増え続けるSaaSのアカウント。その弊害は?
近年、SaaSなどのクラウド系サブスクリプション型サービスの利用が急増しています。2024年5月に実施された某IT企業の調査によれば、有償SaaSを利用している企業は66%に上り、2年前と比較してSaaS利用数が増加した企業は全体の80%に達したという結果が出ています。
SaaSの導入により、社内業務の効率化や生産性向上など、さまざまなメリットが期待できます。しかし一方で、アカウント管理に関する問題やリスクも浮き彫りになっています。導入するSaaSが増えることで、アカウント管理に関してどのようなトラブルが起こり得るのか、具体例を挙げて解説します。
あちこちに潜むリスク。セキュリティトラブルの増加
SaaSアカウントの増加に伴い、最も懸念されるのがセキュリティトラブルです。SaaSは常にネットワークに接続して使用する必要があり、サービスごとにセキュリティレベルが異なるため、リスクが比較的高くなりがちです。
アカウント数が増加すると、従業員のどの端末からマルウェア感染や情報漏洩が発生するか予測が難しくなります。こうした状況が拡大することで、セキュリティトラブルがさらに深刻化してしまいます。
特に、退職者アカウントの削除漏れや利用停止したSaaSのデータが放置されるケースは、不正利用や情報漏洩の原因となりやすく、こうしたリスクを防ぐためには、細部にまで注意を払った適切な管理が求められます。
SaaSアカウントの管理負担の増加
例えば社員100名の企業で、あるSaaSのアカウントを全員分作成すると、これだけでも管理負担は大きいですが、その後も次々と新しいSaaSを導入していった場合、管理するアカウントは200、300と増え続け、アカウント管理の負担も日々増大していきます。
この管理工数が増えた影響を最も受けるのが情シスです。管理手法を早期に見直し確立しなければ、業務負荷は増す一方です。
使っていないアカウントの料金を払い続ける問題
従業員の入退社に伴い、SaaSアカウントの追加や削除を適切に行う必要があります。しかし、社内各部署から正確な入退社情報が共有されなかったり、対応漏れが発生したりすると、誰も使用していないアカウントの料金を払い続ける事態に陥ることがあります。
これらのコストは完全に無駄であり、早期に発見してアカウントを停止・解約することが不可欠です。
SaaSの機能やサービス内容が重複し、コストの無駄が発生
複数のコミュニケーションツールやタスク管理ツールを併用している場合、複数のSaaS間で機能やサービス内容が重複し、コストの無駄が発生するケースがあります。また金銭面だけでなく、従業員の混乱や業務負担の増加といった人的リソースの無駄遣いも発生しているかもしれません。
このような状況を避けるためには、SaaSの管理体制を強化し、効率よく運用する仕組みが求められます。
複数のSaaSやそのアカウントを適切に管理する方法
複数のSaaSアカウントを適切に管理するためには、どのような方法が効果的でしょうか。ここでは主な手法を三つ紹介します。
使用しているSaaSやそのアカウント情報を一覧にする
最も基本的な方法は、使用しているSaaSやアカウントの情報をExcelやGoogleスプレッドシートで一覧化することです。この手法はすでに取り組んでいる情シスも多いのではないでしょうか。
どのSaaSを誰が利用しているのか、料金や利用期間の取り決めはどうなっているのかといった情報を一覧にして見える化することで、SaaSアカウントを効率的に管理できます。
ただし、データの更新作業を手動で行う必要があるため、情報の漏れや反映遅れが発生しやすい点や、SaaSアカウントの更新期限が近づいても気づかない可能性がある点などがデメリットです。これらの点を補う対策も合わせて検討する必要があります。
2段階認証やシングルサインオンなどを導入し、セキュリティ面を強化
SaaSアカウントの管理において、セキュリティを強化することは非常に重要です。具体的には、以下のような対策が考えられます。
- 現在のセキュリティレベルを確認する「セキュリティ診断」の実施
- ログイン時に追加の認証ステップを設ける「2段階認証」の導入
- 一つの認証情報で複数のSaaSにログインできる「シングルサインオン」の利用
ただし、SaaSごとにセキュリティ対策を個別に実施すると、導入しているSaaSの数に比例して工数が増え、情シスの業務が圧迫される可能性があります。
SaaS管理ツールを導入する
SaaSアカウントを効率よく管理するには、「SaaS管理ツール」を導入することも有効です。この管理ツールを利用することで以下のようなメリットがあります。
- SaaSやそのアカウント情報を自動で一覧化・「見える化」できる
- 入退社に伴うアカウントの追加・削除を効率的に行える
- 利用状況やコストを最適化できる
一方で、ツールの導入にはコストと手間がかかるというデメリットもあります。導入の際はそれらのデメリットと、SaaS管理ツールによる業務効率化や最適化によるメリットとをてんびんにかけて比較検討するとよいでしょう。
SaaS管理ツールの選び方
今後利用するSaaSがさらに増え続けた場合、増加に比例して、管理工数やセキュリティリスクも拡大していきます。そのため、早めにSaaS管理ツールの導入を検討することは有効な手段の一つです。
ツールを選ぶ際は、以下の観点を参考にするとよいでしょう。
導入する目的から選ぶ
SaaS管理ツールには、大きく分けて「SaaS利用状況の管理・把握」に強みを持つタイプと、「セキュリティ対策」に強みを持つタイプがあります。自社がそのどちらを優先するのかを明確にし、目的にあったツールを選びましょう。
対応している機能から選ぶ
SaaS管理ツールの機能は、そのツールによって多様です。そこで「アカウント情報を一覧化して効率的に管理したい」「シングルサインオンを導入したい」「使われていないアカウントを検出し、コスト管理したい」など、自社のニーズを明確にすることが重要です。その上で、それに対応した機能を備えているツールを導入しましょう。
導入コストから選ぶ
SaaS管理ツールの導入費用や運用コストも、それぞれ違いがあります。複数のツールを比較・検討して相見積りをとり、自社に合ったコストパフォーマンスの高いツールを選ぶとよいでしょう。
大塚商会の「OTSUKA GATE」で、ID・パスワードの一括管理とセキュリティ強化を実現
大塚商会では、大塚商会契約のクラウドサービスのみならず、他社契約クラウドサービスとのSSO連携、ID・パスワードの一括管理とセキュリティ強化を可能にする「OTSUKA GATE」を提供しています。
「OTSUKA GATE」を利用すれば、SaaSアカウントの管理だけでなく、シングルサインオンの導入やワンタイムパスワードでの認証、公共ネットワークからのアクセス制限といった高度なセキュリティ対策を実現し、セキュアなシステム運用が可能になります。
また、充実した導入サポートにより、ツールをスムーズに導入できる点も大きな特徴です。一つの候補として、検討してはいかがでしょうか。
まとめ
企業で複数のSaaSを利用している場合、適切なアカウント管理は非常に重要です。アカウント管理が不十分だと、セキュリティトラブルや無駄なコストの発生など、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。自社に合った管理方法を見つけ、適切なSaaSアカウント管理を実現しましょう。
特に「SaaS管理ツールの導入」は、長期的なコスト削減や業務効率化に大きく貢献します。SaaSの管理を見直す際には、ぜひ導入を検討してみてください。
著者紹介:金指 歩
ライター・編集者。新卒で信託銀行に入社し営業担当者として勤務したのち、不動産会社や証券会社、ITベンチャーを経て独立。金融やビジネス、人材系の取材記事やコラム記事を制作している。