2025年11月25日公開

社会保険労務士コラム

「無期転換ルール」の基礎知識

著者:有馬 美帆(ありま みほ)

労働者が有期労働契約を、無期労働契約に転換することが可能となる「無期転換ルール」について、有期労働契約と無期労働契約の違いを踏まえた上で、無期転換ルールの適用要件や、無期転換後の労働条件、無期転換と労働条件明示ルールなどを詳しく、分かりやすく解説します。

有期労働契約と無期労働契約の違い

企業の経営者や人事労務担当者の方々にとって、有期労働契約に関する更新は、労務管理にまつわる事項の中でもとりわけ重要な事項の一つです。今回は、労働契約法(以下「労契法」)の定めにより、労働者が有期労働契約を、無期労働契約に転換すること(以下「無期転換」)が可能となる「無期転換ルール」について解説します。

無期転換ルールの説明に入る前に、有期労働契約と無期労働契約の違いについて説明しておきます。有期労働契約とは、「期間の定めのある労働契約」のことをいいます。労働基準法(以下「労基法」)では、有期労働契約は一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(専門的な知識、技術または経験を有する労働者および満60歳以上の労働者との場合は5年)を超えて締結できません(労基法第14条第1項)。なお、「一定の事業の完了に必要な期間」とは、ビル工事などのように事業の完了の期間が明確なものをいいます。対して、無期労働契約とは「期間の定めのない労働契約」をいいます。

契約社員、パートタイマー、アルバイトなど呼び名はさまざまですが、期間の定めのある労働契約に基づいて働いていれば、有期契約労働者です。それに対して、期間の定めのない労働契約に基づいて働いている場合は、無期契約労働者です。いわゆる「正社員」は無期契約労働者なのですが、無期契約労働者だからといって、必ずしも正社員というわけではないという点には注意を要します。

無期労働契約期間の定めのない労働契約正社員正規雇用
無期契約社員・無期パートタイマー・無期アルバイトなど非正規雇用
有期労働契約期間の定めのある労働契約有期契約社員・有期パートタイマー・有期アルバイトなど

正社員(正規雇用者)とは、一般的に、(1)企業と無期労働契約を締結していること、(2)フルタイム雇用(所定労働時間が1日8時間、1週40時間程度)であること、(3)企業に直接雇用されていることという要件を満たした、長期にわたって企業の中核的な役割を担う人材のこととされます。無期契約労働者であっても、企業の中核的な人材でない場合は、正社員(正規雇用者)ではなく、非正規雇用者に含まれることになります。

「無期転換ルール」とは?

無期転換ルールとは、同一の使用者(企業など)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合に、有期契約労働者からの申し込みにより、労働契約が無期労働契約に転換されるルールのことをいいます(労契法第18条)。2013年(平成25年)4月1日から施行された改正労契法で導入されました。

この改正の背景には、非正規雇用者の雇用の安定化を図るという目的があります。非正規雇用者とは、正社員(正規雇用者)以外で使用者に雇用されている労働者をいいます。中でも有期契約労働者は、次の契約更新時に引き続いて契約をしてもらえるかどうかが不安定な立場であるため、どうしてもさまざまな面で職場に対して要望や苦情を言い出しにくい面がありました。そこで、一定の期間を超えて契約を更新された場合には、無期契約の申し込みをできるようにすることで、保護を図ったのです。

この一定の期間として「5年」という期間が設定されたのは、当時の非正規雇用者の3割が通算5年を超えて働き続けているというデータがあったことによります。通算5年を超えて企業に必要とされるような人材ならば、雇用の安定化による保護の必要性が高いことに加えて、有期労働契約の濫用的な利用の抑制を図るというのが、無期転換ルールが導入された趣旨になります。

有期契約労働者が、無期転換の申し込みをした場合、使用者は拒否することができず、無期契約労働者となります。これが無期転換ルールの最大のポイントです。

「無期転換ルール」適用の要件

「無期転換ルール」適用の要件は次の表の通りです(労契法第18条第1項)。

 要件効果
(1)同一の使用者のもとで、更新等により、2つ以上の有期労働契約の通算期間が5年を超えること無期転換申込権の取得
(2)使用者に対し、有期契約労働者が無期転換の申込みをすること
  1. 無期転換の発生
  2. 使用者が無期転換を拒否することはできない
  3. 申し込んだ労働契約の終了の翌日から無期転換

(1)は有期契約労働者が無期転換申込権を取得するための要件です。まず、「同一の使用者」のもとで有期契約労働者として働いていなければなりません。この要件を満たす全ての有期契約労働者が対象で、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称のいかんは問いません。次に、「2つ以上の有期労働契約」が存在することが必要です。そして、それらの有期労働契約の「通算期間が5年を超える」ことが要件となります。「5年を超える」というのが重要なポイントになります。