【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介
1)労災保険とは
労働者災害補償保険法に基づく制度です。
略して労災保険、さらに縮めて労災と呼ばれることもあります。
労働災害って?
「災害」というと大げさに聞こえますが、仕事上や通勤上の事故などが原因で、
- ケガをした場合
- 病気にかかった場合
- 障がいが残った場合
- 死亡した場合
などに、その労働者または遺族に保険金が給付される制度です。
労災保険によって補償されるケガの程度は、特に定められているわけではありませんが、常識的に病院で治療が必要なケガであれば労災の対象となります。
健康保険とはどう違う?
健康保険は、業務外の傷病などに対して保険給付がなされるものです。労災保険と健康保険の大きな違いは、医療費の個人負担の有無といえます。原則として、労災保険では医療費の個人負担はありません。
保険料はだれが?
労災保険には、ごく一部の例外を除き、すべての事業者*が加入を義務付けられています。保険料は全額会社が負担し、従業員個人が払うことはありません。
保険料の決め方は?
保険料は毎年、前年度(前年4月から当年3月まで)に会社が支払った賃金総額に労災保険料率をかけて決定されます。 労災関係の事務といえば、このときの「年度更新」と実際に労災が発生したときの手続きがほとんどです*。
- * 社名や所在地が変わったときには変更届が必要です。
病院で治療を受けるときは?
労災に関するケガや病気の治療には健康保険が使えないのが大前提です。従って、病院の窓口では労災である旨を告げる必要があります。
病院によって初診時の対応はケースバイケースで異なり、預かり金を求められる場合もあります。共通しているのは、その病院に対して「療養補償給付たる療養の給付請求書」を提出することです。用紙は労働基準監督署にありますが、厚生労働省のホームページからも入手できます。
[労災指定病院]
労災保険により受診することができる病院をいいます。
労災保険給付の請求書を提出すると、病院が本人に代わって労働基準監督署に治療費を請求するため、本人は一切支払う必要はありません。(前述の「療養補償給付たる療養の給付請求書」のほか、「指定病院等の変更届」などの書類を病院に提出する場合もあります。)
逆に指定病院でない場合は、本人がいったん病院に全額支払い、あとから労働基準監督署に治療費を請求*するかたちになります。
- * 請求は被災労働者本人の名で請求します。実務的には、会社または社労士が書類を作成し、本人が署名捺印したものを会社や社労士などが労働基準監督署へ提出しているケースがほとんどです。
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2)労災保険の対象となる労働者とは
ごく一部の例外を除き、労災保険は「労働者を使用する事業」に強制的に適用されます。労災保険の適用事業所で働く人はすべて労災保険の適用を受けることになります。
保険証は?
一つの事業所に包括して適用されるので、個々人に労災保険の保険証を交付する必要がなく、社員が入社したときや離職した際も特に手続きは必要ありません。
労災保険の適用事業所で「働く人」とは?
アルバイト・パートタイマーはもちろん、臨時で働く人、日雇いで働く人、外国人の方もすべてが対象となり、労災保険の適用を受けることになります。ただし、そのなかに経営者は含まれません。
[中小企業経営者向けの特別加入制度]
労災保険は、労働者を対象としたものであり、原則、経営者は加入することができません。
ただし、中小企業の場合、社長自らが労働者と一緒になって作業するケースが多いのも事実です。そこで、労災保険の特別加入制度によって中小企業の事業主が労災保険に加入できるようになっています。
経営者が労災保険で補償される場合
労働者と同様の業務を行っていた際の傷病のみです。経営者としての業務(取締役会議中の負傷など)は補償の対象となりません。
特別加入制度には、いくつかの加入要件がありますので、詳細はお近くの労働基準監督署へお問い合わせください。
[特別加入できる中小事業主]
常時使用する労働者数が、下記表に定める数以下であること。
業種 | 労働者数 |
---|
金融業 保険業 不動産業 小売業 | 50人 |
卸売業 サービス業 | 100人 |
建設業等 上記以外の業種 | 300人 |
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3)給付の種類と手続き
次のような種類があります。
ケガをした場合は療養補償給付
業務中にケガをしてしまった場合、まず医療機関で治療を受けます。この治療に対して療養補償給付がなされます。
給付されるのはあくまでも治療費で、見舞い金や慰謝料ではありません。また、病気の場合は、厚生労働省で適用範囲をガイドラインで定めています。
給付金を受け取るためには申請の手続きが必要です。(→5)労災が起こった場合へ)
[給付金の申請手続き]
[診療費の給付の流れ]
働けなくなった場合は休業補償給付
療養のため働くことができないときは、休業補償が給付されます。
また、ケガが治癒しても障がいが残るときには傷害補償が給付されます。
給付金を受け取るためには申請の手続きが必要です。(→5)労災が起こった場合へ)
休業補償は治癒して職場復帰するまで受けられますが、1年6ヶ月を過ぎると労働基準監督署の職権で傷病補償年金に切り替えられる場合があります。
給付額は?
原則として、ケガをした日の前3ヶ月の給与の平均額をとって1日あたりの日額を計算し、その日数×6割*が支給されます。
- * 実際には労働福祉事業からの加算金があるので支給額は平均日額の8割となります。
亡くなった場合は遺族補償・葬祭料給付
不幸にも亡くなってしまったときは遺族補償や葬祭料が給付されます。
給付金を受け取るためには申請の手続きが必要です。(→5) 労災が起こった場合へ)
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4)業務災害とは
労災保険においては、業務災害と通勤災害を補償の対象としています。このうち、業務災害とは、仕事が原因でケガや病気となった場合です。
正確にいうと、労働関係から生じた災害、すなわち労働者が労働契約に基づいて使用者の支配下において労働を提供する過程で、業務に起因して発生した災害を業務災害といいます。
[業務災害かどうかの判断]
普通に仕事をしていてケガをした場合は、「業務上の災害」として労災保険の給付が行われますが、「業務上の災害ではない」と判断された場合もあります。
業務災害の認定は個々の事案を具体的に判断したうえで行われます。そのときに考慮されるのが、
- 業務起因性
- 業務遂行性
です。
業務起因性とは、業務に潜在する危険性が現実化したと認められることであり、また業務遂行性とは、会社の指揮命令下で業務に従事しようとする意志や行動が認められることです。このうち、業務起因性は絶対要件とされています。
業務災害の認定は?
原則として管轄の労働基準監督署長が行います。しかし、認定は、会社または被災労働者本人から労災保険給付の請求がなされてから行われることになっています。業務災害に該当するか否か判断することが難しい場合でも、労災保険を請求しなければなりません。
[業務起因性~認められる場合と認められない場合]
例えば、警備員であるAさんが、勤務中に万引き犯を取り押さえようとした際に負傷したとします。この場合は、業務起因性が認められると考えられます。同様に、駅員やタクシーの運転手が酒に酔った客などに殴られてケガをした場合も、業務起因性が認められるでしょう。
一方、営業マンのBさんが、ささいなことから同僚と口論となってその同僚から暴行をうけて負傷したとします。この場合、業務起因性は認められるでしょうか。営業活動において他人から暴行をうけることは、通常、「業務(営業)に潜在する危険性」とは言えないので業務起因性は認められないでしょう。
ちなみに、いずれのケースも業務遂行性は認められます。
[業務遂行性から労災が認定される場合]
病気については、職業との因果関係が経験則上確立されているものについては、業務災害として認定されています。過重労働による疾病やアスベスト被害などがその例です。
例えば残業時間が1ヶ月に100時間を超えるような過重労働を続けていると、脳疾患や心疾患を発症する危険性が増大します。このような状況で疾病を発症するのは業務中とは限りません。帰宅後、就寝中に発症することもあります。この場合、業務遂行性はありませんが、業務災害として認定される場合があります。
また、建設現場などでアスベストを取扱った人が中皮腫を発症するケースは一般的に数十年先のことです。ですから、業務遂行性の判断が難しいのは理解できるでしょう。
逆に勤務時間中に心筋梗塞を起こして倒れたとしても、職業との因果関係がなければ労災は認められません。
[会社での休憩時間中にケガをした場合]
休憩時間中は、業務起因性も業務遂行性も原則として認められないと考えられます。しかし、会社内の施設に不備があり、それが原因で負傷した場合などは業務起因性が認められるケースもありえます(社内食堂にある椅子が壊れていた際の負傷など)。
また、当然ながら積極的な私的行為は認められません(会社敷地内で会社のソフトボールクラブの練習中による負傷など)。
[そのほかの業務災害認定事例]
特殊なケースになりますが、会社が提供した食事を感染源とした食中毒にり患した場合、特段の反証事由が認められない限り、業務起因性を認め、業務災害とした例があります。
また、社長の命により社長の個人的な雑用を手伝っていた際の負傷などを業務災害と認めたケースもあります。さらに、上司の命により得意先を接待している際の負傷を業務災害と認めたケースもあります。
ただし、個々の事案を具体的に判断して認定されるものなので、類似のケースでも必ず認定されるとは限りません。
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5)労災が起こった場合
まず、被災労働者の状況を確認しながら近くの医療機関で治療させることを優先しましょう。そして順次、労災保険給付の請求書を作成します。場合によっては「労働者死傷病報告書」の作成も必要となります。
これらの書類は管轄の労働基準監督署や医療機関へ提出することになります。
書類には、
- どのような場所で
- どのような作業をしているときに
- どのような物または環境に
- どのような不安全なまたは有害な状況があって
- どのような災害が発生したか
を記載しますので、あらかじめ状況を把握しておくことが肝要です。
[申請のための手続き(作成書類と提出先)]
労働災害によって負傷した場合などには、労働基準監督署に備え付けてある請求書を提出します。労働基準監督署による書面審査があり、必要に応じ聴取されることもあります。労災と認定された場合には保険給付が行われます*。
- * 労災と認定されなかった場合は、給付請求に対して「不支給決定通知書」が交付されます。
(1)療養補償給付
療養した医療機関が労災保険指定医療機関の場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出します。請求書は医療機関を経由して労働基準監督署長に提出されます。
療養した医療機関が労災保険指定医療機関でない場合には、いったん療養費を立て替えて支払う必要があります。その後「療養補償給付たる療養の費用請求書」を、直接、労働基準監督署長に提出すると、その費用が支払われます。
(2)休業補償給付
「休業補償給付支給請求書」に労務不能である旨の医師の証明を受けて、労働基準監督署長に提出します。労働災害により休業した場合には、第4日目から*休業補償給付が支給されます。
- * 労災と認定されなかった場合は、給付請求に対して「不支給決定通知書」が交付されます。
(3)そのほかの保険給付
(1)(2)のほかにも障がい補償給付、遺族補償給付、葬祭料および介護補償給付などの保険給付があります。これらの保険給付についてもそれぞれ、労働基準監督署長に請求書などを提出することとなります。なお、傷病補償年金は労働基準監督署長の職権による決定なので、請求書を提出することはありません。
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