2017年11月22日公開

【連載終了】なつかしのオフィス風景録

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EメールやFAXがない時代、海外とのやりとりはどうしていた?

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EメールやFAXが登場する以前の、海外との連絡事情をご紹介します。

現代からはなかなか想像できない、なつかしのオフィス風景や仕事のあり方を探るこの企画。今回のテーマはかつての海外連絡事情。

1869年の創業以来、貿易商社のパイオニアとして戦前から多くの海外拠点を展開していた株式会社野澤組様に取材。入社50年を超えるベテラン社員の鶴岡大武さんに、EメールやFAXなどが登場する以前の海外連絡事情を伺いました。

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海外との連絡を担っていた「テレックス」

取材者
早速ですが、FAXやEメールの登場以前、野澤組さまでは海外とどのように連絡をとっていましたか?
鶴岡さん
電報とテレックスがメインの手段でした。「テレックス」と言っても、最近はご存じない方が多数だと思います。タイプライターのようなキーボードが付いている通信機器で、メッセージを打ち込んで送信ボタンを押すと、送り先のテレックス端末に印刷されて出てきます。FAXの前身のようなものですね。
当時は短いメッセージであれば電報、比較的長い文章を送る場合はテレックス、という具合に使い分けていました。アナログな手段だと、手紙でのやりとりも多かったですね。
取材者
鶴岡さんがそういった海外とのやりとりを担当されていたのですか?
鶴岡さん
はい。当時は総務部に海外との連絡を担当する「通信課」という部署がありまして。私が野澤組に入社したのは1966年。入社後すぐ通信課に配属されて、長いことテレックスなどの通信業務に携わりました。
取材者
入社されて50年以上! 大ベテラン社員ですね。テレックスでのメッセージのやりとりは日本語で行われていたのでしょうか?
鶴岡さん
いいえ、メッセージは基本的に英文です。ですから、通信課の社員は英語ができることが必須条件でした。各部署が海外に送りたいメッセージがあれば、まず通信課に日本語で持ってくる。それを私たちが英語に翻訳し、手紙のような形式にまとめたうえで、あらためてテレックスで送信する。逆に海外から届いたメッセージは日本語に翻訳して、各担当者の元に届ける。それが通信課の主な業務でした。
取材者
テレックスを使用する際の文章ルールなどはあるのでしょうか?
鶴岡さん
テレックスは送信する文章の長さによって通信料が変わるんです。ですから、料金を安く抑えるためにも「省略可能な単語はできる限り省略する」というのが鉄則。例えば「a、i、u、e、o」といった単語の母音は基本的に削ります。「item」という単語は「itm」という具合に省略するんです。
こうしたルールに早く慣れようと、入社後しばらくは海外から送られてきたメッセージを全てファイリングして、暇さえあれば読み返して勉強していましたね。

左の分厚い本は「ACME CODE(アクメ・コード)」と呼ばれる電報用の単語帳。電報でのメッセージのやりとりは、この単語帳を参照しながら行っていた。右の書類はテレックスで実際に送られてきたメッセージ。

メッセージを送信するまでに1時間の待ち時間が!

取材者
文章をタイプする際のコツみたいなものはあるのでしょうか? パソコンみたいに打ち込んだ内容を逐一確認できないと思うので、タイピングも難しそうですね。
鶴岡さん
そうですね。長い文章をミスなくタイプするのは至難の業です。そこでテレックスではまず、セロハンテープのような細長い専用テープに下書き的な形でメッセージをタイプするんです。すると、点字のような模様が打ち込まれた長いテープがテレックス本体からダーッと出てくる。そのテープを送信口に流し込んで、メッセージの送信が完了します。
取材者
なるほど、いったん送信用のテープを作成するのですね。そうなるとメッセージを1通作成するだけでも、意外と時間がかかりますよね。
鶴岡さん
作成だけでなく、送信にも時間がかかっていました。というのも、テレックスで海外にメッセージを送る場合、まず電話会社に連絡して「これからニューヨークへメッセージを送ります」みたいに事前申し込みが必要なんです。
取材者
自分たちの好きなタイミングでメッセージを送れるわけではないんですね。
鶴岡さん
ええ。すると1時間くらいで「回線がつながりました」と電話会社から連絡がくる。そこで初めてメッセージを送信できるわけです。
当時の私は、毎日の業務終わりに、その日の営業成果をニューヨーク支社に報告することが日課でした。21:00ごろに申し込み電話をかけて、22:00くらいにテレックスで送信して一日が終わる。
取材者
とてもお忙しい毎日だったんですね。
鶴岡さん
入社後、数年はとにかく忙しかったですね。テレックスのキーは、押すとずっしり重いのですが、タイピングのし過ぎで腱鞘炎(けんしょうえん)になったこともあります。でも仕事自体は楽しかった。若い頃は人と話すのがあまり得意ではなかったので、黙々と仕事できるのも気に入っていました(笑)。
取材者
お仕事の中で思い出に残っているエピソードなどはありますか?
鶴岡さん
ある日、いつものように申し込みの電話をかけて回線がつながるまでの間、夕飯を食べに外出したんです。帰ってきて机を見たら、あらかじめ作成しておいた送信用テープがなくなっている。その瞬間、「掃除のおばちゃんがゴミと間違えて捨てちゃったんだ!」と思い当たって。
急いでゴミ捨て場からゴミ袋を持ってきて中をあさると、案の定、その中にあった。テープはしわしわになっていましたが、きれいに伸ばすとちゃんと送信できました(笑)。あのときの焦りは今でも忘れられません。

革命的だったFAXの登場

取材者
テレックスが姿を消したのはいつくらいか覚えていますか?
鶴岡さん
その後、私は通信課から離れてしまったので、正確な時期は分からないんです。ですがテレックスが下火になったのは、1980年代にFAXが普及してからですね。FAXの登場は本当に革命的でした。
取材者
具体的にどのような部分が革命的だと感じましたか?
鶴岡さん
例えば「今日、お金を送りました」というメッセージが送られてきたとします。テレックスで返信する場合、送信用のテープを作成、その後電話会社に連絡……と、とにかく時間がかかる。
これがFAXだと、送られてきた用紙の空きスペースに一言「ありがとう」と書き添えて、そのまま返送すればいい。手軽さという点では段違いです。それにテレックスと違って、英語ができなくても誰でも扱える。海外とのやりとりを社員1人で完結できるようになったのも大きなポイントですね。
取材者
最近ではEメールはもちろん、SNSやチャットなども普及し、海外との連絡もより便利なものになっていますよね。
鶴岡さん
テレックスを使っていた時分と比べると、隔世の感がありますね(笑)。私もよく若い社員にスマートフォンの使い方を教えてもらっています。最近の若い方々は、留学経験も豊富で語学力が高い人も多いですよね。最新ツールを使いこなしながら、海外の新しい仕事をガンガン開拓していく行動力もある。感心してしまいますよ。
取材者
鶴岡さんの目から見て、現代は「便利な時代だな」と思いますか?
鶴岡さん
「海外との距離が昔より縮まった」という意味では、便利だし、いい時代ですよね。私の若い頃は海外旅行に行くのも一苦労でした。でもテレックスを使っていた頃が不便な時代だったかと言われると、そうは思わない。当時は「これはなんて便利な機械なんだ!」と心から思って働いていましたから(笑)。あの頃はあの頃で、楽しい時代だったなと思っていますよ。

現在の野澤組さまのオフィス風景。

株式会社野澤組

1869年、東京・日本橋で創業。1931年にオランダ産チーズを日本に輸入して以来、日本のチーズ市場においてパイオニア的存在を果たしている貿易商社。食品分野をはじめ、畜産、機械、繊維、家庭用品など幅広い分野で事業を展開している。

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