2024年 1月23日公開

トラブル解決! 情シスの現場

「エラーが発生しました」……対応できる人は定年退職!? ブラックボックス化問題と対策

著者:金指 歩(かなさし あゆみ)

社内から「システムエラーが起きたんだけれど……」と問い合わせがあっても、そのシステムに詳しい従業員がすでに退社していて対応方法がわからない! なんてことはありませんか? 特に、既存のシステムがすでに古くなっている企業は要注意かもしれません。

この記事では、社内システムがレガシー化、ブラックボックス化している場合のリスクや、今後訪れる「2025年の崖」、そしてリスクへの対処方法について解説します。ぜひ業務の参考にしてください。

対応できる人がいない!? ブラックボックス化のリスク

数十年前から導入しているオンプレミスのシステムをいまだに使っている企業は、少なくありません。例えば、かつて流行した「メインフレーム(汎用コンピューター)」をベースとした基幹システムや、過去のバージョンのUNIX、Linux、Windowsなどで構築された比較的古いシステムを、部分改良を繰り返しながら使用し続けている企業もあるでしょう。

システムの大規模な改修やマイグレーション(既存システムの内容はそのままに、クラウドへ置き換えること)には相応の時間と費用がかかるため、「今のままでも使えるし、新しいシステムを入れると慣れるまでが大変だから……」と、つい改良を先延ばしにしがちです。

しかし、当時システムを開発・導入した従業員がすでに退職していたら、そのシステムはたちまちブラックボックスと化します。その結果、社内から寄せられる簡単な質問にすら対応できなくなるかもしれません。

システムが老朽化し、ブラックボックス化する主なリスクは、以下のとおりです。

業務に支障を来す

長年利用し続けているシステムは、定期的にシステムエラーが起こりがちです。「再起動すれば直るから……」とそのままにしておくと、エラーの頻度が上がり、通常業務に支障を来す可能性が高まります。

例えば、日々の受発注に使用しているシステムにエラーが起き、一定時間だけ電話やFAXで発注を受けたとします。システムが復旧してから複数の発注内容を手入力した際、その価格や数量を間違えてしまったら……? おそらく大きなトラブルにつながるでしょう。小さなシステムエラーでも、結果として業務に大きな影響を及ぼしかねないのです。

業務の属人化を招く

古いシステムを長く使っていると、そのシステムを理解している従業員がどんどん減り、業務の属人化を招きます。すると、特定の従業員に仕事が集中し、その従業員が休職・退職した際にはシステムに関する問題解決が難しくなり、業務にも悪影響が出る可能性があります。

従業員の不正を誘発する可能性がある

長期にわたって使っているシステムは、セキュリティ面が脆弱なことがあります。例えば、システム内に保管されている顧客の個人情報が持ち出し禁止になっている場合でも、システムが古いために外部メモリーの種類を検知できなかったらどうなるでしょうか。悪意のある従業員が私用のUSBメモリーをPCに差して、情報を抜き取ってしまうかもしれません。

このようにシステムが古いために、何らかの“抜け道”ができてしまうと、それを悪用する出来事が起こる可能性があります。その結果、企業が業界団体から処罰を受ける可能性もあるため、注意が必要です。

従業員の生産性やモチベーションが低下する

近年の新入社員は皆、学生時代からITリテラシーが高く、クラウドやオンライン環境に慣れています。また社内には、先進技術に興味がある従業員もいるでしょう。こうした従業員ほど、従前のレガシーシステムやそれを変えようとしない旧体質の社風を嫌う可能性があります。そしてそれが生産性や働くモチベーションの低下を招いてしまうかもしれません。

知っておきたい「2025年の崖」

レガシーシステムに関しては、これから「2025年の崖」が来るといわれています。ITシステムのレガシー化を発端に、2025年以降、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるのです。この「2025年の崖」の具体的な課題について説明します。

既存ITシステムのレガシー化・老朽化

「2025年の崖」の引き金になるのが、既存のシステムが古くなることです。古くなったシステムが使われ続けることで、前述したようなトラブルが起きることだけが問題ではありません。現在のビジネスシーンではデータが多く活用されていますが、レガシーシステムでは事業や業務に関するデータ収集・連携が行いにくいもの。そのため、本来なら貴重なデータを広く生かせず、事業の衰退を招くリスクにつながります。

ハッキングなどサイバーリスクの増加

システムが古く老朽化すると、最新のサイバー攻撃に耐えられなくなる可能性が高まります。例えば、システムの脆弱性を取り除くためのセキュリティプログラムは適宜更新されていても、もしシステム本体のサポートが切れている場合にはプログラムが更新されません。そのため、システムが攻撃されたときに守る術がなくなってしまいます。

また、代表的なサイバー攻撃のひとつ「マルウェア」は、レガシーなOSや更新されていないソフトウェアを狙うといわれています。サイバー攻撃による損失を防ぐためにも、レガシーなシステムの刷新は不可欠です。

IT人材不足の深刻化

企業全体でレガシーなシステムを使い続けると、最新のシステムに対応できるようなIT人材がなかなか育ちません。また、外部からIT人材を採用する際に、レガシーなシステムに依存する社内環境が応募者の目に「難点」として映る可能性があります。レガシーシステムに起因するIT人材不足を解消するためにも、まずはシステムを見直すことから始めるとよいでしょう。

社会のデジタル化についていけず、経営状況が悪化

上記の課題に手を付けないと、企業が社会全体のデジタル化についていけなくなる可能性があります。社会変化に追随できなくなった結果、企業の業績が伸び悩み、経営状況が悪化する恐れもあるでしょう。今後、企業としての競争力を高めるためにも「2025年の崖」への対策は重要だといえます。

「2025年の崖」の前に、ブラックボックス化を解消する方法

レガシーシステムを刷新し、システムのブラックボックス化を解消するための取り組みは、実はハードルの高いものではありません。まずは社内における課題の確認から始め、次のような流れで進めていくとよいでしょう。

1.自社のデジタル化の状況を確認する

まずは今使っているシステムにはどのような問題があるのか、その課題確認からスタートします。どんなに小さなことでもよいので、社内から意見を集めてみましょう。

2.現在の業務上の課題を洗い出す

次に、社内における業務上の課題も洗い出します。業務上の課題には、デジタル化によって解決できることも少なくないからです。システムの刷新と同時にどんなことが解決されると業務が円滑になるのか、社内で考えてみてください。

3.どのようなシステムに刷新するべきかを検討する

課題が整理できたら、どのような機能や仕組みを持ったシステムを導入するのかを検討します。複数の候補を挙げ、相見積もりを取ったり候補のシステムを試用したりして、採用するシステムを決めていきましょう。ベンダーとの関係性の良さやサポート体制の充実度も、確認するべきポイントです。

4.システムのベストプラクティスに合わせ、業務内容を見直す

過去に使っていたオンプレミスのシステムは、システムを自社の業務に合わせてカスタマイズしていたと思います。しかし現在は、システムのベストプラクティスに合わせて業務を見直すほうが主流になっています。業務とシステムとが折り合わなかった際には、業務の改善点を探してみましょう。

5.経営者の下、デジタル化を進める

システムの刷新は、基幹システムなど多部門で使うものほど、経営層の協力を得ることで進行しやすくなります。システム導入が、企業業績や従業員の生産性を左右するような重要な事柄であることをアピールし、経営層を味方につけましょう。

まとめ

社内システムのレガシー化・老朽化を放置していると、業務の属人化を招くだけでなく、業務へ支障が出たり、従業員のモチベーションが低下したりと、さまざまな悪影響が出る可能性があります。日本企業全体としても「2025年の崖」が問題視されています。経営層や社内の従業員と連携し、早期にレガシーなシステムの刷新を進めてはいかがでしょうか。

著者紹介:金指 歩

ライター・編集者。新卒で信託銀行に入社し営業担当者として勤務したのち、不動産会社や証券会社、ITベンチャーを経て独立。金融やビジネス、人材系の取材記事やコラム記事を制作している。

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