身元保証書とその必要性
企業が採用内定後に、内定者に対して会社の就業規則等に従って誠実に勤務することを誓う「誓約書」を提出させることがありますが、それに加えて両親や親戚、縁故者等を身元保証人とした「身元保証書」を提出させる慣行のある企業も多く見受けられます。両者の違いは、誓約書が内定者本人の提出する書面であるのに対して、身元保証書は企業と身元保証人との間で結ばれる契約を定めた書面であることです。
身元保証書には、通常二つの内容が記載されています。一つは内定者に対して入社後に就業規則等に従い誠実に勤務させるよう保証することで、もう一つは内定者が入社後に企業に対して損害を与えたときは、本人に連帯してその損害を賠償することを保証することです。
近年は家族関係や親類関係の変化により、この身元保証人が見つからないというケースも増えてきています。そのため、身元保証人を求めない企業も増え始めていたのですが、SNS等のインターネットを通じた情報漏えいや悪ふざけを行う労働者が目立つようになり、その対策として身元保証書を提出させることの必要性があらためて見直されている面もあります。
身元保証法のポイント
このように身元保証人は重い責任を負うことから、「身元保証ニ関スル法律」(以下「身元保証法」といいます)によって身元保証契約に関する規制がなされています。身元保証契約とは、使用者と労働者の身元保証人との間で結ばれる、労働者本人の行為によって使用者が将来損害を被った場合に、身元保証人がその損害を賠償することを約する契約です(身元保証法第1条)。
身元保証法の定める身元保証契約の主なポイントは以下の通りです。
契約期間 | 期間を定めなかったときは原則として3年間(身元保証法第1条本文) 期間を定める場合は最長5年間(身元保証法第2条第1項) |
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更新 | 更新する場合も最長5年間が限度(身元保証法第2条第2項) 自動更新は無効(裁判例) |
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通知義務 | 次の場合、使用者は身元保証人に通知義務あり(身元保証法第3条) (1)労働者に不誠実・不適格な事由が生じた場合 (2)労働者の任務または任地の変更により、身元保証人の責任が加重される場合または監督が困難になる場合 |
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契約解除 | 身元保証人が労働者の不誠実・不適格事由の通知を受けた場合または身元保証人自らそれらの事由を知った場合は契約解除が可能(身元保証法第4条) |
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契約期間について身元保証書に明記しないと3年間となりますので、5年間の身元保証を確保したい場合はその旨の明記を忘れないようにしてください。更新や再更新は可能ですが、それぞれの契約期間も5年間が限度となります。「自動更新条項を設ければ良いのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、自動更新の特約を無効とする裁判例もあります。身元保証法が身元保証人の保護を目的とした法律である趣旨を考えると、自動更新条項は設けず、更新の機会ごとに身元保証人の意思を確認する書面を取り交わすべきでしょう。
また、身元保証法は身元保証人の保護を徹底するため、身元保証法の定めに反する特約を全て無効としていることにも注意が必要です(身元保証法第6条)。
「極度額」の定めとは?
以上の主なポイントに加えて、身元保証契約には「極度額」の定めを設けないと、その効力を生じないことに注意が必要です。これは、2020年4月1日施行の改正民法で「個人根保証契約の保証人の責任等」の改正がなされたことによるものです。