点

Azure OpenAI Serviceを社内システムに組み込んでいく際は、どのような点を考慮する必要があるのでしょうか。組み込み時に必要な視点を紹介します。

あくまでも「Azureのサポート」として考える

Azure OpenAI Serviceはあくまで「Azureでの作業をサポートするためのシステム」という位置づけだと捉えられています。現時点でAzureを導入していない場合には、Copilot for Microsoft 365や、Amazon Web Serviceが提供するAmazon CodeWhisperer などの類似サービスを活用するとよいでしょう。

どんなデータを学習させるか検討する

カスタマイズモデルに対するトレーニングデータを準備する際には、用途に合ったデータのみを抽出し、学習に不要なデータは削除する必要があります。不要なデータで学習させてしまうと、回答の精度が悪くなるリスクが生じるからです。

抜け漏れなく十分なデータを用意する「データセットの被覆性」や、状況別のデータを均一にする「データセットの均一性」を考慮しながら、必要なデータをそろえましょう。

利用開始後も適宜調整する

Azure OpenAI Serviceのカスタマイズモデルは、利用後にも調整する必要があります。実務に活用して分かった課題に対して、学習データや利用者の規模などを調整し、継続して最適化していきましょう。

まとめ

Azureの機能を拡張し、従業員の仕事をサポートしてくれるAzure OpenAI Service。情報の共有範囲をテナント内に限定できるため、OpenAI APIを活用するよりも高い機密性を確保できる点が大きなメリットです。

すでにAzureを利用している企業ならスムーズに導入できるため、積極的に利用するといいでしょう。すでに導入を検討していたり、導入時の流れに疑問が生じていたりする場合には、多数の支援経験と実績のある大塚商会までご相談ください。

著者紹介:一之瀬 隼

製造業でエンジニアとして働くライター。専門はロボット、自動車、標準化、業務効率化など。実際に企業で働いているからこそわかる「温度感」を大切に執筆している。

関連情報