2013年 6月 1日公開

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「社会保険算定基礎届」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

毎年6月になると「報酬月額算定基礎届」が年金事務所から送られてきます。年に一度のことですので、とまどう人もいるかもしれません。提出期限は7月1日から7月10日まで。今回は社会保険算定基礎届の基本と注意点について改めて確認しておきましょう。

「社会保険算定基礎届」の巻

1)社会保険算定基礎届

社会保険算定基礎届とは、社会保険料を決定するために提出するもので、健康保険給付や厚生年金額の計算の基礎にもなります。
社会保険料は標準報酬月額をもとに決定されますが、その標準報酬月額は、基本的に

  1. 取得時決定(入社時)
  2. 随時改定(報酬額等に著しい変動があった場合)
  3. 定時決定(毎年1回定期に改定)

の3つのうち、いずれかの時期・方法で決められます。この中で社会保険算定基礎届は、(3)定時決定の際に届け出るものです。
賃金は増えたり減ったり変動があるものなので、毎年1回見直しをして現実に近い標準報酬月額を決めましょうというのが定時決定の趣旨です。

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2)算定基礎届が必要な社員

社会保険加入者は全員必要です。パートタイマーでも社会保険に入っていれば当然関係します。ただし、その年の6月1日から7月1日に被保険者資格を取得した人は除きます。また、去年と全く同じ賃金で変動がない場合でも毎年提出しなければなりません。

算定基礎届に記入されるべき人
7月1日の時点での健康保険・厚生年金の被保険者。
6月30日までに退職したり、パート等になって労働日数・労働時間が減少したために被保険者資格を喪失した従業員は算定基礎届の対象外です。
4月・5月・6月すべて休業(けが・病気等)している人(被保険者)
7月~9月に随時改定又は7月~9月に育児休業等終了時改定が予定されている人(被保険者)
7月・8月に会社を辞める人(被保険者)
算定基礎届に記入しなくていい人
6月1日以降に入社した人
※「被保険者資格取得届」で、原則、来年8月までの標準報酬月額が既に決まっているので、その年の算定基礎届は提出不要。
6月30日までに退職したり、パート等になって労働日数・労働時間が減少したために被保険者資格を喪失した従業員は算定基礎届の対象外です。

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3)標準報酬月額

各人の標準報酬月額は、毎年4月から6月に支払われた賃金(賞与を除く)の平均額で決定します。決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月まで有効です。決定された標準報酬月額をもとに各人の社会保険料が決まります。

標準報酬月額の決定方法

標準報酬月額の決定方法

また、「賃金=総支給額」となるため、この賃金には、基本給のほかに毎月決まって支払われる手当が含まれます。ここでいう賃金とは交通費、残業代なども含めた総支給額のことです。ただし、労働の対価ではないもの、例えば出張旅費や慶弔見舞金などは除きます。

報酬となるものとならないもの

 通貨で支給されるもの現物で支給されるもの
報酬と
なるもの
基本給(月給、週給、日給など)
残業手当、能率手当、通勤手当、住宅手当
家族手当、役付手当、職階手当、勤務地手当
日直手当、宿直手当、早出手当、勤務手当
皆勤手当、精勤手当
会社から支給される私傷病手当金
賞与・決算手当(年4回以上支給されるもの)など
通勤定期券、回数券
食事、食券
社宅、独身寮
被服(勤務服ではないもの)
給与として支給される自社製品など
報酬と
ならない
もの
  • 事業主が恩恵的に支給するもの
    病気見舞金、災害見舞金、結婚祝い金など
  • 公的保険給付として受けるもの
    健康保険の傷病手当金、労災保険休業
    補償給付、年金、恩給など
  • 臨時的、一時的にうけるもの
    大入袋、解雇予告手当、退職金など
  • 実費弁済的なもの
    出張旅費、交際費など
  • 年3回まで支給されるもの
    賞与など(年3回以下のもの、賞与として保険料の対象)
  • 制服、作業衣などの勤務服
  • 食事(本人からの徴収金額が標準価格により算定して額の2/3以上の場合)、社宅(本人からの徴収金額が標準価格により算定した額以上の場合)など

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4)定時決定と随時改定

4月に支払われた賃金が、給与改定等により大幅な変動があった場合、定時決定ではなく、随時改定になる場合もあります。この場合、算定基礎届には「月額変更削除」と記載して、月額変更届を同時に提出*します。また、随時改定では決定される標準報酬月額は7月から有効となりますので注意が必要です。

このように賃金が大幅に変動したときは、標準報酬月額を見直します。本来、4月から6月までの賃金の平均をとって定時決定した標準報酬月額は1年間有効ですが、その間に大幅な変動があった場合は、来年の4月、5月、6月を待たずにすぐ変わるというのが随時改定の趣旨です。1年間そのままにすると現実にそぐわなくなる、ということです。

例えば8月に役職が上がって、役付き手当が5万円から10万円に跳ね上がったとします。このような場合は、賃金が上がった月から3ヶ月間の平均をとってもう一回見直します。

  • * 年金事務所によって異なる場合がありますので、詳しくはお近くの年金事務所にお尋ねください。

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5)賃金の変動について

随時改定が必要になるときの「大幅な変動」とは、等級表で2等級以上変動があるかどうかで、変動があれば随時改定となります。

社会保険では標準報酬月額に対応する保険の等級を定め、保険料額表 (下記リンク参照)に示しています。健康保険の場合は、健康保険は1等級から47等級まであり、3ヶ月の平均額がいくらからいくらまではこの等級と決まっているのです。「大きな変動があった場合は」というのは、その等級が現在の等級よりも2等級以上昇級または降級した場合、ということです。

例えば、賃金の平均が20万円の人は17等級で、標準報酬は20万円と決まっています。ここに新たに手当が5万円増えて、平均が25万円になった場合は20等級に該当します。そうすると17等級から20等級へと4等級上がるので当然、随時改定となり、月額変更届をしなければなりません。ちなみに厚生年金保険は1等級から30等級までですが、健康保険の5等級から34等級と同一です。従って標準報酬月額の決定または改定は、基本的に健康保険と厚生年金保険を同時におこなうものです。

平成25年度保険料額表(全国健康保険協会ホームページ)

●変動の幅が微妙なとき

変動の幅が微妙なときは、3ヶ月の平均額が確定するまで処理ができません。5月や6月に大幅な変動があったときは確実に随時改定になりますが、判断が難しいのは4月に給与の改定等があった場合です。

例えば、社員が転居して、これまで1万円もらっていた通勤手当が2万円になったというようなときは、たしかに1万円から2万円は2倍という大きな変動にはなりますが、4月、5月、6月の総支給の平均をとってみると、そんなに変わっていなかったということがあります。当然1等級しか変わってないという場合は定時決定になり、2等級以上変動した場合は随時改定となります。

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6)随時改定を忘れてしまった場合

随時改定が必要なのにしなかったときには、調査で届出漏れを指摘されると差額が請求されます。年金事務所では定期的に事業所への調査を実施しています。

その際、

  • 「この社員の人は随分前に賃金が上がっていましたね」
  • 「さかのぼって改定してください」
    と言われることがあります。このように調査で発覚して、過去にさかのぼって社会保険料の差額が一度に請求されることがあるので、随時改定に該当する場合は忘れずに月額変更届を提出しましょう。

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7)その他の注意

●給与改定が4月以降にあった場合

例えば給与改定が5月または6月にあった場合は、8月または9月に随時改定します。ただ、定時決定の基準となる7月1日現在は随時改定が成立していませんので、算定基礎届*を提出することになります。

この場合、原則どおりに4月から6月に支払われた賃金を算定基礎届に記載し、随時改定が不成立の場合(7月から休業した場合など)は算定基礎届に基づく標準報酬月額が正規のものとして決定されます。そして後日(8月または9月)に月額変更届を提出し、月額変更届に基づく標準報酬月額が決定されます。

  • * 算定基礎届には「8月(9月)月変予定」と記載しておきます。

●算定基礎届の訂正方法

例えば、Aさんの欄に誤ってBさんの賃金額を記載してしまったときなどは、Aさんの欄を二重線で抹消します。そして、算定基礎届の最後に余白があればそこへ書き直し、余白がない場合は白紙の算定基礎届に記載します。

白紙の算定基礎届は年金事務所にあります。また、日本年金機構のホームページからダウンロード(下記リンク)することもできます。

また、提出後に記載ミスに気づいたときは、訂正して再提出することになります。この場合記入欄には、誤って記載した部分を朱書きし、その下に黒で正しい記載をします。また、添付資料として賃金台帳などを合わせて提出します。

算定基礎届のダウンロード(日本年金機構ホームページ)

●算定基礎届の提出を忘れてしまった場合

算定基礎届の提出は、9月を過ぎると正しい保険料が納付できません。速やかに算定基礎届を作成して提出しましょう。

この場合、健康保険や厚生年金の保険料は暫定的にこれまでの標準報酬月額をもとに計算され、管轄の年金事務所から文書や電話等で督促があります。保険料の差額調整などの作業が発生してしまうので、算定基礎届は期日までに提出しましょう。

●算定基礎届に氏名が記載されていない人がいた場合

算定基礎届は7月1日現在の被保険者を対象としています。算定基礎届には5月中旬までに届け出のあった被保険者が記載されているので、5月下旬に被保険者資格取得届を提出したときなどは、算定基礎届に記載されない場合があります。その場合は、算定基礎届の余白などに氏名や生年月日などを手書きすることになります。

また、既に退職した人なども手続が未了の場合は算定基礎届に名前が記載されていますが、この場合は「〇月〇日退職」と記載します。

●育児休業や病気休職などの長期休職者がいる場合

長期休職者(4月から6月まで全く賃金が支払われていない場合)は、「保険者決定」となり、従前の標準報酬月額がそのまま適用されます。

また、5月や6月に復職した場合などは保険者決定とはならず、5月と6月の平均、または6月の賃金額で標準報酬月額を決定します。備考欄には、「休職中」あるいは「〇〇休職5月復帰」など記しておきます。

●特に4月は賃金改定、新規採用の確認を

また、4月から6月に支払われる賃金に改定があるかどうか、新規採用者、退職者のあるなしをあらかじめ確認しておきましょう。特に4月は役職手当や通勤手当、家族手当の変動がよくあります。従って、定時決定で処理するのか随時改定に該当するのかの判断が必要です。また、被保険者資格の取得や喪失の手続に漏れがないかも確認することをお勧めします。

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