2024年12月24日公開

社会保険労務士コラム

「賃金のデジタル払い」とは? 導入するための基礎知識を解説

著者:有馬 美帆(ありま みほ)

賃金のデジタル払い導入のために必要なポイントを分かりやすく解説します。

2023年に「解禁」された賃金のデジタル払いが、2024年になって利用可能となりました。今後普及が見込まれる賃金のデジタル払いについて、その基礎知識や導入のために必要なポイントについて分かりやすく解説します。

賃金支払いの5原則とは?

労働基準法(以下「労基法」とします)において「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他の名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのものを意味します(労基法第11条)。

さらに労基法は、この賃金について「賃金支払いの5原則」を定めています(労基法第24条)。

賃金支払いの5原則(労基法第24条)

(1)通貨払いの原則

(2)直接払いの原則

(3)全額払いの原則

(4)毎月一回以上払いの原則

(5)一定期日払いの原則

  • ※(4)と(5)をあわせて「毎月一回以上一定期日払いの原則」として、全部で4原則と呼ばれることもあります。

このうちの(1)通貨払いの原則により、通貨以外の小切手や現物支給などによる賃金支払いは原則として認められていません。ただし、例外として、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合や厚生労働省令で定めるものによる場合は、通貨以外のもので支払うことができます(労基法第24条第1項ただし書き)。

現在では当たり前のように思える賃金の口座振込も、実は例外の一つなのです。そもそも通貨払いの原則に抵触するのではないかという議論がありつつも、1970年代から行政解釈で認められてはいました。その後、1987年に労基法と厚生労働省令である労働基準法施行規則(以下「労基則」とします)が改正されたことによって、労働者の同意を得ることを条件に、指定された銀行口座等へ振り込みすることが法令上認められた(労基則第7条の2第1項)という経緯があります。

賃金のデジタル払いとは?

21世紀になると各種のデジタルマネー(紙幣や硬貨のような実体を持たないデジタルデータとしての決済手段)が登場しました。スマートフォン決済アプリや電子マネーなど(厚生労働省が用いる例としては「●●Pay」などと表記されています)のキャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化とともに、企業側は「デジタルマネーで賃金を支払えないのか」、労働者からは「デジタルマネーで賃金を受け取りたい」というような、デジタル払いを求める声が上がるようになりました。

そのため、労基則の改正により2023年4月1日から「資金移動業者の口座への賃金支払い」(以下「賃金のデジタル払い」とします)が可能となりました。労働者の同意を得ることを条件として、賃金の支払い方法として追加されたのです。各種メディアでも、賃金のデジタル払い「解禁」と大きく報じられましたが、実際に利用できるようになるまでにはさらに1年半近くの時間がかかりました。その理由は、「●●Pay」などを運営する資金移動業者の用意する手段が適正か否か、さらには破綻した場合の保証制度が整備されているか否かなどを、労働者保護のために厳格に審査する必要があったからです。