IT人材のいない社内。よくある困り事とは?
近年、多くの企業でIT人材不足が深刻化しています。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が行った2024年の調査によると、国内企業の約86%が、DXを推進できるようなIT人材が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答しました。
ITに詳しい従業員がいないことで、業務の効率化が進まなかったり、システムトラブルに対応できなかったりと、さまざまな問題が発生しがちです。ここでは、IT人材が不在の職場でよく見られる課題を紹介します。
IPA「DX動向2024-深刻化するDXを推進する人材不足と課題」(IPAのWebサイト<PDF>が開きます)
昔在籍していたメンバーが作ったExcelがたびたびクラッシュ!
社内の業務で使われているExcelファイルやテンプレートの中には、かつて在籍していた従業員が作成したものが多くあります。特に、マクロやVBA(Visual Basic for Applications)を組み込んである場合、作成者が退職すると修正が困難です。そのため、Officeのアップデート後にマクロが正常に動作しなくなる、ファイルが突然クラッシュする、処理速度が極端に遅くなるといった問題が発生した場合、お手上げになってしまいます。
社内にIT人材がいない場合、このような問題の特定や復旧が難しく、結局「なんとか動くから……」とだましだまし古いExcelを使い続けるケースも少なくありません。しかし、そのまま放置すれば業務効率は低下し、最悪の場合は重要なデータを失うリスクもあります。
紙の書類やデータが混在。データがどこに保存してあるのかわからない
紙の書類とデジタルデータが混在している場合、データの保存方法やフォルダー構成に統一ルールがないと、必要な情報を探すだけで時間がかかってしまいます。ファイル名の付け方や保存場所のルールが決まっていないと、データが行方不明になりがちなのは大きな問題です。
また、紙の文書をデジタル化する過程で、誤入力やスキャンミスが発生することもあります。
売上データを可視化したいけれど、効率的なやり方が不明……
経営判断や業務改善に欠かせない売上データの可視化ですが、多くの企業ではExcelやPowerPointを使って手作業で集計・グラフ作成を行っています。そのため、大幅な時間と労力がかかっているにもかかわらず、手動での入力や更新による転記ミス・計算ミスが発生しやすいのが課題です。
また、売上データが複数のフォーマットで管理されていたり、部門ごとに異なる管理方法が採用されていたりすると、データの一元化が難しく、その比較や分析にも手間がかかります。データを集めるだけで業務時間が圧迫され、本来注力すべき意思決定の時間が削られてしまうこともあるでしょう。
社内の情報共有不足で顧客トラブルに! 顧客情報をまとめたいが……
顧客対応をしたところ、「以前と回答が違う!」とクレームが。実は過去にも同じお客様から問い合わせがあったものの、その情報が社内で共有されておらず、異なる対応をしてしまっていたのが原因でした。
複数の部署や担当者が関わる場合、顧客情報が統合されずに散在してしまうことがよくあります。電話やメール、Excelなどにバラバラに記録されていると、必要な情報を探すのに時間がかかり、ミスが発生しやすくなります。結果として、顧客満足度の低下や信頼の喪失につながる可能性もあるのです。
IT人材不在でも業務改善! ノーコードツール・ローコードツールを活用しよう
「IT人材が不在でも、上記のような困りごとを解決したい!(できれば低予算で……)」そんなときは、ノーコードツールやローコードツールを検討しましょう。ここでは、ノーコードツール・ローコードツールとは何か、その特徴とメリットについて解説します。
ノーコードツール・ローコードツールとは
ノーコードツール・ローコードツールとは、プログラミングの知識がなくても業務アプリやシステムを作成できる開発ツールのことです。従来のシステム開発では専門のエンジニアやプログラマーが必要でしたが、これらのツールを活用することで、ITに詳しくない人でも業務のデジタル化を進められるようになります。
ノーコードツールは、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作でアプリを作成できるのが特徴です。コードを書かずにデータ管理や業務プロセスの自動化が可能なため、現場の担当者でも扱いやすく、導入しやすいメリットがあります。
一方、ローコードツールは、基本機能はノーコードと同様に扱えますが、一部のカスタマイズにプログラミングを活用できる点が特徴です。より柔軟なシステム構築が可能で、業務に合わせてシステムを拡張できます。
ノーコードは手軽さ、ローコードは拡張性に優れたツールとして、デジタル化やDXの一環としての活用が広がっています。
ノーコードツール・ローコードツールのメリット
ノーコード・ローコードツールの最大のメリットは、専門的なプログラミング知識が不要な点です。視覚的な操作やテンプレートを活用することで、業務担当者自身がアプリを作成できるため、IT部門への依存を減らし、「最も現場を知る」現場が主導となる業務改善を進められます。
また、開発コストの削減につながるのも大きなメリットです。従来の開発手法と比べて開発工数を大幅に短縮できるため、外注費や人件費を削減できます。内製化が進むことで、運用・保守コストも抑えられます。
加えて、スピード感のある開発が可能な点も大きな利点です。コードを書く必要がないため、従来よりも短期間でアプリをリリースできます。これにより、業務改善のサイクルを加速できるだけでなく、市場の変化や顧客ニーズにも迅速に対応でき、競争優位性を確保できます。
ノーコードツールやローコードツールでできること
ノーコードツールやローコードツールを導入すると、業務効率化やデータ管理の最適化を簡単に実現できます。ここでは、それぞれの活用方法について詳しく紹介します。
Excelから業務アプリへ変更し、より円滑な利用を実現
経費管理や顧客管理などをExcelで行っている場合、「ファイルが重くなりすぎて開けない」「マクロが正常に動作しない」「複数人での管理が煩雑になる」などの問題が発生しがちです。特に、作成者が退職してしまうと、メンテナンスができず業務の継続が難しくなるケースもあります。
こうした課題を解決するには、ノーコードツールやローコードツールを活用し、Excelのデータを業務アプリに移行する方法が有効です。データの一元管理や権限設定が可能になり、リアルタイムでの情報共有がスムーズに行えるため、業務の効率化が期待できます。これにより、手作業によるミスを防ぎながら、より安定した業務運用が実現します。
紙の書類もデータもすべてツール内に保存! 書類を探す時間も短縮
社内の業務では、紙の書類とデジタルデータが混在し、必要な情報を探すのに時間がかかることがよくあります。特に保存場所が統一されていない場合、書類を探すことに業務時間が食いつぶされ、逆に管理の手間は肥大化してしまいます。
この場合、ストレージ機能のあるノーコードツールやローコードツールを活用し、紙の書類やデータを一元管理する方法が効果的です。書類を電子化し、統一したフォーマットで登録することにより、検索性が向上し、必要な書類をすぐに見つけられるようになるからです。
さらに、ツール内でアクセス権限を設定すれば、情報の管理が適切に行え、不要なデータの散在を防ぐことも可能です。書類管理の効率化によって業務時間を削減し、よりスムーズな業務運用が実現します。
格納した資料をもとにグラフを作成、データを可視化
業務の中で蓄積されたデータを活用するには、可視化によって情報を整理し、分かりやすく分析できる環境を整える必要があります。しかし、Excelでの手作業による集計やグラフ作成は、時間がかかるうえにミスが発生しやすく、業務負担が大きくなりがちです。
この課題を解決するには、ノーコードツールやローコードツールを活用してデータを自動で可視化する仕組みを導入するのが効果的です。格納した資料や指定したデータをもとに、グラフやチャートを簡単に作成できるため、売上や業務の進捗状況をリアルタイムで把握できます。意思決定のスピードが向上し、データを基にした迅速かつ的確な判断が可能になります。
顧客情報を一括管理、誰でも情報に一発アクセスできるように
顧客対応の品質を向上させるには、情報の一元管理が不可欠ですが、効率的に管理できていないケースも散見されます。
こうした課題を解決するため、ノーコードツールやローコードツールを活用し、顧客管理システムを構築してみましょう。顧客情報をシステム上に集約し、最新の情報をリアルタイムで更新することで、どの担当者でも必要な情報に即座にアクセスでき、スムーズな対応が可能になります。
ノーコードツール・ローコードツールを選ぶ際のポイント
ノーコードツールやローコードツールを導入する際には、自社の業務課題に合ったものを選ぶことが重要です。ここでは、ツール選定時に注目すべき主な観点を紹介します。
今ある課題をクリアできる機能があるか
ノーコードツールやローコードツールを導入する際は、自社の業務課題を解決できる機能を備えているかを確認しましょう。一見便利そうなツールを導入しても、実際に使ってみると「欲しい機能がなかった」「自社の業務フローに合わなかった」といったミスマッチが発生することもあります。
まずは現在の業務でどのような課題があるのかを明確に洗い出し、それを解決できる機能があるツールを選ぶことが大切です。例えばExcel管理の属人化が課題なら、データを一元管理できる機能が必要ですし、社内の情報共有が不十分なら、リアルタイムでのデータ更新やアクセス権限の管理機能が求められます。
ツールの導入目的を明確にし、自社のニーズに最適な機能を持つツールを選定することで、業務の効率化を最大限に実現できるでしょう。
今いる人材でもツールを扱えそうか
ノーコードツールやローコードツールを選ぶ際には、社内の担当者が無理なく使いこなせるかも考慮しましょう。せっかくツールを導入しても、操作が難しく、結局使われなくなってしまっては意味がありません。
ITツールに不慣れな従業員が多い場合は、ノーコードツールの導入が適しています。ノーコードツールなら、ドラッグ&ドロップの簡単な操作でアプリを作成でき、専門知識がなくても業務改善に活用可能です。
一方で、ある程度のプログラミング知識を持つ人材がいる場合は、カスタマイズ性の高いローコードツールを選択することで、より柔軟なシステム開発ができます。
導入前に無料トライアルやデモ版を試し、実際の操作感を確認することも有効です。誰でも扱いやすいツールを選ぶことで、業務効率化の効果を最大化できるでしょう。
求める機能と費用感が見合っているか
ノーコードツールやローコードツールを導入する際は、必要な機能とコストのバランスを考慮しましょう。システムを導入すると一定のコストが発生しますが、求める機能と費用が適切に見合っていなければ、コストパフォーマンスの悪い投資になってしまいます。
そのため、まずは本当に必要な機能を明確にし、その機能を備えたツールを選定することが大切です。例えば、基本的な業務アプリの作成だけであれば、無料または低コストのノーコードツールで十分に対応できます。しかし、高度なカスタマイズや外部システムとの連携が必要な場合には、ローコードツールを含めた比較検討が必要です。
また、初期費用やランニングコストだけでなく、導入後のサポート費用や追加機能の料金体系もチェックしましょう。費用対効果を最大化するために、複数のツールを比較し、自社のニーズに最適なものを選ぶことが重要です。
ベンダーや販売会社からの支援が得られるか
ノーコードツールやローコードツールを導入する際には、ツール提供元であるベンダーや販売会社のサポート体制も重要な選定ポイントです。導入後に「設定方法がわからない」「想定通りに動作しない」といった問題が発生することは珍しくありませんが、ベンダーの支援が受けられれば、その後の運用をスムーズに進められます。
特に、初期設定のサポート、操作トレーニング、運用後の問い合わせ対応などのサポート内容を確認しておくことが重要です。ベンダーによっては無料で提供される基本サポートと、追加費用が発生する高度なサポートがあるため、その費用感も事前に把握しておきましょう。
まとめ
IT人材の不足、Excel管理の非効率、情報共有の課題、データの可視化など、企業を取り巻く課題はさまざまです。しかし、ノーコードツールやローコードツールを活用することで、専門知識がなくても簡単に業務アプリを作成でき、データの一元管理や業務プロセスの自動化が進み、業務の効率化につながります。
導入を検討する際は、自社の課題を解決できる機能があるか、社内の人材でも扱えるか、コストやサポート体制が適切かなどをチェックすることが大切です。最適なツールを選ぶことで、ITの専門知識がなくても、現場主導のDXを推進できるでしょう。
大塚商会では、ノーコードツール「kintone」の導入・活用をサポートする「たよれーる kintone 伴走支援サービス」を提供しています。ツール選定に迷った際には、専門家のサポートを受けながら、自社に最適な業務アプリの導入を進めてみてはいかがでしょうか。
著者紹介:水無瀬 あずさ
現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、各メディアでコンテンツを執筆している。得意ジャンルはIT・転職・教育。生成AI×プログラミングでゲームを開発するための勉強にも励んでいる。(編集:株式会社となりの編プロ、ARC影山)