ワークフローを利用している企業はどれくらい?
ワークフローとは、社内運営や業務に必要な申請・承認や稟議手続きなどをデジタル化するシステムのことです。会社によっては「電子決裁システム」などと呼んでいることもあります。
日本企業で以前から運用されていたのは、紙の稟議書や申請書を、担当者から上席まで順番に回覧、押印するような仕組みでした。しかし、リモートワークが普及して全員が毎日出社するわけではなくなったこと、スピーディーに業務を遂行するニーズが高まったことなどから、システム上で手続きを進められるワークフローが導入されるようになったのです。
複数の民間調査の結果を確認すると、ワークフローの導入率は60〜70%程度と比較的高めです。また、ワークフローの導入にメリットを感じている人も80%程度と多く、好意的に受け止められていることがわかります。
しかし一方で、ワークフローを活用し切れていないと感じている企業も少なくありません。その理由としては「実際にはシステムではなく紙の申請書が利用されているから」などが挙げられ、従来のやり方からワークフローにうまく移行できていない現状があるようです。
ワークフロー導入後にトラブル発生! その原因は?
ワークフローの運営がうまくいかない理由はどこにあるのでしょうか。よくある課題と、その原因を説明します。
「やっぱり紙がよい!」という社内の声が大きく、ワークフローが定着しにくい
紙を使う文化は日本企業にしっかりと根付いているため、システム化やペーパーレス化になかなか対応できないケースが多々あります。ワークフローもその例外ではなく、紙での運営に慣れている現状が、ワークフローの定着を妨げているようです。
ワークフローの設定が実態に合っておらず、従業員が使いにくい
ワークフローを利用する前には、従業員が入力する申請フォームを作成したり、書類のパターンごとに承認経路を作ったりと、さまざまな事柄を設定します。このときに複雑にしすぎてしまったり、実際の運用とはかけ離れた設定にしてしまったりすると、従業員が利用した際に支障が出やすくなるのです。
また近年は、文書管理システムや電子契約システムなど、すでにさまざまなシステムが社内で導入されていることもよくあります。これらワークフローに近いシステム同士が連携していないと、何かと不便です。それぞれのシステムで似たような手続きを行う必要があれば、余計に業務負担が増えてしまうことにもなりかねないからです。
さらに企業によっては、ワークフローの設定権限が情シスに一任されていて、各部署から「ワークフローをこう変更してほしい」という要望が上がってくるために情シスの手が回らなくなる、といったトラブルも発生しがちです。ワークフローの運営を社外の業務委託先に任せている場合は、スピーディーな変更対応が難しいという課題もあります。
従業員へのレクチャーが不足していて、ワークフローに慣れてくれない
ワークフローシステムを導入したとき、すぐに操作に慣れる人もいれば、なかなか操作を覚えられない人もいるでしょう。こうしたITリテラシーの差に配慮せず、全従業員に画一的なレクチャーをしてしまうと、ITに不慣れな役員や従業員がワークフローを使ってくれず、システムの形骸化につながります。利用マニュアルを常設しておくだけでなく、個別にフォローするような施策も重要です。
ワークフロー導入後のトラブルを解決する方法
せっかく導入したワークフローを活用するためにも、次のような解決策を講じてみてはいかがでしょうか。
従業員がワークフローを使ってくれない場合
紙文化が根強く、なかなか従業員がワークフローを使ってくれない場合は、丁寧なフォローを実施すると効果的です。ワークフローを利用するメリットや、「実際にこれだけの業務時間を削減できた!」などの社内事例を共有して、従業員が自分からワークフローを使いたくなるような取り組みを実施してみましょう。
情シスだけで取り組むのが難しい場合、総務部門などの周辺部署を巻き込むことも、施策を成功させるポイントのひとつです。
ワークフロー運用時のミスが多い場合
従業員がワークフローを活用しているものの何らかのミスが多い場合には、申請フォームの作り方や承認経路などの設定が適切でないのかもしれません。早急に各部分の設定を見直してみましょう。
このとき、日頃から利用している従業員の声を広く集め、利用しやすい設定に改善することが何より重要です。また、そもそもミスを発生させない「仕組み化」も大事になります。もしワークフローの運営を外注しているなら、その機能を社内に戻してもよいかもしれません。
ワークフローが円滑に運用されない場合
「ある上司がワークフローをなかなか承認してくれない」など、特定の従業員が原因で円滑に運営されないケースもあります。この場合は、その従業員に直接もしくは間接的に働きかける必要があります。情シスの手に負えないときは、その部門長などに相談してみてください。
なお、人気のあるワークフローシステムは通常、多数の導入先企業の業務分析を経て一般的かつ効率的なフローが実現できるように仕組み化されています。そのため、従来の業務の流れがワークフローに合わないと嘆くのではなく、現在の業務のやり方をワークフローに合わせていくような姿勢も必要です。こうした姿勢・意識の変革は、経営層からトップダウンで促していくと効果的な場合も多いので、情シスだけで解決しようとせず、経営層など多くの人を巻き込むとよいでしょう。
ワークフローとその他ツールの連携に失敗している場合
文書管理システムや電子契約システムなど、ワークフロー周辺のツールをうまく連携できていない場合には、その接合部分をいま一度見直して原因を特定します。そして効果的な連携が難しい場合には、ワークフローやその他のツールを別のものに変更することも必要かもしれません。あらゆる可能性を模索してみてください。
まとめ
社内の業務効率化をかなえるワークフローは、導入したもののあまり活用されていないケースもあります。しかしせっかく導入したのなら、本来の目標を達成できるよう改善することが大切です。今ある課題やトラブルを把握し、必要に応じて関連部署の手を借りながら、解決へと導きましょう。
著者紹介:金指 歩
ライター・編集者。新卒で信託銀行に入社し営業担当者として勤務したのち、不動産会社や証券会社、ITベンチャーを経て独立。金融やビジネス、人材系の取材記事やコラム記事を制作している。