2018年12月20日公開

【連載終了】なつかしのオフィス風景録

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銀座の老舗文房具専門店に聞く! 昭和のビジネスパーソンの文房具事情

現代からはなかなか想像できない、過去のオフィスにまつわる風景や仕事のあり方を探る「なつかしのオフィス風景録」。第14回のテーマは、昭和のビジネスパーソンの文房具事情です。今回取材したのは、1904年(明治37年)、東京・銀座にて創業した株式会社伊東屋様。事務用品の販売担当を40年近くにわたり務めてきた横山隆さんにお話を伺いました。

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OA化への移行期に、かえって紙の需要が増えた?

取材者
横山さんは1980年に入社されたそうですが、文房具の売れ行きや扱いなど、当時と今とを比べてどのような変化を感じていますか?
横山さん
当時、オフィスにおける仕事は、ほとんど紙で成り立っていました。現代では資料のデジタル化などが主流になり、資料や文書などを紙で残すことは以前より少なくなりましたよね。まずそれが、一番の違いだと感じています。
一つ、面白いと感じていることがあります。私が伊東屋に入社した1980年ごろは、ちょうど「OA(オフィス・オートメーション)化」が叫ばれ始めた時代。紙の消費量は、この先減っていくだろうと予想されていましたが、OA化が進むにつれ、かえって紙が増えた時期があったんです。
取材者
それは、なぜでしょうか?
横山さん
当時は、パソコンが一人一台支給される時代ではありません。部署ごとに共有のパソコンが一、二台あり、そのパソコンをみんなで使うような形が一般的でした。ですが、いちいちパソコンのところに行って作業するのは不便ですし、不具合を起こす恐れもある。そこで、パソコンで作成した資料やデータなどを、念のため紙に出力して保存しておこう、という流れになったのだと思います。
取材者
当時は、紙製品の種類も「資料作成用」「プレゼン用」など、用途別にいろいろあったのでしょうか?
横山さん
そうですね。例えば、当時の営業マンにとって必携ツールだったのが「集計用紙」。月ごとの売り上げを集計してまとめるなど、今ではエクセルでやっているようなことも、当時は手書きで行っていました。集計用紙は、銀座本店の定番商品のラインアップからは外れていますが、うれしいことに最近でも時々注文を頂きます。
またプレゼンなども、今はパワーポイントを使うのが当たり前だと思いますが、当時は「OHPシート」という透明なシートに資料を印刷して、それをプロジェクターなどに投写していました。

スマホの先駆け? スケジュール管理もできる「電子手帳」

取材者
最近は、オフィス用品や文房具などの備品を購入する際、インターネットなどを通じて業者に注文する形が主流になっています。昭和の頃はどうだったのでしょうか?
横山さん
社員数人で店舗にいらして、ファイルや帳簿類、伝票類などを買い物かごいっぱいに入れて……という光景をよく見かけました。1990年代半ばごろから、大手通信販売会社などでオフィス用品の取り扱いがスタートしました。その頃から、時代の流れが変わってきたように思います。
取材者
昭和の頃と現代を比較して、横山さんが「懐かしさ」を感じる文房具はありますか?
横山さん
まだメールが普及していなかった時代、お客様との連絡手段は電話が中心だったので、デスクの上にポップアップ式の電話帳や住所録が置いてありました。また、当時はオフィス内での喫煙が許可されている会社が多かったので、オフィス用の灰皿なんかも伊東屋で取り扱っていましたね。最近の人たちからすると、なかなか信じられない風景だと思うのですが。

昭和の営業マンにとって必携ツールだった集計用紙。月ごとの売り上げなどは、この用紙を使ってまとめていた

取材者
何か、爆発的に売れた商品などはありますか?
横山さん
1983年に販売が開始された「電子手帳」です。時計やスケジュール帳のほか、住所録が登録できたり、簡易的な辞書が入っていたりと、画期的な商品でした。ビジネスマンの間でも大きく話題になり、飛ぶように売れていましたね。
取材者
そこまでヒットした理由は何でしょう?
横山さん
スケジュールを紙に書かずに管理できるという点が、当時としては画期的だったのでしょう。今はスケジュール管理をスマホで行う方も多いと思いますが、その先駆けだったのかもしれません。
しかし、電子手帳は一時的にヒットしたものの、その後は、そこまでの普及を見せませんでした。やはり「通信・連携機能がない」というのが大きかったのかなと。
取材者
一方で、電子手帳と同時期に発売されたバインダー式のシステム手帳は、最近また人気が高まってきています。以前は、どちらかといえば男性が持つアイテムというイメージがありましたが、最近では女性が購入されることも多いです。当時を知らない若い方が「格好いい」と言って購入されることもあります。
横山さん
そのほかに意外なブームを呼んだ商品はありましたか?
取材者
よく覚えているのは、アメリカから来た「ポスト・イット」です。日本で発売されたのは1981年ごろだったと思いますが、新製品ということで、本店の店頭でも、よくデモンストレーションを行いました。当時のポスト・イットは今の製品のように小分けではなく、ひと固まりの大きなブロックで販売していたんです。値段は、確か1,900円くらいだったと記憶しています。
横山さん
今と比べてかなり高価だったんですね。
取材者
そうですね。売り上げがグンと伸びてきたのは、日本独自の規格を発売するようになってから。ご存じのとおり、今はサイズのバリエーションも幅広いですし、かわいらしいデザインのものも増えています。当時は伝言用のメモとして使用されることがほとんどでしたが、今はブックマーク代わりに使用されることも多いですね。そのように用途が広がったことも、売り上げが伸びた要因でしょう。私も発売当時に、店頭販売の実演を担当していたことがあり、思い出深い文房具の一つです。

ポスト・イットが日本で発売されたのは1981年ごろ。当初は値段も販売形態も今とは異なるものだったという

モノを買う場所から体験して過ごす場所へ。100年企業のターニングポイント

取材者
ビジネスマンの文房具との付き合い方は、昭和の時代と現代とでどのように変わったと感じますか?
横山さん
バブル崩壊後、経費削減を目的にノートやペンなどの支給を制限する会社も増えました。そうした流れの中で、ビジネスマンが個人で文房具を購入するケースが増えて、自分好みの商品を選びたい、という需要が高まったように思います。それに伴い、伊東屋で取り扱う商品も個人向けの製品が多くなっていきました。
また、昔は文房具にこだわるのは一部の人の楽しみというか、文房具に対して「男の書斎」のような重厚なイメージがあったのかもしれません。ゆったりとした部屋で、ブランドの万年筆を持ち、革製のノートを開いて……というような。今は、商品のバリエーションが増えたことで、誰もがより気軽に自分好みの文房具を選べるようになりましたよね。
取材者
伊東屋さんは2015年に本店を全面リニューアルされたと聞きました。リニューアルの前後でお店のあり方はどのように変わりましたか?
横山さん
リニューアルを機に、伊東屋は「モノを買う場所」から「さまざまな体験をして過ごす場所」へ、大きくコンセプトをチェンジすることになりました。
伊東屋では、人が何かを生み出したり何かを始めたりすることを、クリエイティブなことだと捉え、そのサポートをしたいと考えています。例えば、お気に入りのノートを使うことでいいアイデアが生まれたり、店内を一回りするだけで「何かやってみよう」という気持ちになったり……。そういう、偶然の出会いによって、新しい何かが生まれる店舗を目指しています。最近では、店内でデートをしている若い方などもよく見かけるようになり、うれしい変化だと感じています。

銀座店では創業1904年(明治37年)当時の伊東屋のミニチュア模型が飾られている

取材者
最近では、文房具を販売している雑貨店やアパレルショップも増えています。そうしたお店と伊東屋さんとの違いは、どのようなところだと思いますか?
横山さん
やはり、文房具に特化した「文房具専門店」というところだと思います。私たちの軸足はそこにあり、いつでもそこに立ち返っていく。そういう気持ちで日々営業を行っていますね。
ITやAIなどの新しい技術が発達しても、変わらないものがあると思うんです。例えば、人が何かを「書く」ということ。書くという行為自体は、1000年も2000年も昔から変わらないわけですよね。そういうことを私は大切にしていきたいですし、伊東屋にお越しいただくお客様に、そういったことをお伝えしていくのも私たちの役目なのかなと思っています。

銀座 伊東屋本店

1904 年、中央区・銀座に「和漢洋文房具 STATIONERY」の看板を掲げ、創業。万年筆やノートをはじめ、オリジナル商品や直輸入品など、さまざまなラインアップの文房具を取りそろえる。2015年には、銀座本店をリニューアル。自社で運営するカフェレストランや野菜工場も併設している。

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