情シスの「社内ヘルプデスク業務」の問題点
情シスは日々、システム機器の初期設定や更新作業、社内アカウントの管理などさまざまな業務に対応しています。その中のひとつが、社内から寄せられたシステム関係の問い合わせに対応する社内ヘルプデスク業務です。この業務は時に大きな負担となり、情シスを心理的・工数的に苦しめることがあります。その背景にある主な問題点を整理しておきましょう。
不定期で質問が来るので、工数を確保しにくい
情シスは社内からの問い合わせを常時受け付け、順次回答するようにしています。しかし問い合わせに対する作業量は事前に予測しにくく、そのための工数を計画的に確保できないのが難点です。
簡単に答えられる問い合わせも比較的多いため、手が空いているときには負担になりにくいものの、質問が一時的に集中した場合には、急に作業量が増えて業務負荷が上がってしまいます。また、問い合わせにすぐ対応できないと、社内から「まだ分からないの?」といった催促が来てしまい、それに対応する手間も増えます。このように、多忙なときほど仕事が終わらないという悪循環に陥る点も厄介だと言えます。
同じような質問が多く、受ける側の心理的負担が大きい
社内からの問い合わせには、「ログインできなくなってしまったがどうすればいい?」「ファイルを誤って消してしまったが、復元できないか?」など、たびたび寄せられる定型的な質問があります。時には、同じ人から同じような質問が毎回挙がってくるケースもあるでしょう。
同じような質問に毎回答えていると、「それは前に答えたじゃないか……」など、受ける側の心理的な負担が増大し、社内ヘルプデスク業務をより重荷に感じることがあります。
業務がブラックボックス化しやすい
1人情シスの場合、システム関係の問い合わせに回答できるのが自分しかいないため、業務がブラックボックス化しやすくなります。何らかのタイミングで社内の情報システムに関するノウハウを共有化していかないと、余計に「1人情シスしか答えられないこと」が増えて業務が属人化し、自分の業務負荷も重くなっていくでしょう。
社内ヘルプデスクを卒業し、社内FAQを作るメリット
さまざまな問題のある社内ヘルプデスク業務を改善するためには、社内FAQの設置が検討できます。社内FAQとは、社内からたびたび寄せられる「よくある質問」を明文化し、質問と回答をセットにしてデータ化し、まとめたものです。
社内FAQを作ると、次のようなメリットを享受できます。
社内ヘルプデスク業務の負担を軽減でき、属人化を防止できる
社内FAQに基本的な質問事項とその回答を明文化しておけば、社員が自分で自己解決する機会が増え、情シスへの問い合わせが減少することが期待できます。情シスの業務負担が大幅に軽減できるでしょう。
また、社内FAQの設置に際して、基本的な質問事項とその回答を洗い出す必要があります。この工程の中で業務のブラックボックス化が解消され、業務の属人化防止にもつながります。
夜間や休日でも、社員が自分で疑問を解消できる
情シスが平日に出勤している企業でも、夜間や休日に働く社員が在籍していることがあります。この場合、社内FAQをいつでも閲覧可能な社内イントラネットなどに設置しておけば、情シスがいない時間帯でも社員が一部でも自己解決できるようになります。また、休み明けに情シスへの問い合わせが集中するリスクと負担も軽減できるでしょう。
社員の情報リテラシーの向上が期待でき、教育ツールとしても使える
多くの企業でデジタル化が進んでいる昨今、情報システムに関する基礎的なナレッジは、情シス以外の社員にも必要だと言えます。社内FAQの中にさまざまなナレッジが蓄積されることで、社員の情報リテラシーの向上が期待できます。また、社員FAQを新入社員の教育ツールとして活用することも可能です。
社内の業務効率化が進む
社内FAQを設置する場合、情シスの業務範囲だけでなくその他の部門の業務も対象とした内容でFAQを構築する企業も少なくありません。すると、さまざまな部門・分野でノウハウやナレッジが明文化・共有化されることで、結果として社内全体の業務効率化が期待できます。その効果によっては、社内FAQ設置のためのコストを賄える可能性もあるでしょう。
社内FAQを作る際に考えておきたいこと
メリットの多い社内FAQですが、設置する際の注意点もあります。主に、以下の事柄を念頭に置いておきましょう。
社内FAQを作るための工数をどう確保するか
社内FAQを作るためには、構想を練ることから始まり、FAQに含む内容の洗い出し、具体的な質問項目と回答の準備などが必要となります。こうした準備には相応の工数がかかり、通常の業務を並行して実施しなければなりません。この作業に充てる工数をどうやって確保するのかを考えましょう。
社内FAQの対象範囲をどうするか
社内FAQを作る際には、社内FAQに含める内容を検討する必要があります。基本的には情シスにたびたび寄せられる質問を記載しますが、問い合わせ頻度がそこまで多くない質問をどこまで含めるかは、検討する必要があるでしょう。また、他のバックオフィス業務も対象にする場合は、より多くの検討時間を要します。
多忙な1人情シス必見! 社内FAQを効率良く作る方法
実際に社内FAQを設置する場合、なるべく効率良く社内FAQを作るなら、何らかのツールを活用するのがおすすめです。主な手段を三つ挙げて説明します。
1. 社内イントラネットなどにFAQページを追加する
まず挙げられるのは、社内イントラネットやチャットツールなど、既存の社内媒体にFAQページを追加する方法です。この方法であれば、新たなツールを導入する必要はなく、Excelなどで作ったFAQをそのまま追加するだけで完了します。費用・工数的に取り組むハードルが低い点がメリットです。
一方、こうしたFAQにはExcelなどの基本的な検索機能しか付いていないため、社員が必要な情報を得るために検索する手間が発生したり、うまく検索できない場合には該当する項目を見つけるまでに時間がかかったりするなどのデメリットがあります。
最低限の費用・工数で社内FAQを設置したい企業にはおすすめできるものの、使い勝手が悪すぎると社員が使ってくれない可能性があるため、適宜改善する必要があるでしょう。
2. 社内FAQシステムを導入する
次に、FAQや社内FAQ専用のシステムを導入する方法が挙げられます。こうしたシステムには、充実した検索機能が用意され、ページ自体の閲覧性・操作性が高いことが多く、社員の使い勝手が良い点が大きなメリットです。また、AIが搭載されているシステムの中には、システム自身が学習してFAQの精度を上げるものもあります。
しかし、FAQ構築のための初期費用や運用費用が多くかかる点や、FAQ設置に時間がかかる点はデメリットだと言えます。
ある程度費用や時間がかかったとしても、将来にわたって利用されるようなFAQを作りたい企業におすすめできる方法です。
3. AIチャットボットを導入する
最後に、AIを使ったチャットボットを導入するという手段も挙げられます。精度が格段に上がりつつある対話型AIを活用しているツールだと、情シスに質問するようにチャットボットに入力すれば回答を表示するための選択肢が表示され、容易に回答までたどり着くことができます。
AIチャットボットの中には、詳細なFAQデータを必要とせず、質問や回答が記載されたドキュメントやURLをクラウドにアップロードするだけで利用開始できるものもあります。導入までの手間が比較的少なく、手頃な費用感で導入できる点がメリットです。
一方、チャットボットという形式の都合上、FAQの内容を一覧表示できない点はデメリットと言えます。
社員が使いやすいFAQを設置したい企業や、手頃な費用感で社内FAQを設置したい企業におすすめです。
まとめ
情シスの社内ヘルプデスク業務は、質問が集中すると対応に時間がかかったり、何度も同じ質問をされて心理的負担が高まったりと、さまざまな問題点を内包しています。こうした問題を解決するために、社内FAQの設置を考えてみてはいかがでしょうか。複数の手段がありますので、自社に合った方法を検討して導入してみてください。
著者紹介:金指 歩
ライター・編集者。新卒で信託銀行に入社し営業担当者として勤務したのち、不動産会社や証券会社、ITベンチャーを経て独立。金融やビジネス、人材系の取材記事やコラム記事を制作している。