2024年 6月18日公開

トラブル解決! 情シスの現場

クラウド化を強行したら小トラブル多発!? 対処方法と「やるべきだった準備」とは

著者:金指 歩(かなさし あゆみ)

近年、クラウド化の機運がますます高まっています。これまでオンプレミスのシステムを使っていた企業でも、社内の一部のシステムや基幹システムをクラウドへ移行させる動きがみられます。

しかし、会社の方針にのっとってクラウド化を強行したものの、現場では小さなトラブルが多発していることもあるようです。そのトラブルの内容や、本来やるべきだった準備とは何でしょうか。トラブル発生後の解決法と共に紹介します。

慣れないクラウドサービスを強行導入! その結果起きたトラブルとは

「社会変化の波に乗ってクラウドサービスを導入したら、さまざまなトラブルが起きてしまった!」という例は少なくありません。例えば、次のようなトラブルや問題が起きているようです。

クラウド上の情報が社外から「丸見え」の状態だった

クラウドストレージのサービスを導入したA社。従業員のパソコンやスマホに閲覧権限を付与すれば、従業員が社外からでもストレージ内の情報にアクセスできるようになりました。また、他社のユーザーに閲覧権限を渡せば、会社の垣根を越えて安全に情報を開示することもできるようになり好評でした。

しかしあるとき、取引先から「閲覧権限をもらっていないメンバーも、御社の情報を見られるみたいなんだけれど…」と連絡が! 慌てて確認したところ、閲覧権限の設定が漏れていて、そのURLを知っている人なら誰でも見られる状態でした。重要な情報が流出する前に発覚したのが唯一の救いです。

スモールスタートした結果、次々と他のサービスを導入するハメに

急ぎクラウド化を進めることになったB社。どこから手をつけたらよいのかがわからなかったため、ベンダーの「クラウドはスモールスタートが可能ですよ」という提案をうのみにして、まずは営業管理システムを導入しました。

すると、基幹システムの一部が営業管理システムとうまく連携できないことがわかり、基幹システムの一部を改修することに。さらに、管理会計システムは既存のままでは連携できず、追加でクラウド導入することになりました。こうして次々と新しいシステムを導入し、既存システムを改修した結果、クラウド化のコストが想定よりも大幅に増加してしまいました。

クラウドサービスの管理コストが案外高かった

月額費用が安い業務支援のクラウドサービスを導入したC社。見積時には、バックオフィスの一部メンバーにだけアカウントを付与する予定でした。しかし実際に運用を始めたところ、営業メンバーの一部もアカウントが必要になったり、繁忙期には他のバックオフィスのメンバーもそのシステムを使用することになったりと、想定外の追加コストがかかる結果に。

また、手厚いサポートを受けるためにはさらにオプション費用がかかり、結果として想定以上のランニングコストがかかってしまいました。

従業員からの問い合わせで情シスのリソースが埋まる

基幹システムをクラウド移行したD社では、クラウドの利用方法に関して従業員にレクチャーする時間がとれないまま、導入の日を迎えました。

すると導入直後から、情シス宛ての問い合わせが鳴りやみません。「システムが動かない」「情報が反映されない」など、小さなトラブルが多数寄せられ、この事態は導入から1カ月も続きました……。

社内の通信量が想像以上に増え、ネットが重くなる

会社の方針でクラウドの営業支援サービスを導入したE社。この機会に、対面営業に加えてオンラインツールを使った営業も推進することにしました。すると、たちまち社内から「ネットが重い」「オンラインツールが固まる」といった苦情が殺到するように。

その原因は、社内のインターネット使用量が大幅に増えたことです。会社で契約しているネット回線のプランを変更して対応しましたが、思わぬランニングコストが増える結果になりました。

クラウドサービス導入前に整理しておくべきこと

こうした小さなトラブルの発生を防止するために、クラウドの導入前から以下のような内容を整理しておくのがおすすめです。

企業運営や業務に必要なシステムを整理し、導入の順序を決めておく

クラウドサービスのメリットは、従来のオンプレミスのシステムよりも簡単に導入できることです。しかし無計画にクラウド導入を進めていくと、結果的にいくつものシステム同士を連携させることになり、無駄な手間やコストがかかってしまう可能性があります。

クラウド導入前には、企業の運営や業務に必要とされるシステムを洗い出し、それを包括できるようなシステムを導入するか、計画に沿って順にシステムを導入していくとよいでしょう。最初に“全体の設計図”を描くことが大切です。

必要な機能と費用感のバランスを考え、慎重にシステムを選ぶ

システムを選定する際は、実際の利用環境を想定しながら複数のベンダーで相見積もりをとります。その際にまず考えるのは、必要な機能を満たしているか、妥当な費用感かどうか、ということです。ハイスペックなシステムだとコストが高すぎたり、ローコストを優先したら機能面が不足したりすることもあります。機能と費用感のバランスを取るようにしましょう。

また、基本機能に加え、フォローサービスなどのオプション利用も想定しておくと、万が一オプションを追加した際にも想定内のコストで収まります。

従業員へのレクチャーを計画に落とし込んでおく

クラウドに慣れない企業がクラウド化を進める場合で重要なのが、従業員へのレクチャーに力を入れることです。特に、ベテランの従業員が多い環境では、新しいシステムを導入すること自体がレアケースです。従業員向けの分かりやすいマニュアルを用意し、研修の機会を用意して全員が参加できるようにするなど、レクチャーに時間をかけるとよいでしょう。

またシステム導入後も、システムの活用方法を定期的にメールで共有したり、イントラネットの見やすいエリアにマニュアルを掲示しておいたりと、従業員がいつでもアクセスできるようにするのがおすすめです。

ネット回線などシステム周辺の見直しを進める

クラウド導入にあたり、社内のネット回線や従業員のPCなど、システムに関連するものを一度見直しましょう。ネット回線が弱いようであれば、容量の大きなプランへと変更する必要があります。

また、従業員に貸与しているPCのスペックによっては、最新のクラウドサービスに対応していない可能性もあります。古いPCは動作効率も下がっているため、この機会にPCの買い替えを検討するのもよいでしょう。

クラウドサービス導入後のトラブル解決法

すでにクラウドに起因するトラブルが起きてしまった場合、どのように対応したらよいのでしょうか。主な解決法を説明します。

閲覧権限の設定などを情シスに集約する

クラウドサービスの利用で最も注意したいのは、情報の安全性です。クラウドは社外からアクセスしやすいからこそ情報漏洩が起きやすく、重要な事件に発展すると企業の信頼性を傷つけかねません。

そこで、「クラウドサービスのアクセス権限設定は情シスに集約する」など、安全なアクセス環境を確保し続けるためのルールを設定するとよいでしょう。このとき、情シスとシステムを利用する業務メンバーとの間でコミュニケーションをとり、合意の上でルールを設定すると、運営が始まってからトラブルが起きにくくなります。

入退社のアカウント管理などを厳密に行う

クラウドサービスで課題が生じやすいのは、従業員が入退社したときです。退社した従業員が退社後に社内システムにアクセスして情報を盗むなどのトラブルにつながらないよう、特に退社時のアカウント管理やPC管理は厳密に行いましょう。

必要に応じてチェックリストを作成しておくと、毎回の確認工程がスムーズになり、抜け漏れも防げます。

利用状況を定期的に確認し、適宜ルールを改訂する

従業員がクラウドサービスに対して「これは便利だ」「自分の業務が楽になる」などと感じるようになると、社内でクラウド利用が定着しやすくなります。逆に、不便なシステムはいつまでたっても社内に定着しません。

そこで、クラウドサービスの利用状況を定期的に確認し、従業員へのアンケート調査なども行って、クラウドサービスが適切かつ便利に使われているのかを確認しましょう。そして従業員が課題だと感じている部分は改善を検討し、適宜運用ルールを改訂していくのがおすすめです。

従業員へのレクチャーを定期的に実施する

クラウドサービスの利用方法や活用事例などは、クラウド導入後も積極的に情報共有していくのがおすすめです。一度伝達したからといって、従業員一人一人がきちんと情報をキャッチしているとは限りません。

またクラウドサービスは、世の中の技術的な進歩を反映して適宜バージョンアップされており、新機能が追加されることもあります。より便利になったことを社内に周知し、社内全体の業務効率を上げていきましょう。

まとめ

会社の方針で急きょクラウド化を進めると、思わぬトラブルが発生することがあります。まずは、後から問題が起きないように事前に準備すること、そしてトラブルが起きてしまった際には、適切な方法で早めに解決することが大切です。そして従業員が早くクラウドを活用できるよう、レクチャーや情報共有にもとり組んでいくとよいでしょう。

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